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狂科学者の洋館

「おい、ユメ、どうする?」


 ヒロイが訊いてくる。


「このままだと埒が明かないぜ」


「とりあえず、話くらいは聞いてみましょうか。見込みは薄いけど、あいつに『今後悪事を働かない』って約束させれば北伐としては進むわ」


 ユメはそう結論付け、謎の存在の招待を受けることにした。


 その旨を告げると、白衣は不意に言う。


「……そう言えば、吾輩の名を聞いていたね。ナパジェイにいた頃は『ツーコン・ポー』と名乗っていたことを今思い出した。実験体以外に誰とも接しなかったから長く使うのを忘れていたが、呼ぶのに不便ならそう呼ぶと良い」


 ツーコン・ポー。それがあの狂人の名前らしい。


「じゃあツーコン、さっそく質問させてもらうけど、この蟹、どうするつもり?」


 ユメが問いかけると、ツーコンは何でもないことのように白衣の中から瓶に入った不気味な暗緑色の液体を取り出し、足元、つまり巨大蟹の死骸にポトリと垂らす。


 すると、巨大蟹はススス……と小さくなっていき、サワガニくらいの大きさになり、ツーコンの手のひらの上に収まった。


 なるほど、こんなことができるのなら空から突然降ってきたように現れたのも納得である。


 自身はレビテーションか何かの魔法で浮き、上空で蟹を巨大化させて降らせたのだ。


 しかし、ツーコン自身の戦闘力はどうなのだろうか。少なくともあの蟹との戦闘を間近で観ていて、全く危機に陥った様子もないのだから、それなりには動けるのだろう。警戒は緩めてはならない。


 ツーコンはさっきの小さくなった蟹を無造作に白衣のポケットにしまうと、


「約束は守ろう。君たちを我が研究所に招く。そして我が実験体の相手をしてくれたまえ。成果次第では君たちの言い分も聞こうではないか」


 そう言って勝手に森の奥にすたすたと歩いて行ってしまう。


「あ、待って」


 女子力バスターズ六人は慌ててツーコンの後を追った。


「ユメお姉ちゃん、いいの? あんな変な人に着いて行っても。お母さんも『変な人に着いていっちゃいけません』って……」


「大丈夫、すでにスイちゃんは充分変な人に着いてきてるから」


「ふうん……」


 スイは納得がいっていないようだったが、これ以上言っても仕方がないだろう。



 歩くこと数時間。やっと森を抜けた。


 木々に覆われ鬱蒼とした雰囲気を通り過ぎて見晴らしがよくなるかと思ったが、そういう爽やかな気持ちを吹き飛ばすものが目の前に鎮座していた。


 真っ黒い洋館だ。


「さあ、ようこそ我が研究所へ。まずは有望な人間の魔術師の脳に触手を生やした吾輩お気に入りのウィザーズブレインと戦ってもらおうか。それとも、ありとあらゆる固体を溶かしてしまうため魔法で空中に浮かせて保管しているスペシャルスライムの方がいいかね? 他にも色々いるぞ」


 ツーコンが自分の洋館を前にそんなことを言いだす。


 フードの奥から聞こえる声には一切の冗談が籠っておらず、本当にユメたちにそいつらと戦わせるつもりなのが分かった。


「待って待って、戦う前に『対話』って選択肢はないの?」


「君たちは吾輩が実験体と戦わせるために“用意”したのだぞ? そして、対話する価値を見出したら対話に応じる、そう言う話だと思っていたぞ。言っておくができるだけ強い実験体と戦ってもらうからな。せいぜい早めに壊れないでくれたまえ」


「じゃあテメエが作った実験体の中で一番強い奴を出しやがれ。そんであたしらが勝ったらとっとと話に応じろ」


 ヨルがそう言うと、ツーコンは顎に手を当てた。フードを深く被っているせいで顔はまるで見えないが、どうやら眼鏡をかけているらしいことだけは微かに見て取れる。


「吾輩の最高傑作は、残念ながら逃亡してしまった。君たちが昨日城に連れ帰ったゾーエウルフだよ。彼の力は作った実験体の中では最高だった。だからこそ、最高の強度を誇る檻に閉じ込めてもその牙で嚙み砕かれて逃がしてしまったのだが。翼も拒絶反応を起こさず接合できた。おまけに人としての知能まで引き継いでいたのだから実に興味深い。君たちは自分で遠くに引き連れていきながら、あれと戦いたいというのだね?」


「ちっ、なんてこった。あいつそんなに強かったのか」


「ケンカ売らなくて正解だった」


「……じゃあ二番目で」


 ヨルやヒロイが文句を言っている中、ハジキが珍しく口をきいた。

世界観補足

人名の由来

ツーコン・ポー:ポンコツの逆さ読みから。ポンコツであるとも言えるし、言えないともいえるキャラを狙って命名。

モンスター名由来

ウィザーズブレイン:同名のライトノベルから。この小説では脳だけで生きている魔法使いの魔物。

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