パーティ名決定
ようやく第一章完です。
これで毎日更新はしばらくできなくなるかもしれません。するかもしれません。
数日後。
ユメたちが楽勝だったビワレイクのギルマン退治から帰ってくると、亭主から声をかけられた。
「おい、ユメ。エールを出す前に渡すもんがある。『レミィ・ステイツ』って人からの手紙だ」
「えっ、ママ、もう返事くれたの?」
ユメは亭主から母の手紙をふんだくると、部屋に戻って読もうとする。
が、そこでヒロイから待ったがかかった。
「おいおい、つれないじゃないか。手紙なら乾杯してからでも読めるだろ」
「う……」
「ユメお姉ちゃんってお母さんっ子なんだね」
年下のスイにまでそんなことを言われて、ユメは渋々ながら今日の仕事の乾杯に付き合うことにした。
「あいよ、エール五人分とノンアル一杯ね」
亭主もノリノリで飲み物を持ってきてくれる。
最近はユメたちのパーティのおかげでこの酒場で仕事をするパーティもちらほら出てきて、宿のエースパーティたる皆が無事帰ってきてご機嫌なようだ。
「しょうがないなあ、今日はあんまり呑まないからね」
「あいあい、とにかく乾杯だ」
「乾杯!」
ユメは乾杯してエールに少しだけ口をつけると、チーズ料理を思い思いに頼む皆を尻目にこっそりと母からの手紙を読み始めた。
『愛するユメへ
こちらはパパもママも元気でやっています。……
……ところで、ユメのパーティは全員女の子なのですね。
それなら「女子力バスターズ」なんていうのはどうでしょう?
……
』
「『女子力バスターズ』……」
「あん、なんか言ったかユメ?」
ヨルが空きっ腹に酒を入れたせいか、酔いが回った様子で訊いてくる。
「あのね、ママがわたしたちのパーティ名の案を手紙に書いてきてくれたの」
「へえ、なんて?」
「……ちらっと聞こえた」
「『女子力バスターズ』!」
今度は大きな声で、ユメは皆に聞こえるように告げた。
「女子力……」
「バスターズ……」
「……いいかも、しれない」
「くっくっく……、『女子力バスターズ』ねえ」
「ねえ、よくない? この名前、よくない?」
ユメは皆が目を白黒させているなか、思い切って提案してみた。
「いいんじゃねえか、あたしららしいぜ」
「アタイもいいと思う」
「わたくしは、バスターズはともかく、女子力の部分が気に入りましたわ」
「……うん」
「なんかそれっぽくていいと思う!」
ユメは全員の了承を得られると、こう言った。
「ねえ、もう一回乾杯しよ! 『女子力バスターズ』結成に」
「おう」
「めでたくパーティ名も決まったことだし、乾杯だ」
そして、亭主に新しいジョッキを持ってきてもらうと、改めてユメたちはそのジョッキを鳴らした。
「女子力バスターズに乾杯!」
「乾杯!」
「女子力で、バスター! いいじゃない!」
「わたくしたち、今日から『女子力バスターズ』ですわ!」
あまりに大はしゃぎだったので、ユメたちは気が付いていなかった。
フードを被り顔が見えないようにしていた二人組が、店の奥のテーブルで会話していた内容を。
一人はユメたちもよく知る人物であった。
雄のドラゴンのくせに若い人間の女の姿を取り、怪しげな言動で周りを煙に巻く、トータル・モータル・エルダードラゴン、通称トモエ。
もう一人は、フードを目深にかぶりサングラスをかけた小柄な人物で、種族も、年齢も、性別さえ外見からは不明だった。
「『女子力バスターズ』、ですってよ。こないだのウラカサ討伐の件で、あなたに謁見するまであと三つの依頼になった、期待の新人のパーティ名」
トモエにそう言われた人物は、はしゃぎ続ける女子力バスターズをちらりと見ると、一瞬だけ微笑んだように思えたが、またすぐにふいとトモエに向き直った。
そして、ぼそり、と男とも女ともつかないしわがれた声で、
「あんな低俗な輩を潰したのが、『功績』とはな。まあよい、貴様がそういうなら」
「なら、あと三つね。後日大々的に伝えておいてあげる」
トモエは心底嬉しそうな表情で目の前の人物に返した。
「好きにせい。所詮は余興よ」
だが、フードを目深に被った者は別に不機嫌になった様子はない。この者をよく知る人物ならむしろ楽しんでいるときのものだと分かるだろう。
「……目的は果たした。巨塔へ帰る」
「へえ、つれないのね、へ・い・か」
そう。
このフードとサングラスで姿を隠し、性別さえ相手に伺わせない小柄な人物こそ、ナパジェイを束ねる象徴にして、徹底的に存在が秘匿された皇帝、天上帝である。
次の瞬間にはトモエが軽く口を付けただけのエールの代金分の宝石を残してテレポートで二人の姿は「魅惑の乾酪亭」の奥のテーブルから消えていた。
「ある魔法少女が、差別なきセカイではみ出し者だらけのPTを集めて冒険者として生き抜く物語」
第一章 完
世界観補足説明
天上帝:実は時折巨塔から降りてきて市井の様子を見ている。そのときはフードを被りサングラスをかける。理由は建国戦争に参加していた者たちは素顔を知っているため。




