表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/104

魔族の洋館

 サガからウラカサ一味の情報を得たユメたち。


「よし、攻め込むわよ」


 戦場視察も済んだ。後は襲撃するだけ。


「よっしゃ、腕が鳴るぜ」


「他の冒険者に先取りされる前に狩っちまおうぜ」


「魔族の方に一人でも唯一神に救いを求めてくださる方が居ればいいのですが……」


「そんなのいるわけないよ。最下級に生まれたハジキちゃんを育児放棄したって話だし」


「悲しいですわ。唯一神の慈愛は種族の壁を越えられると信じていますのに」


「……オトメ」


 魔族に唯一神の愛を説くという無茶を言い出すオトメに、ぼそりとハジキが声をかけた。


「……魔族が信奉しているのは『邪教』。ましてウラカサは自らが現世の『魔王(アークエネミー)』になるなんて自分で言う傲慢な男。唯一神に救いを求めるとは、到底思えない」


「そんな……、ですが、わたくしが受けた神託は……」


「……だから、私が信じてあげる」


「え?」


「……私が、この銃に誓って、唯一神に祈る」


「ハジキさん、ううっ……」


「じゃあ、早く行こうよ! 闇の魔法ならスイだって負けないところを見せてやるんだから」


 ハジキとオトメのやり取りのシリアスさを吹き飛ばすようにスイがユメから渡された宝石袋を突き出して、号令をかけた。


「それにゃあ、武運を祈っているにゃ」


 結局、今回はずっと猫の姿でいたままだったサガがそう言って去っていく。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ウラカサの館前までやってきたユメたちは、まずはその小ささに驚いた。

 漆黒の二階建てくらいの洋館で、サガからの情報通り、庭をボーンゴーレムたちが無機質に巡回しており、突入は容易そうだ。


「正面突破か?」


 ヨルがまずそうユメに訊ねる。


「そうね、ゴーレムを蹴散らして、『ごめんください、ウラカサさんを殺しに来ました』、でいいんじゃないかしら」


「へっ、そりゃわかりやすくていいや」


 堂々と正門に六人で近づいていき、門を開けると、


「何者ダ?」


 シミターとレザーアーマーで軽武装したボーンゴーレムがなんとそう言ってきた。


 なるほど、闇の魔法である程度の知能のゴーレムを作れるという訳か。


「フレア・ボム!」


 問いには答えず、スイが赤宝石を取り出すと、先制攻撃をかけた。


 ボーンゴーレムはあえなく爆発四散する。


 それで攻撃の合図がかかったようで、周りをうろついていたボーンゴーレムたちが一斉に襲いかかってきた。


「ファイアストーム!」


 今度はユメが一方に炎の魔法を放った。


 オトメもメイスで、ボーンゴーレムの頭蓋骨を破壊している。ゴーレムは額の「真理(エメス)」という古代文字を崩されると崩壊する。


 ヒロイは剣よりも打撃の方が攻撃効率が良いと判断したようで、刀は抜かず、尻尾で骸骨どもの胴体をバラバラにしていた。


 ハジキは構えた銃でバキュン!バキュン!と正確に額の文字を撃ち抜いていく。


 心なしか、ユメにはその様が非常に楽し気に映った。


 ユメには知る由もないことだったが、ハジキは幼少の頃、このボーンゴーレムに見つからないようにこっそりと館を抜け出したのだ。


 それが今、仲間たちと圧倒的な力で蹂躙できれば気分もすっきりするというものだろう。


 いつもなら機先を制して、真っ先に動くヨルだけが、「自分が手を出すまでもない」と判断したのか、小太刀を二本構えた姿勢で突っ立っていた。


 ――違う。


 上空からのその攻撃に備えていたのだ。


 窓から、剣を持った一人の魔族が飛び降りてくる。

 たった一人、それに気づいたので雑魚には構わないでいたのだ。


 ガキィィィン!


 ヨルの二刀流がその魔族の剣を受け止めた。

 そして、そのままドアまで押していく。


「てめえは、見たとこ、ハジキの兄貴か何かってところか?」


「ハジキ……?」


 押されながら、その魔族はあたりを見回す。


 そして、自分と同じ銀の髪をした、銃を構えた少女の姿を認めた。


「氏族の面汚しが、なぜここにいる……!?」


「そりゃもちろん――」


「スタン・クラウド!」


 その魔族はヨルの言葉を最後まで聞かず、闇の魔法を唱え、彼女の足に黒い雲をまとわりつかせた。


「ぐあっ」


 スタン・クラウド。

 闇の魔法の一つで、黒雲を操って相手の動きを封じるものだ。


 ヨルはたまらずその雲を払いきれず、つんのめる。


 パァン!


 だが、次の瞬間、ハジキが撃った銃弾がその魔族の眉間に穴をあけた。


「ぐっ」


 苦悶の声を上げる魔族に、足が動かないまま、ヨルが二本の剣を心臓と腹に突き立てた。


「ごぷっ」


 口から血を吐き、その魔族は絶命した。額から宝石が出てくる。まだ若い爵位無し魔族だからか、B級の風の宝石だ。魔族が死んだことで足の拘束も解けたヨルはその宝石を乱暴につかみ取ると、


「ほれ」


 ハジキへと、放り投げた。


「こいつは、お前の何だ?」


 ハジキは受け取った宝石を無感動に自分の宝石袋に入れると、


「……従兄」


 そう言った。


「こいつ程度が十人位か、楽勝だな」


 ヨルもこともなげにそう返す。

世界観補足


邪教:主に魔族が信奉する魔王を神とした人間を敵視する宗教。稀にモンスターの中にも信者がいる。

魔王:モンスターの頂点に君臨する大魔族。よって人間側からは「アークエネミー」と呼称される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ