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謎の翼の生えた狼

今日の書き溜めができたのであげておきます。

 起きた異変、それは。


 一匹の狼が現れたのだ。


 のそりと顔をのぞかせたその生き物が、ただの狼でないことは明らかだった。


 なにせ、翼が生えていたのだから。


 なんと呼べばいいのかわからないが、その羽狼はこちらをみるとすぐに森の奥へ引っ込んでいった。


「おい、ヨル。アタイは今幻覚でも見たのか?」


「いや、あたしにもたしかに見えた」


「なあ頭脳労働担当、あんなモンスターの情報は持ってるか?」


 ユメも衝撃から立ち直れないまま、ヒロイから話しかけられる。


「ううん、しらない……、オトメちゃん?」


「いいえ、わたくしも存じませんわ。司祭様からもあのような魔物が居るという話は……」


 ユメたちが混乱していると、さっきの羽狼が身を隠した森の奥からなんと人の声が聞こえてきた。


「……あっぶね。まさか人がいるなんてな」


 他に人がいる様子はない。間違いなくあの狼が言葉を発しているのだろう。


 そういえば大陸に伝わる民話にとある秀才が虎になってしまう話がなかっただろうか。


 とりあえず、コンタクトが取れるなら取っておきたい。もし、人に害をなすつもりなら退治せねば。


「あ、あの……、狼さん? 話ができるなら話さない?」


 他の誰もそうしようとしなかったので、ユメが森の奥に少し進んで話しかけた。


 すると、ガサリ!と怯えたような物音が草むらから響き、しばしの静寂が訪れた。


「いい、スイちゃん? 好奇心で近づかないでね? ハジキちゃんもとりあえずで撃つのはまだ待って」


 ユメはまだあの羽狼を見ていないであろう面子にも釘を刺しておき、さらに近づいて声をかけてみる。


「わたしたちはナパジェイ本島の冒険者です。昨日コンサド島に来たばかりで何もわからないの。あなたみたいな生き物はこの島では珍しくないの?」


「んなわけあるか!」


 羽狼はこっちに敵意がないと分かったからか、自ら姿を見せ、自分のことを話し始めた。


「俺だって最初からこんな姿だった訳じゃねえ。されてしまったんだ」


「じゃあ、その翼は後から誰かにつけられたのね?」


「羽根は大した問題じゃねえ。飛べるし便利だからな。まず人間じゃなくされちまった事の方がよっぽど問題だ」


 ユメは相手の言い分を聞いて、まず、この存在が元は人間だったことを知る。


「人間だった頃はどうしてたの?」


「ああ? あんたらと同じ冒険者だよ。ゾーエで一旗揚げようと上陸して北の森を抜けたあたりで捕まったらしい」


「じゃあどうしてそんな姿に?」


「実験だよ。このゾーエには人間の脳を手当たり次第に色んな動物やモンスターに移植してる奴がいるんだ。俺はその数少ない成功例って訳だ。他の連中みたいに失敗して完全に人間じゃなくなっちまった方が幸せだっただろうけどな」


 どうやら、この羽狼は元は人間で、脳を狼に移植されてしまったらしい。そして、ほとんどの場合は人間としての人格は残らなかったが、不幸なことにこいつは残ってしまった……と。


 そして、さらに非人道的なことに翼まで移植されて、もう何が何だかわからないものにされて、この森を彷徨っている。と、こういうことか。


「誰? 誰があなた、いえあなたたちにそんなひどいことを? 人間? 魔族? それとももっと他の種族?」


「知らねえよ、俺は奴の種族も、名前も、性別さえも知らねえ。この体になって幸か不幸か前よりも力は強くなったから檻を破って逃げ出してきて後は森の中だ」


 とにかく、ユメたちには目的が一つできた。


 この森を抜けたところに居る、こんな非人道的な実験を繰り返している奴を止めること。いや、「殺すこと」にした方がいいだろうか。


 スターホールの城から北伐した冒険者が誰も帰ってこない理由も想像がついた。


 おそらくそのマッドサイエンティストだかなんだかに捕まって、実験材料にされているのだろう。

世界観補足説明

大陸に伝わる民話にとある秀才が虎になってしまう話:もちろん、「山月記」のこと。

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