新たな依頼
亭主の厚意に甘えてテーブルに着いたユメたちは、ヒロイからトモエの正体とそのトモエから聞かされた「あと三つ大きな依頼をこなしたら天上帝との直接対面を叶える」という話を聞かされたのだった。
「なんで三つなの? こないだの銃の遺跡のは大きな功績だと思うけど、今回の写本の件まで数に入ってるわけ?」
「それは、たぶん、五つ目があのトータル・モータル・エルダードラゴンに勝ってみせることだからだろうな」
「トータル・モータル・エルダードラゴン……」
ユメは母から聞かされた知識をまた動員させた。
トータルとは「全て」。
モータルとは「不死であること」。
エルダーとは「長命である」とかそういう意味だ。
つまり、トータル・モータル・エルダードラゴンとは、本来不死に近いほどの寿命を持つほどのドラゴンがその長い時間をほぼ生ききったということである。
何千年か、何万年かは知らないが、ヒトがほぼ八十年で死ぬこの世界において、気の遠くなるような時間を生きてきたのだろう。
そして、トータルということはそろそろ寿命を迎えるということである。
そんなドラゴンが天上帝に従い、おそらくは最後の関門として巨塔の最上階手前で守っている。
ユメたち駆け出し冒険者がこれからどれだけ強くなれるかはまだ未知数だが、正直なところ、ユメにはいったいいつになったら届くのか想像すらつかない。
そういえば、スイの母がユメに修行を付けてくれるとかなんとか言っていなかっただろうか。
この件は前向きに検討しておくべきだろう。
一国の魔法顧問にナシがつくなど、相当運がいいことである。
少なくとも母より上。しかも夫に寿命を超越したリッチを迎えている、どんな変わり者かは分からないが、一度くらいは稽古をつけてもらいたい。
そこで、ヒロイが、ダン!と強くテーブルを叩く。店主が持ってきてくれたミルクのティーカップがぐらぐらと揺れた。
「まあ、本気で天上帝に対面するかどうかはともかく、それくらいの気概を持って冒険者やれってこったろ、アタイらも」
「ああ、それくらいに育ってやらねえとやりがいがねえ」
最近、どっちがしゃべっているのか区別がつかなくなってくるほど、似たことを言うヨルがまずヒロイに同意した。
「わたくしは、生活して行ければいいと、それくらいのつもりだったのですが……」
「なにいってやがるオトメ。皇帝の竜顔を仰ぎ、玉音を拝聴した唯一神教の教徒がオークの亜人だと知ったらきっとおまえに石を投げてた連中の見る目も変わるぜ」
そこで、「ハッ」とオトメは何かを悟ったように顔を上げた。
「そうでしたわ! わたくしの聞いた唯一神様のお声を国民の皆様に届けるにはそれくらいの冒険者になるくらいのつもりでいなければ」
皆が皆、思い思いの方向で決意を新たにしていたところに、亭主が無言で、冒険者への依頼書を張り替えに来る。
そして、こちらを見て、にやりと笑ってみせた。
「最近、お前たちでこの店の知名度も上がってきたんだ。おかげで他の店にしか回ってこなかったような依頼もちょくちょく回ってくるようになってな」
ちなみに、こないだハジキを連れて行って「バラキ平原のトロル討伐」依頼もこなしてきたユメたちなのだった。
ここいらで新しい依頼が数枚は来てくれないと困る。
「おいおい、ビワレイクのギルマン退治なんて依頼まであるじゃねえか。こんな依頼この店じゃ見たことなかったぜ」
「そりゃ、お前さんみたいなのが一人でできるようなゴブリン退治とかしか回してもらえてなかったからな」
気心の知れたヒロイと亭主がそんな会話を交わしている。
と。
ユメには少し見逃せない依頼が目に飛び込んできた。
「討伐依頼 反帝国思想家 ウラカサ 種族:魔族 人相描き……、似てる……」
「おい、ユメ。何かすぐにやりたい依頼でもあったのか」
「ヒロイちゃん、見て。この賞金首の人相、なんか……」
「全然見たこと……おや?」
「少し、ハジキさんに似てる気がいたしますわ」
横から覗き込んだオトメが言う。
そうなのだ。
このウラカサとかいう魔族の人相、どことなくハジキに似ている気がする。明日にでも確認してみようか。
最下級魔族に生まれたという理由でハジキを育児放棄したという父親。
とはいえ、それもハジキがぽつりぽつり語った内容と、ウェッソンの説明からの推測でしかないのだが。
しかし、どちらにしても依頼にあるということはこなす意味があるし、報酬も見てみたら結構いい。反帝国思想の持ち主ということはナパジェイ帝国の国是「自己責任」「力こそすべて」に抵触したということになる。
魔族というのは人間でいう貴族制を敷いているので国是よりも魔族としての矜持を優先したということか。
あるいは貴族にありがちな安っぽいプライドで他の種族を差別したか。それもナパジェイにおいては大罪である。
そういえば、ハジキが自分の親はナパジェイの国是よりも氏族としての誇りを優先したとかなんとか言っていた。
本人に名前と人相を見せて確認すれば手っ取り早いが、「こいつがあんたを雑に扱った親?」なんて訊くのも失礼な気がする。
「……なあ、ユメ。この依頼受けてみるのか? 少なくともさっき貼られた依頼の中では一番報酬がいいぜ」
黙って様子を窺っていたヨルが言う。
受けるなら受けるで対策を練らねばならない。何度も書くが、魔族は氏族制を敷いているので、攻め込んでこのウラカサなる魔族一人を殺して来ればよいという依頼ではないだろう。
幸い、ウラカサが根城にしている館か屋敷か何かはこの街、帝都キョトーの外れのようだ。
世界観補足説明
ビワレイク:ナパジェイで最大の面積を持つ湖。言うまでもなく琵琶湖から。水性モンスターであるマーマンとギルマンが勢力争いをしており、マーマンは人を襲わないため、肉食のギルマンがよく討伐対象になる。




