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北伐開始

 運よく、スターホール城は制圧できた。ここまで撤退できれば誰か一人が帰還でき、後はリモーアまで帰れるので誰かしらが失敗の旨を帝都に報告してくれるだろう。


 もし、誰か一人生かすとしたら、それはスイがいいだろう、とユメはぼんやり思った。


 数年の差とはいえ、この子には私たちにはわたしたちより幼くして冒険者になった経緯がある。それに帝都に待っている親たちもいる。


 仮にも大人として、子供が先に死ぬような状況は絶対に避けなければならないのだ。


「おいユメ、そのキノコもう焼けてるぜ。食わないならもらうぞ」


「え? ああ、どうぞ」


 こっちの気も知らない呑気なヨルに言われて、香ばしい匂いを放っている焼きキノコの串を譲る。


 もちろん、誰も死なせたくない。アストリットも含めて。


 だが、女子力バスターズのリーダーとしていつかそんな判断をする日も来るのだろうか。


 今日はもう眠ってしまいたい。

 こんな不安に押しつぶされそうになるくらいなら眠っていた方がマシというものだ。



 翌朝。


 ここ数日はずっと馬車での荷車の中だったので、六人は久しぶりに広々とした布団で目を覚まし、冒険の準備をした。


 宝石と、保存食と、武器。あと必要そうなものは、今日はない。


 なぜなら探索を一日で切り上げて今日の夜のうちにこのスターホールの城に帰ってくるつもりだからだ。


 ちなみに昨日ざっと見まわしてみたところ、この城より北は鬱蒼とした森になっている。当然ながら街道などはない。


 ゆくゆくはあの森も一部伐採して、安全に通れる道にしなければならない。


 しかし、その森の危険度がまるで分からないのだ。

 ナパジェイ本島で出てくる程度のモンスターが出るかもしれないし、森に集落でも作って自治権を主張している民族がいるかもしれない。


 その場合は交渉の余地があるのか、ないのか。共存の意思はあるか、ないか。そもそも言語的に、会話になるかどうかすら出会ってみないと分からない。


 とりあえず、城に残っている腰抜け冒険者ども以外は北に向かい、そして帰ってこなかったというので、危険なのは間違いないだろう。


 ……と、ここまでの状況整理から、まずは一日の行軍を決めたわけだ。


 半日かけ、森を北へ向かい、また半日かけて南に戻り、城で休む。それが今日の予定だ。


「さて、行くわよみんな」


 ユメが城門で全員に声をかける。


 留守番たち六人は、言葉もなく、並んでユメたちに敬礼していた。よしよし、教育は行き届いている。


「暗くなるまでにはこの城に帰ってきてえな」


 ヨルが言うとヒロイが応えた。


「ああ、夜にあの森で迷わない自信はねえ」


「いくら魔法の明かりがあっても、ここを探し当てて帰って来れる保証はないぜ」


「それは、木に印でもつけながら進めば戻っては来られると思う」


 ユメがそう提案する。なるべく歩きやすい道を選んで、その両脇の木の幹に切り跡を残して進むのだ。帰りはその跡を辿ればよい。


「ユメお姉ちゃんって頭いい~!」


 スイが無邪気に褒めてくれる。

 悪い気はしないが、少し馬鹿にされている気もする。


 まあ、どこかの童話のようにパンくずを目印にするよりは賢いやり方だろう。


「……いい加減、出発しない?」


 ハジキが珍しく急かしてくる。なまじ、昨日歯ごたえのない相手に撃ったせいで余計に銃撃ちたい欲求が強くなってしまったのかもしれない。


「じゃあ、レッツ、ゴー!」


 六人は森へ入って行く。


 もちろん先頭は刃で印をつける役のヒロイとヨルだ。


 そして、なにかあったときに即声がかけられるようにユメ、回復できるようにオトメ、後衛にはスイ、ハジキが続く。


 最初は森の動物たちもおとなしいもので、特に危険もなく進むことができた。


 しかし、昼を過ぎ、保存食を食べるためにいったん休憩しようとしたときに異変は起きた。

世界観補足説明


パンくずを目印にした童話:「ヘンゼルとグレーテル」のこと。ヨーロッパの話もナパジェイが鎖国する前には少しづつ伝わっていました。時代考証が合わないところには目をつぶってください。

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