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決戦! 魔族の男爵

 魔族の男爵は言った。


「全員、死刑以外にはないな」


「最初から!」


「む?」


「てめえを『死刑』に処しに来たんだよ、あたしらは」


 ヨルがウラカサとの距離を詰め、二本の剣で斬りつける。


 ――速い!


 どうやら、ユメが傷を癒してもらっている間にスイが「エア・スピードアップ」をかけたらしい。


 しかし。


「なぜ、勝てないと分かっていて戦いを挑む?」


 ウラカサはどこからかレイピアを取り出しており、一本の剣で、魔法で速度が上がっているヨルの剣戟をかわし続ける。


 いや。

 当たっている。


 ヨルの攻撃はウラカサを時々捉えている。しかし、マントを切り裂くに留まっている。皮膚を傷つけられていないのだ。


「くそっ!」


 一旦距離を取り、上がった息を整えようとするヨル。


 だが、その隙さえ魔族は見逃さなかった。


「死ね」


 レイピアを持っていない方の手から黒い球体を生み出し、相手に向かって放った。


「ぐあっ」


 黒玉をわき腹に受け、吹き飛ぶヨル。


「こんのおー! よくもヨルお姉ちゃんを!」


 ユメの傷を癒し終えたオトメが、今度はヨルの回復に向かう。そして、その間に、スイが魔法の詠唱を完成させ、ウラカサに放つ――!


「グラビテーション!」


 ズン!


 魔族の男爵の周りがベコン!とへこむ。


「ほう、重力制御か」


「今だよ、ハジキお姉ちゃん! ユメお姉ちゃん! 撃ち込んで!」


「分かった!」


 ハジキは返事をする間もなく新しいマスケットから五発連発で弾丸を叩き込んでいた。


 ユメも負けじと自分に使える魔法の中でも最強の破壊力を持つ魔法を詠唱した。

 

 ユメの、切り札中の切り札。B級宝石を六つも消費する金食い虫。最近やたらと稼ぎがいいから試してみるが、母の真似事で数えるほどしか使ったことはない。

 そのうち、成功したことも二回に一回位だ。


 しかし、今なら……。

 幾度も強敵を相手にしてきて成長した今のユメなら――!


(火、水、風、土、光、闇……)


「ミックス・ブラスト!」


 六属性の魔法全ての属性を込めた、七番目の属性。

 属性としては「無」属性に近く、炎と水、土と風、光と闇がそれぞれ打ち消し合う力を破壊力に変える魔法である。

 その名を「混合(ミックス)」といい、高級な宝石を六つも使うことになるが、効果は折り紙付き。


 六色の光の矢が魔族の男爵に飛んでいった。


 この魔法を食らえば、さしものウラカサといえど致命傷を免れないはず――。


 だが。


 撃ち込んだ場所に、スイが重力制御の魔法で奴を足止めした場所に、ウラカサはいなかった。


 なんと、跳んで、ハジキの銃弾からも、逃れていた。


「そんな……、バカなこと」


 放心するユメを尻目にヒロイが刀で斬りかかるが、あえなくかわされる。


「本当に、子供が遊びで来たわけではないようだな」


「ヒロイさん!」


 ウラカサのレイピアがヒロイの腹を刺し貫くのを見て、オトメが悲鳴にも似た声を上げる。ヨルの傷も癒えきっていないというのに、ヒロイまで致命傷を受けてしまった。


「あたしはもういい。ヒロイを治しに行ってやってくれ」


 ヨルが気丈にそう言う。


 オトメは、迷わなかった。白ローブを翻し、おびただしく出血する竜人の少女の元に駆けていくオークの亜人。


 ヨルの回復はスイが引き継いでくれた。

 回復魔法も、教えておいてよかった。「混合」魔法を使った反動で意識がぐらつくユメはそんなことを考える。


 おかげでヨルも、そしてヒロイも一命を取り留めた。


「……くっ」


 苦戦の中、ハジキが舌打ちとも、苦悶とも取れる声を上げる。

 そして。


「……父さん」


「ん? なんだ出来損ない。貴様などに父呼ばわれされる覚えはないぞ」


「……私の命を差し出すから、皆を助けて」


 言って、手持ちのマスケットをすべて地面へ捨てて、ハジキは血縁だけの父の元へ歩いて行く。


「駄目! ハジキちゃん! そいつはそんな甘い奴じゃない!」


「そうだ! やめろハジキ!」


「貴様一人の命が我が同胞全員の命と釣り合うとでも?」


「……分からない。だから『お願い』。……皆を殺すのはやめて」


 言いながら、無防備なまま、丸腰でウラカサの方へ歩いて行くハジキ。


 もう、後数歩で、敵の刃はハジキに届いてしまう。


「愚かな娘よ。私はお前の命、いやお前そのものに価値をまるで見出していない」


 そのとき、ハジキは祈っていた。


(オトメ……、唯一神様……、魔族の私が初めて祈ります。たった一度でいい、奇跡を!)


 心の中で、「自分の中に流れる魔族の血が為す、闇の魔法の才能よ。一瞬でいいから開花して! 皆のために! 初めて出来た友達のために!」と。


「まあ、順番などどうでもよいか」


 余裕綽々のウラカサに、ハジキは産まれてから一度だって成功したことのない闇魔法を唱えた――


「ダーク・ミスト!」


 ユメが何度か使ってみせてくれた、闇魔法の中で一番初歩的な魔法。

 たった一瞬、相手の視界を奪うだけの。


「なにッ!? 貴様、闇の魔法をッ!?」


 そして、奇跡は起きた。

世界観補足


ミックス・ブラスト:ユメが使える中で最大の破壊力を持つ魔法。ただしユメはケチなのでめったに使わない。もちろん、A、S級宝石を用いて使えば威力はさらに上がる。元ネタは漫画「ダイの大冒険」のメドローア。

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