女ガンマン 皆殺しのメロディ
「じゃあ、お邪魔します、と行くか」
ボーンゴーレムをとっくに片付け終えたヒロイが皆に言う。
「放蕩娘があなた方を皆殺しにしにきましたー!
『子供は大事に育てましょう』ってナパジェイの国是を破った罪でーす。
育児放棄は自己責任で行いましょうー、っと」
ドアを開けた途端、ストーンゴーレムが大挙して襲いかかってきた。
「客のお出迎えも自分でやらねえのかよ。つくづくふざけた屋敷だな!」
ヒロイが怒号を上げ、飛び上がると、刀でゴーレムの頭をパックリと切り裂く。
「あー。こりゃ、アタイじゃ効率悪いわ。ユメ、スイ、魔法で派手にドカンと頼むぜ」
「あいあい、行くよスイちゃん!」
「はーい!」
「ナパーム!」
「ハイ・ナパーム!」
「アイシクルランス!」
「ブリザード!」
どうやら、スイはユメが使った魔法より、一段階上の魔法を使おうと心掛けているらしい。
幼く愛らしい対抗心だ。
魔法の連発で館が揺れると、暮らしていたであろう魔族たちが「何事だ!?」とばかりにそれぞれの部屋から出てくる。
数はサガからの情報通り、十人弱。
「ハジキ、あいつらの中にウラカサとやらはいるか?」
「……いない。母、叔父、義叔父、義叔母、叔母、兄二人、従姉二人」
「皆殺しでいいな?」
「……最初からそう言ってる」
ハジキは珍しくむっとした様子で返した。
「襲撃者!?」
「外のゴーレムは何をしていたのだ」
「待て、館内の護衛ゴーレムが全滅している。こいつら意外にやるかもしれないぞ」
「とにかく、ウラカサ様にご報告だわ」
「なんだ、子供ばかりじゃないか。……ん? あれは、まさかハジキ!?」
口々に言っている魔族たち。
言っている間にも、ユメは光の宝石を取り出し、魔法の詠唱を開始していた。
「ハジキちゃん! わたしが魔法を撃った奴を集中砲火して!」
「……分かった」
「レイ!」
バキュン! バキュン!
それで少し幼いめに見えた魔族の女一人を仕留めた。
「ダーク・ウォール」
こちらを手強しと見たか、闇の魔法で壁を作る年かさの男の魔族。
あれがおそらくハジキの叔父だろう。
そんなことを推察している間に、ヨルとヒロイはすでに前に出て、動揺から回復しきっていないハジキの兄と思しき魔族を切り伏せていた。
あの二人の不意打ちの連携の前で、そう対処できる者はモンスターでもそうはいない。
「ダーク・ミスト」
スイの視界を奪おうと闇の魔法を使う女の魔族。
しかし。
「ライト!」
スイはとっさに魔法を唱え、闇の霧を打ち消す。
こないだ、孤児院で教えた対処法が役に立った。
ハジキは、現れた親族たちにも動揺することなく銃で正確に一人づつ心臓を撃ち殺していた。
持っている銃が弾切れを起こせば、背中に背負った銃に切り替え、あくまで冷静に、冷徹に。
そして、闇の壁も消えた最後の年かさの魔族を屠った後、ついに、そいつは現れた。
ハジキと同じ、銀の髪。今のユメの服装を思わせる黒いローブ。眉間に刻まれた深い皴。
人相描きと一致する、その風貌。
「貴様ら、国に雇われた冒険者か」
間違いない。
こいつが討伐対象にして、ハジキの父、魔族の男爵、ウラカサだ。
「違うわ」
「なに?」
「わたしたちは、友達の頼みを聞いただけの、ただの女の子たちよ」
「「……友達?」」
これはハジキと、ウラカサの言葉が重なったものだ。
「これはこれは、まさか帰ってきたか、ハジキ」
「……父さん、帰ってきたよ。……殺すために」
そう言うと、ハジキは容赦なく父親に向けて発砲した。
パァン!
「ほう……、そのような鉄屑に頼るか。出来損ないが」
ウラカサは銃撃されても、全く余裕の態度を崩さなかった。それどころか、弾丸を「素手で」受け止めた。
やはり、男爵位を持っている魔族の実力は伊達ではないらしい。
彼はしばらく受け止めたその弾丸を手の中でもてあそんでいたが、突然、投擲した。
狙われたのはユメだった。
「ぐっ!?」
肩口に弾丸を食らい、苦悶の声を上げるユメ。
「ユメさん!? キュアライト!」
オトメが慌てて回復魔法をかけてくれる。
ユメは銃撃など受けたことがなかったが、というより、知り合いで銃を使うのがハジキしかいない以上、彼女が自分に銃口を向けない限り、銃から発射される弾丸など食らい様がないのだが……。
ウラカサが投げた弾丸は銃から発射されたのとまるで威力が変わらないほどの速さと重さを載せていた。
「さて、貴様らには我が同胞を殺してくれた『責任』を取らせなければならない訳だが」
妻や兄弟、親族一同が殺された悲しみなどひとかけらも見せないまま、魔族の男爵は言う。
「全員、『死刑』以外にはないな」
世界観補足
タイトルの由来:まんま映画作品「女ガンマン、皆殺しのメロディ」から。
名前の説明
ウラカサ:「逆らう」の逆さ読みから。国の方策に逆らっては問題を起こしている。




