アストリット、圧勝
今回は切りどころが難しかったので短めです。
実況も知らなかったらしいエルフ娘の素性がやはりハイテンションに紹介される。
『今情報が入ってきました! チーム・バルバロイに対するはソロの冒険者、エルフのアストリット、アストリット選手です! 予選をナイフ一本でクリアした実力者のようです! しかしここからは本戦! 解説のトモエさん、お待たせしました! このカード、どう見ますでしょうか!?』
『あら、可愛らしい選手ねえ。ナパジェイ生まれじゃなくて大陸から渡ってきたエルフのようね。予選では実力を見せていないように見受けられるわ』
『あの~? チーム・バルバロイに対しても何か一言を……』
実況とトモエがそんなやり取りをしている間も女子力バスターズの六人は周りからサインと握手をねだられ、まるで試合会場の様子が伺えなかった。
『とにかく、第三試合、かあああああああいしッ!』
『さて、エルフというのは森の神秘を知り尽くし、自然と共に戦う種族だけど。弓じゃなくてナイフとはねえ』
『チーム・バルバロイ、五人全員でアストリット選手に突貫していきます。一瞬で勝負を決めるつもりのようです! 対してアストリット選手、まるで動じません!』
ユメにはエルフの知り合いがいないので、あのエルフ少女がどのように戦うのか是非観たかった。
しかし、ファンに取り囲まれてもみくちゃにされているこの状況ではまるで試合が見えない。
やがて、無碍にするのも可哀そうだと相手にしていたファンたちがそろそろはけてきた頃、
『決まったああああああああああっ! アストリット選手、チーム・バルバロイをあっという間に下してしまいましたあああああああ! いったいどうやったのでしょう!? 解説のトモエさん!?』
『森秘魔法ね、人間が使うゴーレムに近いわ。ウッドフォークを同時に大量召喚して、モンスターたちを殺さない程度の力で一撃の下に倒した後、一瞬で召喚解除したのよ。皆の目には何もせずにただチーム・バルバロイが吹っ飛んだように見えたでしょうね』
『な、な、なんとおおおおっ、まさかの結末に終わりました! 勝者はアストリット選手です!
誰がこんな結末を予想したでしょうかあああ!?』
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ」
『女子力バスターズにも負けるとも劣らない歓声が勝利したアストリット選手に注がれておりますうううう!!』
どうやら、決着がついてしまったらしい。
ユメはなんとなくあのエルフの少女が圧勝するような気がしていたが、それにしても観たかった。
「あーあ、観たかったぜ、試合」
サインも握手もみんな断っていたヨルがぽつりとそんなことを漏らす。
逆に、スイはサインして握手して、希望者にはハグまでさせていたので長蛇の列ができていた。
「…………」
黙って握手だけに応じているハジキ。それでもまだ列は途切れない。
「い、いえ、わたくしはそんな大層なものではありません。ですから……」
一生懸命観客に自分の価値のなさを説明しているオトメ。
ヒロイはなんと観客の一人と刀を交えていた、手を抜いているのは傍目にも明らかで、刀を鞘から抜いてさえいない。あの観客の相手さえしていればサインも握手もしなくていいと思っているのだろう。
ユメはやはり衛兵の言う通りにしておけば良かったと後悔した。
控え室からでも見えにくいが一応試合は見える。あのエルフの少女――アストリットとか言ったか――が如何に戦ったか、やっぱり見たかった。
「はーい、ここまで!」
ユメはパンパンと手を叩いて、皆に控え室に戻る旨を告げる。
まだしつこく並んでいた観客からは不満の声が出たが、やはり、自分たちはこれ以上ここにいるべきではないと思ったし、何より次の試合が控えている。無駄な体力は使わないに越したことはない。
世界観補足
人名の由来
アストリット:適当にドイツ人の女性名で検索してエルフっぽく感じた名前に命名。
チーム名の由来
チーム・バルバロイ:古代ギリシャ人が自分たち以外の民族を「バルバロイ」と呼んだことから。転じて人間扱いを受けていない人種という意味になった。




