最終メンバー、加入
とにもかくにも、ハジキが言うようにスイの戦力は馬鹿にできないものがある。
ユメもヒロイと同じく親殺しの手伝いを子供にさせるのは抵抗があったが、声だけはかけてみようと思う。
そんなわけで全員で孤児院を訪ね、スイに事情を話した。
「やったあ! お姉ちゃんたち、スイを冒険者にしてくれる気になったんだね!」
「スイちゃん、今回の仕事はハジキちゃんの親を殺す仕事なのよ? そんな仕事でもいいの?」
「でも、その親はハジキお姉ちゃんに酷い扱いをしたんでしょ。復讐されるのは当然だよ」
スイは実にさっぱりとしていた。
仮に実の親がナパジェイ帝国に弓引いたときにもこんなにあっさり割り切れるものなのだろうか。
しかし、それをここで問いただすのも子供には残酷すぎるというものだろう。
「分かった。スイちゃんをうちのパーティに迎え入れることにするわ。よろしくね」
「ちょっと待って」
手を差し出そうとしたユメを、スイは制した。
「な、なに?」
「それはこれまでのハジキお姉ちゃんみたいに、『今回限りの助っ人』って意味? それなら嫌だよ。スイはずっと冒険者でいたいの。迎えるならちゃんと迎え入れて」
そう言われて、ユメは皆の顔を見まわした。
「いいんじゃねえか。正式加入でよ」
まずはヒロイがそう言う。
「あ、ついでにあたしもこの機会に正式加入しとくわ。もうスラムで辻斬りに戻ったりはしねえ。こっちの仕事の方がはるかに割がいいし、思う存分斬りまくれるからな」
ヨルもそう言った。
そういえば、ヨルは「割に合わなかったらいつでも抜ける」なんて言って加入したんだったか。
「スイさんがお怪我をされたら、わたくしが命に代えても癒して差し上げますわ。正式加入でよろしいのではないでしょうか?」
オトメはヒロイ同様正式メンバーのつもりだったが、スイを今後も冒険者として冒険に連れていくことに反対はないらしい。
「…………」
ハジキは肯定も否定もしなかった。
それはそれでいい。ハジキらしいし、なにより、彼女自身が「まだ」正式メンバーではないのだから。
「分かったわ。今日からスイちゃんは、うちのパーティの正式メンバーよ」
「ぃよっし! 夢が四年も早く叶っちゃった!」
無邪気に喜ぶスイ。
「これから『魅惑の乾酪亭』に住んでもらうのよ? 酒場所属の冒険者になるのよ? そういうところ分かってる?」
「うん! 酒場所属の冒険者とか、憧れだったの」
「自分のことは自分でするのよ? 戦闘中もできる限りは守ってあげるけど、もし自分以外が全員死んだら、ってそれくらいの覚悟はしておくのよ?」
「しつこいなあ。入れてくれたならもう子供扱いしないでよ」
「はいはい。もう大人だって思うなら『自己責任』を忘れないでね」
「はーい!」
その返事を聞いて、やっぱりスイはまだ子供だと改めて思うユメなのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
翌日。
スイの孤児院から酒場への引っ越しなどを手伝っていると。
「にゃはあははは! 未来の英雄の華麗にゃるサポーター! 猫化人サガ、ただ今見参!」
サガが猫の姿のまま、ウェスタンドアをくぐって大声を上げながら現れた。
「頼まれてたウラカサ氏族の威力偵察、終わったから報告に来たにゃ!」
「ええっ、もう? 早くない?」
「情報は鮮度が命にゃ。じゃ、さっそく伝えるにゃ」
ちなみに、前のやらかしですっかりおかんむりになっていたサガだったが、銃の遺跡に再訪して、皇帝から直接お褒めの言葉を頂くほどの冒険者になってからは一転ユメのパーティをお得意様扱いしている。
「む。なんにゃ、その荷物?」
「あ、これ? うちのパーティに新しい子が加入したから、その引越しの手伝いよ」
新しく酒場に住むことになったの、と伝えるとサガは猫の顔のままにんまりと笑った。
「ほう、新進気鋭の冒険者パーティに大型新人加入。で、その新人はどこにいるにゃ」
「はいはーい! スイでーす! ねこちゃんが噂の情報屋さん?」
スイが後ろから現れ、サガを乱暴に抱えて訊いた。
「にゃおう! 未成年にゃ!? ということはかなりの覚悟と腕の持ち主とみたにゃ」
「実はね……」
ユメが簡単にスイの境遇を説明すると。
「こ、これは、新しいいい情報を仕入れたにゃ。ウラカサ一味の情報料は少しまけておくにゃ」
サガから買ったウラカサ氏族の情報は、まとめると以上だった。
・ウラカサは魔族の中でも頭一つ抜けた実力を持つ爵位持ちの男爵クラスだということ
・その周りを固める魔族の人数は多くても十人位。つまり、ウラカサの親族のみだけだということ。
・館の周りは闇の魔法で生み出したゴーレムたちが大勢巡回しており、館の内部にも配下のモンスターなどはおらず、戦力はほとんどゴーレムでまかなっているらしいこと。
「……相変わらずなのね」
ハジキが情報を聞き終えて、最初にぽつりと漏らした。
ある程度魔族の氏族はゴブリンやコボルトのような低級モンスター、爵位が上がってくると、オーガやトロルを従えているものだが、ウラカサはそういうことをよしとせず自らの氏族、そして自分たちが闇の魔法で作り出したゴーレムのみを信用しているようだ。
世界観補足
別に16歳で成人しないと冒険者になってはならない、なんてルールはありません。ただし、飲酒、賭博、喫煙、婚姻は成人しないとたとえナパジェイでも許してもらえません。




