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徹夜はなるべくしたくない

今回例外的にユメではなく、ヒロイが主人公になっている部分がありますが、本当にレアケースです。

 ヒロイの台詞は皆を絶句させた。


「は?」


「あの方はこの帝国の社会に溶け込んで生きてる、ドラゴンだ。気配で分かった」


「同じ竜の、竜人の勘ってやつか」


「そうだ、だから、頼むから次会ってもおとなしくしててくれ」


「でも、どうしてドラゴンがナパジェイの魔法顧問などに?」


 当然の疑問を、皆の手当を終えたオトメが投げかける。


「そこまで知るかよ。本人に聞いてみたらどうだ。写本を渡すとき、また会えるかどうかの保証はないけどな。なんたって『お偉いさん』だ」


 トモエという、推定ドラゴンの話が進む中、スイがおずおずと口を開いた。


「あ、あのね、お姉ちゃんたち」


「ああ、スイちゃん、ありがとう。今日はいてくれて助かったわ」


 ユメが笑顔で頭を撫でてあげると嬉しそうに破顔する。しかし、すぐに真剣な表情になると、


「スイ、やっぱりスイをこのパーティに入れて欲しいの」


「だからそれは年齢が」


「充分戦えてたでしょ? だからお願い!」


 両手を合わせて、おねだりしてくるスイ。


 しかし、冒険者とは常に死と隣り合わせの、たしかサガにもそんなことを言われたが、危険を冒してなんぼの職業だ。


 せっかく子供なら手厚く面倒を見てくれるナパジェイにあって、わざわざ成人よりも四年も早く冒険者になりたがるとは。


「ユメさん、話は山ほどありますけど、まずは写本を完成させないと。依頼失敗になってしまいますわ」


 オトメにそう言われて、ようやくユメはこの仕事の趣旨を思い出した。


「ごめん、スイちゃん。話は依頼の後でね。この依頼ばっかりはスイちゃんには手伝えないの」


 ユメはオトメを伴い、普通の本二冊とイビルブックだった白紙の本二冊を持って宿に戻る。


 ちなみにもう一冊のイビルブックにもトモエからのふざけたメッセージカードが挟んであった……。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 それから二日間はある意味戦闘より大変だった。期日は三日後だったが、ユメとオトメは寝る間も惜しんで写本作業に勤しんだ。


 ユメが冒険譚を担当し、オトメが魔術書を担当。丸二日で写し終えたら、今度は誤字脱字がないかお互いに読み合い確認……。


 結局、三日間、一睡もせず作業を続け、写本は完成した。


 ヒロイたちに成果物を巨塔まで届けてもらうようお願いした後、気絶するように眠ってしまった。

 正直、ヒロイはまだしも、ヨルを伴わせるのは不安だったが、その不安を口に出す気力もなく、ユメとオトメは二人を送り出した。


 ハジキは「……報酬待ってる」とだけ言ってジャンク屋へ帰り、スイもほっぺたを膨らませたまま孤児院へ帰っていく。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ヒロイは巨塔を前に、四冊の本を手に緊張していた。


 あのトモエという人物――気配からしておそらくエンシェントかエルダー級のドラゴン――に次に出会ったとき、竜人、しかも角なしである自分はどういう態度をとればいいのかわからなかった。


 しかし、この本はユメとオトメが三日三晩完徹で仕上げた努力の結晶だ。なんとしても無事に、巨塔にいるはずの魔法顧問長に届けなくては。


「おいヒロイ、さっさと入るぞ」


 こちらの懸念も知らず、ヨルはあっさりと巨塔の一階の扉を開けた。


 なお、巨塔の周りは高い壁で覆われており、門番が四六時中守っている。きちんとした用事がないとその壁の中にすら入れてもらえない。


 その関門はまずはクリアした。


 こないだと同じ受付の人間の男性に、魔法顧問長からの依頼で写本作成をし、完成したことを説明すると、ぬっ、とその受付の奥からチャイナドレスに身を包んだ、見覚えのある怪しげな女性――トモエが現れた。


「げっ」


「ハーイ、ちょっとお久しぶり~。あら、今日は二人なの?」


 そういうとトモエは指をパチンと鳴らし、ヒロイとヨルと自分をどことも知れない、丸テーブルが一つだけの部屋にテレポートさせる。


「まあかけてかけて。ここに呼んだのはちょっと他の人には聞かせたくない話もしてあげようと思ったからなの。どうも偉くなっちゃうと退屈でねえ。本当は五人ともお招きしたかったんだけど」


「ああ、あいつらはあんたが無茶言ったせいで今熟睡中だよ。まったく、あんなふざけた悪戯仕込みやがって。あたしらを殺す気だったのか?」


「まっさかぁ、白紙の本を提供するついでにちょっとした余興を挟んだだけよお」


「てめえ本人がまず子供向け絵本でも読んで道徳を学びやがれ!」


「絵本……、そうねえ、次にお願いする写本は孤児院に寄付する絵本にしようかしら。うふふっ、いいアイデアをありがとう」


 シャレが通じてるんだか通じてないんだか分からないヨルと魔法顧問長の会話に割り込み、ヒロイは、本と写本をテーブル越しに手渡した。


「お確かめください」


「大丈夫よお。信用してるから。後で部下に確認させるわ。それにしても、そんなに畏まらなくてもいいのよぉ、あなたはヒロイちゃん、だったかしら?」


「アタイ、いえ、私なんかの名前を覚えてるんですか?」


「そりゃそうよぉ。陛下からお褒めの言葉を頂いた期待の冒険者だもの。あとは、ユメちゃんに、そちらがヨルちゃん、亜人のオトメちゃんに、銃使いのハジキちゃん、だったかしら」


「へ、陛下……、ってまさか」


「あら? 宿にはうまく話が伝わらなかったのお? あの銃の遺跡発見の功績で皇帝陛下自らの『新進気鋭の冒険者の登場を嬉しく思う』って言葉を賜ったのに、知らずにいたなんて、陛下きっと傷つくわぁ」


「あの……、その、あなた様ほどのドラゴンがそこまで忠義を誓う皇帝陛下って何者なんですか?」


 そこでぴくりとトモエは不快気でもなく驚きを目だけで示した。

世界観補足説明


魔法の説明

テレポート:生物や物体を一度粒子に変換してから違う場所で再構築することで瞬間移動する光の最上位魔法。人間の魔法使いにとってはこの魔法を修めるだけで各国から引っ張りだこになるほどの憧れの魔法。

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