意外な展開
少女ばっかり出てくる小説なのに少年漫画のお約束にしてみました。
そして、二か月はあっという間に過ぎ、北部開拓のために六人は久しぶりに「魅惑の乾酪亭」に一堂に会した。
が。
そこからの展開が予想とかなり違っていた。
てっきりコンサド島に渡る直前の本島の北端まで馬車で送ってくれる手配でもしてくれているのかと思ったら、なんと、「トーナメント戦」に出ろ、と言うのだ。
魅惑の乾酪亭のチーズを気に入ったらしいクリスは昼間からワインを呑みながら、集まった一同にこう言った。
「あなたたちには、北伐パーティ選考試合に出て、優秀な成績を残してほしいのよ。国としても中途半端なパーティを送り込んで貴重な臣民の命を無駄に散らすわけにもいかないしね」
「……『自己責任』のナパジェイらしくないやり方ですね」
「今回の話は、送り出す方にも責任が生じるの。生半可な実力のパーティが何回も行ったきりになってるわけだしね。というわけで、ゾーエ地区北伐部隊選考試合が巨塔で明日から行われるわ。別に優勝まで行かなくても選抜隊には選ばれるからまあ気楽にね」
そう言って、クリスはプロセスチーズのおつまみをかじりながら、ワインでそれを流し込んだ。
トモエといい、このクリスといい、どうもナパジェイの魔法顧問は基本的にこんな感じなのか。
どちらにしても、二か月間、ユメとスイはこの曲者な師匠の下で厳しい訓練に耐えたのだ。
それは、ヒロイも、ヨルも、オトメも、ハジキだってそうだろう。一度ワンランク上がった実力でパーティの連携を実地で確認しておくのも悪くない。
「わかりました師匠。明日ですね」
「すでに冒険者な先輩たちが小生意気な新人を潰そうと必死になってくるから、頑張ってくるのよ」
ユメは初めてキョトーの街に来た時、大通りで酒場に入ったとき、自分を「新米だ、一人者だ」とあしらった連中を思い出し、闘志を燃やし直したのだった。
突如として開催されることになったナパジェイ帝国北伐冒険者選別トーナメント戦。
「まあさすがに何の説明もなしじゃあ戸惑うでしょうからある程度の説明はしてあげるわ。まずこのトーナメントはチーム戦。六人までのパーティ戦よ」
ワインで酔いが回って良い気分なのか、昼酒をかっ食らっているクリス・ショウ魔法顧問が頬を染めながら言う。
「それと、なにもこの試合で優勝しなきゃ北伐させません、なんて訳じゃないの」
なんでも強力な冒険者たちがキョトーから完全に出払ってしまうと却って危険になり、反抗勢力が行動を起こす格好の機会となってしまうからだとか。
「だから、戦闘で死人が出そうになったら待ったがかかるわ。もし相手がモンスターでも宝石目当てにむやみに殺さないでね」
帝都にも戦力を残しつつ、できるだけ強い冒険者を北伐に差し向けられるよう、キョトーの冒険者の戦力を把握するために行われるのだ。
つまり、このトーナメントで好成績を残しても確実に北伐に参加できるとは限らないのである。
「国としては、せっかく北伐するからにはこれまでみたいな無駄死にや行方不明ばかりじゃなく、ちゃんとした成果を挙げてもらいたいのよね」
北伐参加に選別される冒険者チームはこのトーナメントを勝ち抜いた者たちと決まっており、ユメたち女子力バスターズは北伐したければ必然的に参加せざるを得ないわけだ。
「ちなみに今日の正午から巨塔一階奥のコロシアムで開始だから、朝食はしっかり取っておくことをお勧めするわよ」
それを聞いて、ユメは師匠たるクリスも根っこのところはあのトモエとそっくりなんじゃないかと思えてきた。
「正午!? あと四時間ほどじゃねえか! みんな武器とか宝石とかそういうもんは万端か?」
「ああ、ごめんなさい。それは予選だったわ。あなたたちはシード扱いで予選はパスだからさっき言った通り明日からよ」
ヒロイの慌てた台詞にマイペースにクリスは言う。
これは相当酔っぱらっている。初めて見る師の酔った姿にユメは呆れた。
元々、このままの流れで北伐に出発するつもりだったので、仮に「今から戦え」と言われても宝石が足りないとかそういう心配はない。
ユメとスイの宝石袋にはたっぷりと戦い用の宝石が詰め込まれている。
心配していたのはコンサド島にはモンスターがおらず、倒しても宝石を落とさない野蛮人だらけだったときのことだ。
もっともコンサド島には野蛮人しかいないという考え方自体がこれからナパジェイの領土にしようという土地への偏見なのかもしれないが……。
世界観補足説明
ワイン:ナパジェイでは稲作が盛んなので主に飲まれている酒は米酒ですが、コウシュー(山梨)あたりの果実栽培が行われている土地ではブドウワインを中心とした多くの果実酒が作られている。ただし収穫量は大陸、主に欧州に比べれば少ないのでナパジェイでは高級嗜好品。




