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写本依頼の本性

そうこうしているうちにイビルブックが発光し、宝石を発現させた。


B級の赤の宝石だ。


「わからない。だけど、こうして宝石が出て来た以上、後はもうただの紙の束よ」


 話し合いたいことは山ほどあった。


 しかしそれより先に、安全の確認、そして、依頼を進めていいかの判断の方が先だった。


「おいみんな! 大丈夫かっ!」


 ようやく上がった息が整ったあたりで、店の奥から亭主が斧を持って現れた。


「もう終わったよ」


「な、なんだそうか。皆が無事ならよかった」


 どうやら、昔取った杵柄で戦闘を手助けしてくれるつもりだったらしい。

 そういえば、元冒険者だったんだったか。あまり頼りになりそうにはないが。


 さて、何とか落ち着いたところで。


「おい、このユメに懐いてるチビすけ、あんなに戦えるなんて聞いてなかったぞ」


「あ、ああ、スイちゃんはちょっと特別な子で……」


 そこで、まるであえて気配を断っていたかのように黙って佇んでいたハジキが自己主張する。


「……ごはん。3種のチーズピッツァ一人前」


「おお、すまん。ハジキは客としてきてくれたのか。すぐ作るよ」


 亭主は散らかった店内を気にしていたが、ハジキが注文するとすぐに厨房の奥へ引っ込んでいった。

 

 とりあえず、床に散らばっている本には触らないようにしながら、椅子とテーブルなどを元通りにする。


 客の余裕か、元々の性格か、あまり動揺していない様子で、ハジキは椅子に腰掛けた。


「……で、なにがどうなっていたの?」


 ユメたちとしても状況整理の時間が欲しいところだったので、ハジキについさっき起こったことを説明する。


「国の魔法顧問長が写本を依頼して来た本の中にイビルブックが混ざってたのよ。そこに散らばってる本は全部そうかもしれないし、一冊だけかもしれない」


「とにかく、他の本の確認は室外でやろうぜ。これ以上モンスターが出てきてそのたび戦ってたら店が壊れて、とっつぁんが困っちまう」


 ヒロイがそう言って、おそるおそるながら本を拾う。


 ちなみにイビルブックというモンスターは、中にいるモンスターを倒しきると白紙の本になる。


 さっきやっつけたイビルブックをもう一度よく見てみるとしおりが挟んであった。


 それは、しおりではなく、メッセージカードだった。


『写本にはこの本を使ってねえ♪ 素敵なお姉さん、トモエより』


 持って来られた本は合計四冊。うち、一冊がイビルブックで白紙になったので、残り三冊のうち一冊がイビルブックで、それ以外の二冊を写し取って計二冊の写本を作れということか。


「ふ・ざ・け・や・がっ・て……! 白紙の本を持ってきてやったつもりなのかよあの女」


「ヨルちゃん、落ち着いて。これは多分、冒険者としてのわたしたちを試してるんだわ。依頼を受けた冒険者ならこれくらい何とかしてみせろ。そう言ってるのよ」


「では、後一回はイビルブックと戦って、白紙の本にしないといけないんですのね」


 オトメが付け加える。なにせ依頼の期日は三日なのだ。


 四冊も写本しろとはきついことをおっしゃると思っていたが、戦闘込みでの依頼だったわけだ。


 閉じた三冊の本を重ねて持ち、できるだけ遠くのテーブルに置いて、ユメたち四人はハジキが食事を終えるのを待つ。


 この依頼、できれば五人で行いたい。


 ん? 五人? 最初から私たちは五人ではなかったか?


「っと、そういや、こいつのことを聞くのを忘れてたぜ。戦力になってたじゃねえか」


 ユメがハジキに支払うべき傭兵代を思案していると、ヨルがスイの方を向いていった。


「ね、スイすごかったでしょ? 魔法使えてたでしょ? 一緒に冒険させてよ」


 本人はもうノリノリで推定あと一冊のイビルブックとの戦いに混ざるつもりらしい。


 ユメも先の戦闘で彼女に頼ってしまった手前、強く駄目とは言えなかった。


「スイちゃん、あなたは魔法使いなんだから基本的に後衛に徹するのよ。前衛はヒロイお姉ちゃんとヨルお姉ちゃんに任せてね?」


「えっと、うん! でもオトメお姉ちゃんは?」


「あの子は基本ヒーラーの後衛。さっきみたいにスイッチ入っちゃうと前衛に飛び出していくけど……、それはオトメちゃんは体力もあるから。スイちゃんはまだみんなよりちっちゃいし、打たれ弱いでしょ」


 そう言うと、スイは「ぶすー」となったので、ユメは加えてこう言う。


「スイちゃん、攻撃魔法得意そうだから、わたしと行動が被りそうなときは攻撃魔法を優先して。そんなときはわたしが補助魔法に徹するから」


「わーい!」


 やはり子供。攻撃魔法をびしばし撃って敵をやっつける方が楽しいようだ。


 このタイミングで、ユメはスイの素性を皆に説明した。


 四人とも、驚いてはいたが、さすがナパジェイの住人。

 忌避感を感じてる様子はなかった。


 それより、スイも戦力にするかの方が重要の様で、


「やっぱりそのチビすけも戦力に数えるのか。アンデッドハーフだかなんだかしらねえが、簡単に死ぬなよ。お守りはしてやれねえぞ」


 ヨルがそういう言い方でスイの戦闘加入を認めた。


 そして、全く表情を変えずに、それでも心なしか幸せそうにピッツァを食べているハジキにかくかくしかじかと状況を説明して、宝石を払って、臨時メンバーに入ってもらうことにした。


 なにせ、最悪残り三冊ともイビルブックかもしれない。用心に越したことはないだろう。


 話がまとまったあと、本とともに店の外に出、裏道だから人通りが少ないのをいいことに、一冊ずつ、用心深くページをめくっていった。


 一冊目。


 内容は魔法に関する学問書のようだった。特にページの隙間からモンスターが出てくる様子はない。


 二冊目。


 内容は、とある冒険者パーティが旅をする冒険譚のようだった。


 冒険譚というより、パーティでの戦い方やフォーメーションの勉強になる、という印象だった。


 三冊目……。


 を開いた途端、鳥型のモンスターが飛び出し、爪でユメの頬を引っかいた!


「これはイビルブックよ!」


 ユメは頬の血を手で拭い、叫ぶ。

世界観補足


冒険譚:この世界にはさまざまな冒険者が冒険した冒険譚が本として出回っており、冒険譚を書くために冒険に着いていく冒険者さえいる。

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