ソードブレイカー
またまたお待たせしました。
少し怪我をしておりまして、ようやく快方に向かってきました。
「まさか、実まで使わされるとはね」
アストリットはそう言い、ナイフを持っていない方に持っていた木の実のようなものをかじり始めた。
すると、アストリットの体が光に包まれる。わずかながら、体力が回復したようだ。そして、その実の種を地面に捨てた。
バゴン!と音を立ててとっくに石畳など残っておらず、土がむき出しになっている地面から何かが生える。
アストリットが最後に実として持っていた種が発芽したのだ。
やはりこれもウッドフォークだ。しかし他のウッドフォークより一回りは大きい!
「げっ!」
さしものヨルも、その大きさに圧倒される。
しなる枝が鞭のようにヨルに迫った。
しかしその枝がヨルに届くことはなかった。
ユメがすかさずウィンドカッターの魔法を飛ばし、根元から切り裂いたからである。
さらに女子力バスターズのあがきは続いた。
なんと、気絶したと思い込んでいたヒロイが刀を大きなウッドフォークの足に突き立てたのである。
後で聞いた話、ヒロイが腰に持っていた赤の宝石で、気絶したと見えたオトメが世にも珍しい炎の回復魔法、というか復活魔法「フェニックス」をかけてくれていたらしい。
「これで奴は動けねえ! 一発ぶちかましてやれ!」
「よし、ナイスだヒロイ!」
ヨルが巨大ウッドフォークに剣戟とメイスによる打撃を撃ち込む。
それでよろめいた大ウッドフォークに、ユメが、スイから受け取った儀礼用のナイフに嵌め込まれていた宝石から最後の炎の魔法を使う!
「フレア・ボム!」
ヨルは巻き込まないつもりだったが、さすがに近くにいたため、ヨルまで炎で包んでしまった。
すぐにヨルはウッドフォークに刺さったままの剣を離し、水びたしの地面に転がって自分を焼いている火を消した。
しかし、そこまでだった。疲労困憊のヨルは大の字に無防備に寝転んでしまい、気を失った。
「さて、これで会場で立っているのはわたし達ふたり。決着を付けましょう、アストリット」
歩みを進めてユメは言い、アーミーナイフを構えた。
「信じられないわ。ここまで切り札を使いまくったのにまだ全滅しないパーティがいるなんて」
アストリットも応え、ナイフを構えた。
間近で見て、ようやく判ったが、彼女のナイフは鉄製ではない。
どうやら石を削りだして作ったもののようだ。材質は、黒曜石だろうか。
エーコ少将がそう言っていた上に、予選をナイフ一本で勝ち抜いたなんて実況が言っていたのでてっきり鉄製だと思っていた。
やはりエルフは鉄などを不自然物と嫌い、戦いにも使わない様だ。
ユメの手持ちの宝石の残数はゼロ。
もちろん財産は財産として魅惑の乾酪亭に置いてきたので無一文になったわけではないが、もうこの戦いで使える魔法はない。
『なんとーーーっ、決勝戦最後の戦いはなんと一対一のタイマンとなりました! 準決勝で見事な体術を見せたユメ選手ですが、予選をナイフ一本で勝ち抜いたアストリット選手に勝てるのか!? どう見ますか!? 解説のトモエさん!!』
『お互いに力は残っていないわね。後はガチの斬り合いよ、何も言うことはないわぁ』
「行くわよ!」
アストリットが先に仕掛けた。
このとき、ユメの脳裏には幼い頃、自分に剣術を教えてくれた父が旅への出発間際にこのアーミーナイフを渡してくれた時のことが思い出されていた。
「いいか、ユメ、このナイフはパパが若い頃サブウェポンとして使っていたものだ。このナイフの神髄は刃の方ではなく峰にある。峰で相手の刃を受け止めてへし折ることに使うんだ。お前はあくまでママが鍛えた魔法使いだ。下手に敵と刃を交えたりするんじゃないぞ」
そして、その言葉を思い出したユメはアーミーナイフの刃と峰をくるりと回し、アストリットの斬撃を受け止めた。
そう、ユメのアーミーナイフは峰の一部が櫛状、いわゆるソードブレイカーになっているのだ。
「なっ!?」
削りだして刃にしたであろう石のナイフをユメのアーミーナイフの峰の隙間に食い込まされたアストリットは動揺の声を漏らした。
「もらった!」
ユメは叫び、アーミーナイフを回転させる!
バキン!と音がし、アストリットの石のナイフは真ん中あたりで折れた。
世界観補足説明
魔法説明
フェニックス:復活魔法と書いていますが、実際は炎の熱で気絶した者の意識を取り戻す高位魔法。すでに死んでいる者は蘇りません。




