表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/104

飛び出す本の怪異

 鳥型のモンスターが飛び出し、爪でユメの頬を引っかく!


「これはイビルブックよ!」


 血を手で拭い、叫ぶ。


 やはり、予想通りイビルブックは二冊だった。


 これで合計二冊写本しろということだろう。そして写本用の白紙の本はイビルブックを倒して自分たちで作れ、と、そういうわけか。


 飛び出してすぐに翼で飛び上がったので、鳥型のモンスターかと思ったが、改めて見ると人間の女性の上半身に鳥を合わせたような姿をしている。


 ハーピーだ。


 ユメは母から習った知識の中からそう判断した。


 素早い動きと、口から発する超音波で敵を翻弄するモンスターで、見かけに反して知能は低い。

 ヒト並みの知性を持つほど生きることは稀だ。


「せいっ!」


 ヨルが斬りかかるが宙を飛んでかわされてしまう。


「ちょこまかと」


 続くヒロイの刀による攻撃も当たらない。


 この二人が同時攻撃して当たらないとなると補助魔法が要る。


「スイちゃん、あれはハーピーよ! 風属性の魔法で翼を攻めて!」


 スイに素早く指示を出し、自分はヨルとヒロイに速度上昇の風の魔法をかけるべく、宝石を取り出す。


「エア・スピードアップ!」


 風の速度上昇魔法の二人がけ――消耗は痛いが、致し方ない。


「ユメお姉ちゃん! 試してみたい魔法があるの、土の魔法でもいい?」


「えっ!? 何をする気?」


 スイの突然の提案に戸惑うユメ。


 そうしている間にも、ハーピーはヨルとヒロイに爪で攻撃し、オトメとハジキは敵のあまりの素早さに手を出せないでいる。


 特にハジキは銃を構えているが、狙いが定まらないのでやきもきしている様子だ。


「グラビテーション!」


 スイは黄色の土の宝石を消費し、魔法の詠唱を完成させた。


 グラビテーション。


 重力制御の魔法だ。土属性の魔法でも、行使と制御が難しいとされ、攻撃魔法では炎を得意とするユメにはまだうまく使いこなせない。


 とにかく、全身が鉛のように重くなる魔法をかけられたハーピーはそのまま動きが鈍くなり、下に、つまり本に向かって降りていく。


 それでも必死の抵抗で口から超音波を発し、近くにいたヒロイとヨルの頭蓋を揺さぶった。


「ぐあああっ」


「うるせえっ」


 そして、ハーピーの動きが鈍った隙を見逃さず、ハジキがそのどてっ腹にマスケットで銃弾を弾切れまで撃ち込む。


「ゲエエエエエエエ!」


 悲鳴を上げるハーピー。


 そこに、ヒロイの刀の一薙ぎがその首を切り落とした。


 これでハーピーはゆっくりと姿が薄れ始め、次は……。


 と、ユメたちが身構えたが何も出てこない。


「打ち止めでしょうか……?」


「オトメちゃん、迂闊に近づいちゃ……」


 オトメがイビルブックに向かって歩いていく――と、急に植物の蔦のようなものが出てきてその足を巻き取り、瞬時にオトメを宙吊りにする。


「あーれー、助けてくださいましー」


「言わんこっちゃない」


 そうこうしている間に次のモンスター、巨大化したウツボカズラのような、植物型のモンスターが出て来た。


 ちなみにこれもユメは母から習っていたが、ニーペンシーズという名の食虫植物が巨大化して人まで捕食するようになったモンスターだ。


 植物系モンスターは、総じて炎の魔法に弱いが、今火を放てば捕まっているオトメも無事では済むまい。


 まずは蔦を斬ってオトメを助けねば。


 と、思っている間に、まだ先ほどの速度上昇魔法の効果が効いていたヨルがスパン!とオトメを拘束していた蔦の一本を切り取った。


 ドサリ!


 大きな音を立ててオトメがしりもちをつきながら地面に落とされる。


「いたたた……」


「オトメちゃん離れて! ファイア・ストームッ!!」


 ユメが放った炎の嵐が巨大ウツボカズラを焼き払う。これは効果覿面だったようで、あっというまに燃え尽き、決着がつく。


「おい、ユメ、その魔法、本ごと燃えちまわねえか?」


「あっ」


 ヒロイが言ってきたが、ユメにはもう放った炎を消すことなどできない。


 しかし、心配は無用だった。


 イビルブックはウツボカズラが燃え尽きたあと、何事もなかったように焦げ目一つなくそこにあり、新たなモンスターを呼び出そうとしていた。


 そのあと出て来たのはオーク、ドラゴニアン――魔物化して人を襲うようになった竜人をこう呼ぶ、魔族だった。


 どいつも、ユメたち六人の連携の前では敵ではなかったが、味方にほぼ同族がいるのでやりにくいことこの上なかった。


 隊列は、ヨルとヒロイが前衛に立ち剣で敵を攻撃、ユメとオトメが中衛で回復と補助を担当、後衛はハジキとスイが務めた。彼女らの役割は遠距離攻撃だ。


 まだ荒削りなもののスイの魔法の腕は確かで、子供ゆえの残酷さで躊躇せず敵を攻撃してくれるので頼りになった。


 かくして、一冊のイビルブックから出た合計五匹のモンスターを屠ったあと、ようやく白紙の本が得られる。


 その本からA級の宝石が出てくるのを見て、ユメは目を見開かんばかりに歓喜したが、どう考えても六人で山分けだろう。


「ぜぇぜぇ……、なんでこんな目に遭わないといけないのよ」


「あ、あの、トモエとか言うオカマ野郎だかなんだか、今度会ったら絶対ぶっ飛ばしてやる」


 ヨルがそう言うと、こういう乱暴な意見には大抵同意するヒロイが、珍しく彼女を諫めた。


「ヨル、あの人、いや、あの方はアタイらが何人束になってもかなわない。アタイだけはなんとなく分かった。ありゃ、魔法で姿を変えてる……」


「あ? そりゃナパジェイで魔法顧問長やるようなお偉いさんならさぞかしお強いだろうよ」


「そうじゃない。あの方はきっとシェイプシフトの魔法で姿を変えている……」


「なんだよ、さっきからもったいぶりやがって」


「……『ドラゴン』だ」


世界観補足


モンスター説明

ニーベンシーズ:まんま、「ウツボカズラ」の英語。ドラクエで言うひとくいそうが一番近い。

魔法の説明

シェイプシフト:変身の魔法。外見だけでなく体組織そのものを作り変える最上位魔法。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ