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決着! ヒロイVSヨル

 ユメは高らかにヒロイへの補助魔法を唱える――!


「援護行くよ! アース・プロテクト!」


 これは、土の力で防御力を上げる魔法。


 唱えた途端、ヒロイの体が黄色い光で覆われ、ユメの親指と人差し指で挟んだ黄色の宝石が消え失せる。


「エア・スピードアップ!」


 続いて、風の力で動きを速くする魔法。

 

 今回の補助魔法の中ではこの魔法が本命だ。緑柱石とも呼ばれる緑色の宝石が、ヒロイに効果を発揮した瞬間に消える。

 

 正直、ここまでしないとヒロイがヨルの速度についていけなさそうなのも事実だ。


「キュア・ライト!」


 この魔法は唯一神教の神官などがよく使う癒しの光魔法で、ユメが持っていた真珠に似た宝石が、ヒロイの傷が癒えると同時に溶け消える。


(これも割と奥の手だったんだけどな・・・)


 そう思いつつもユメは次の魔法の詠唱に移る。


 正直、ここまで誰かに補助を積みつつ、回復魔法まで混ぜて使ったのは初めてだ。


 いくら宝石から力を借りて行使しているとはいえ、ユメの額に汗が一滴つたる。


「へえ、そっちの魔法使いはなかなかやるね」


 ヨルがユメに賞賛の言葉をくれる。だが、目はヒロイから外していない。


 ユメの汗が顎から落ち、地面に着くかどうかというタイミングでヨルはまた仕掛ける。


 そのタイミングを、ヨルが三度ヒロイに肉薄する瞬間を、ユメは待っていた。


「今だ! バインド・ミスト!」


 薬指と小指の間に一つ残っていた青い宝石が光を放ち、消える。


 ユメが最後に唱えたのは水の阻害魔法で、敵の周りの水蒸気を一瞬重くして動きを鈍らせる魔法だ。


「ちっ」


 これには流石のヨルも不意を突かれたようで、ヒロイへの右手での攻撃を外す。


「バインド・ミスト」は本来回復などに使われることが多い水の魔法の中でも、ユメのとっておきで、本当にやばい敵から逃げ出そうとするときくらいにしか行使を想定していなかった。


 これでヒロイが決めてくれないと本格的にまずい。


 ヒロイはユメの魔法の補助を受け、致命傷を避け、さっきよりも素早い動きでヨルの攻撃をいなし続けた。


 そして、次の行動が彼女――ヒロイの切り札だったのだろう。


 一瞬、ヨルの視界からヒロイが消える。


「なに、どこだ?」


「ここだよ!」


 ヒロイは翼を使って飛び、真上から攻撃した。


 そう、ヒロイは竜人。瞬間的とはいえ、人間と違い、飛べる。


 狙ったのは、脳天。


 ガツッ!っと鈍い音を立て刀の柄でヨルの頭のてっぺんを強かに打ち付けた。


「がっ、あ」


 これにはヨルも堪らず、その場で下手な舞を舞うようにふらついた。その両手から二本のショートソードが落ちる。


 ヒロイは容赦なく、地面に降り立ってすぐに尻尾でヨルの横っ腹を殴りつけた。


 すると、ばたり、とその場に倒れ、動かなくなった。


「ユメ、助かったぜ、あんたの補助魔法。ほら、ロープくれ」


 決着がつくとすぐに、ヒロイはユメの方を向いてそう言った。


「そんなの持ってきてないよ。そういえば忘れてたね」


 ユメがそう返すと皮鎧のあちこちに傷ができたヒロイはこともなげに、


「じゃあさっきこいつが殺した物乞いがいたろ。あいつの服を引っぺがして縛るぞ」


「やだなあ、けど仕方ないか」


 ユメはいやいやながらもすでにただの屍に成り果てている物乞いが被っていたぼろきれを剥ぎ取り、ヨルが目を覚まさないように祈りながら、まずは腰の辺りと両手を縛り上げた。


 そうしている間にヒロイが物乞いのズボンを脱がせてきたので、それで脚を縛る。


「あとは……こいつプライド高そうだったから念のため。このっ、乙女の柔肌を傷だらけにしやがって」


 ヒロイは物乞いをパンツ一枚の姿にして、その上着でヨルに猿轡を噛ませた。


 これで万が一にも舌を噛み切って死ぬこともできないだろう。


 ショートソード二本と、腰から下げていたナイフと宝石袋は押収してやった。


 中を見ると思ったより高額な宝石が入っており、彼女がこれまでどれほどの強敵を返り討ちにしてきたかが伺えた。


「さて、あとはこいつをこのまま治安維持局へ突き出せば依頼完了か。ああ、報酬は山分けだからな」


「えー、わたし宝石ヒロイちゃんのために使いまくったんだけど」


「結局、勝負を決めたのはアタイだ。取り分決めてなかったから山分けって言ってやってるんだぜ」


「炎はわたしのだかんね」


「あ、そういや、さっきのゴブリンとホブゴブリンの分の宝石返せ。あれはアタイの分だ」


 そんなやり取りをしているうちに、ヨルが薄く目を開けた。


 口は利けないが、全身全霊の憎しみを両目に込めて睨んできている。そんな様子だった。


 そこへ。


「おいおい、あの女辻斬り、やられちまってますぜ」


「こっちはせっかく助っ人まで連れてきたってのによお」


 中年の、冒険者風の男が三人、ユメとヒロイがヨルを捕縛した現場にやってきた。


 後ろに、角が生えた身長二メートルはありそうな大柄な浅黒い肌のモンスターを連れている。


 食人鬼(オーガ)だ。あれがおそらく「助っ人」とやらだろう。


「姐ちゃんら、どんなペテンで捕まえたのか知らねえが、そいつをこっちへ渡してもらおうか」

世界観補足


食人鬼:文字通り、人を食う鬼。討伐依頼も多く、初心冒険者の一つの壁。

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