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わたしに足りないものって?

しばらく隔日投稿くらいになるかと思います。ご了承ください。

「上司が失礼した。ユメ・ステイツくん、だったね。娘が世話になっている」


 部屋の中に二人いた魔法顧問の男性の方が先程のトモエの行為について謝ってくる。


 真っ黒いスーツに、いかにも伊達者が被っていそうなシルクハット。彼がスイの父にしてリッチのクォーツ・ショウだろう。


 ユメはリッチを見たのは生まれて初めてだったが、母からその存在を教えられた時は、まさか敵ではなくパーティメンバーの父として出会うとは思いもしなかった。


「スイ、元気そうで安心したわ。ユメちゃん、今日はよろしくね」


 こちらはダークレッドのローブに身を包んだ三十代くらいの淑女が挨拶してくる。


 なるほど、スイの母親だと言われると面影がある。


 一般に「娘は父親に似る」などと言われるが、スイは母親似だ。


「なんでも北部開拓に行きたいから鍛えて欲しいだとか。正直、母親としては娘を冒険者になって一か月でそんな危ないところに行かせたくないものだけどね」


「ああ、それは、その。酒場に来る依頼だと物足りなくなってきまして」


「まあいいわ。その代わり、教えを請いに来た以上、二人とも指導に手は抜かない。指導中に死んだら『自己責任』ね」


 ナパジェイの魔法顧問らしく、国是を言うと、さっそく訓練が始まった。


「まず、得意とする属性の中で一番威力の大きい魔法を使ってみなさい」


 ユメにとって一番得意な魔法は炎属性だ。その中で一番威力が大きい魔法と言うと……。


 赤のB級宝石を取り出し、ユメは魔法を発動させた。


「バーニング・バーストッ!」


 詠唱と共に炎の玉がユメの手のひらから飛んでいき、巨塔の壁に炸裂すると轟音と共に爆発が巻き起こる。


「ふむ……」


 ユメの魔法を見たクリスは顎に手を当て、少し考える仕草をした。


「あなたに魔法を教えた人はとても優しい人だったのね。そして、自分の代わりに敵の血をその身に浴びてくれる人がいつもすぐ近くにいた」


「え?」


 思いがけないことを言われて、ユメはクリスの顔をまじまじと見てしまった。


『母が自分の代わりに敵の血を浴びてくれていた人物』とはおそらく父のことだろう、しかし、そんなことは今は重要ではない。


「魔法に殺意が籠ってないわ。食らった相手は結果として『死ぬ』だけ。『殺す』魔法じゃない。せいぜいが、『壊す』魔法ってところかしら」


「なっ! わたしの魔法に敵を殺す力が足りないっていうんですか!?」


「ええ。その一点においては私がスイに教えてきた魔法の方が上ね」


「そんな……」


「言っておくけど、それはあなたが魔法使いとしてスイより劣っているという訳じゃない」


 クリスは少し言い過ぎた、という表情になって、ユメに先程使ったのと同じ価値の赤のB級宝石を渡した。


「要は方向性の問題なの。今後、敵を殺す、という目的で魔法を使いたいなら私が今からあなたが今まで得てきたものを捨てさせてでも鍛え直してあげる」


「…………」


「本音を言うと、おすすめはしない。あなたは今の魔法の使い方が一番いい。仲間のために、仲間がうまく戦うために魔法を使うのがあなたに魔法を教えた人の望みなのだろうから」


「…………」


「今のあなたにはスイがいる。スイには、私が『相手を殺す』ための魔法を教えてきたのだから。だから無理して自分を変える必要はない。仲間を信じて仲間のために魔法を使う魔法使いになればいい」


「でも、わたしは、強くなりたいんです!」


「例を見せた方が分かりやすいわね。スイ、このC級の赤の宝石で『敵を殺せ』と言われたらなんの魔法を使う?」


火葬(クリメイション)!」


 スイが魔法を唱えると、そこには誰も居なかったが、火球がその場で停滞し、おそらく敵を焼き殺すまで消えないであろう時間燃え続けた。


「そう。殺戮を行うならさっきみたいに威力だけ大きい魔法より敵一人を確実に殺す魔法を使う方が効率がいい」


「それなら、わたしは補助に徹してろっていうんですか?」


「臨機応変よ。魔法には他人の魔法の効果を高める魔法もある。それを仲間に使った方がいいときもある。あなた自身が攻撃した方がいいときもある」


「それなら、わたしはここに何をしに……」


「二か月ね」


 こともなげに、クリスは断言した。


「あなたとスイを北部開拓へ向かわせられるくらいに鍛えられる最短期間。その間にあなたたちパーティが国公認で北部開拓させるミッションを出せる様手配するわ。もちろん、他の仲間たちにもそれ相応の修行をしてもらう」


「そう言って、公務を二か月も遅らせる気か」


 様子を見ていたクォーツが妻に呆れたように言う。


「あら、北部開拓が成ったら国にとって大きな前進よ。書類仕事なんてしてるよりはよっぽどナパジェイのためになるし、それにきっと陛下も喜ぶわ」


 どうやらナパジェイの魔法顧問には強引な人物しかいないらしい。


 なんだかんだと話は進み。ここから二か月のパーティの行動が決まってしまった。


 ユメとスイはクリスからの魔法の特訓。


 オトメはアシズリ司祭を飛び越えて、国お抱えの回復魔法の使い手からの手ほどき。


 ヒロイとヨルは国が用意した師匠――後で知ったことだがエーコ少将だったらしい――の下で剣の修行。


 ハジキはナパジェイ軍唯一の銃士隊の元で訓練。小規模ながら国でも銃の開発は進んでいたとのこと。


 二か月間、皆それぞれの師の元で修業した。

世界観補足説明


魔法の説明

バーニングバースト:ユメが使える炎系の攻撃魔法の中で最強の魔法。ドラクエの「メラゾーマ」や「ベギラゴン」くらいのイメージ。

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