トモエの試練
ジュワアアアアアアアッ!!
炎と水が互いに打ち消しあい、均衡状態ができる。
だが、ユメの魔力では、ワイバーンのブレスをどうにかくい留めるのがやっとだった。
ユメは下手なプライドはかなぐり捨て、スイに助けを求め、宝石を放る。
「スイちゃん! 私が今使ってるのと同じ魔法を炎に! お願い!」
「分かった! クリエイト・ウォーター!」
スイはユメの言葉に素直に従ってくれた。それで均衡が崩れ、いったんワイバーンのブレスが止む。
そこへヒロイとヨルがそれぞれ横薙ぎと縦に斬りつけた。
「ギアアアアアアアアアアア!」
胴体を傷つけられ、怒り狂うワイバーン。どうやら本から出て来たため、やや小ぶりではあっても頑丈さは本物のワイバーンとまるで変わらないらしい。
さらにブレスを吐こうと口を開く――
かと、思い、ユメとスイは再びクリエイト・ウォーターの魔法を詠唱するが、違った。
なんと、ワイバーンは氷のブレスを吐いたのだ。これでは水などぶつけても逆効果だ。
「オーラ・ウォール!」
オトメが光でできた障壁を張り、ユメたちを氷のブレスから守る。
しかし、それも長くは保たず、オトメは吹き飛んでしまう。
「オトメちゃん!」
そうやってできたワイバーンの隙にヨルが今度は首のほうに斬撃を加える。
だが、切断するには至らない。
「どうすりゃいいんだこれ……」
ヒロイがやっと声を出す。彼女の刀でも致命傷を与えることは難しいだろう。
だが、攻撃をし続け、倒さねばいずれブレス攻撃でユメたちは全滅し、店も崩壊してしまうだろう。
この宿に、ユメたち以外に客がいないのはいつものことなのだが、それは不幸中の幸いだったのだろうか?
それとも、他に冒険者でもいてくれれば加勢してくれたのだろうか。
そんなことをユメが考えたとき、ウエスタンドアが開いて、誰かが入ってきた。
「……騒がしい」
その銀髪に水兵服の人物は背中に背負っていたマスケット銃を構え、ワイバーンに向けて発砲した。
パァン!と小気味いい音が響き、ワイバーンの片目が潰れる。
「ハジキちゃん! 来てくれたのね! お願い助けて!」
「……ごはん、食べに来ただけ」
そう言いながらも、ドアをくぐった人物――ハジキは手にした銃でワイバーンがヒロイとヨルに負わされた傷口を狙って、銃弾を何発も撃ち出す。
パァン! パァン! パァン! パァン!
弾切れまで撃ってもワイバーンが息絶えることなく、なおもブレスを吐こうとしてくるのを見て、ハジキは背中にもう一丁背負っていた銃を構える。
弾が切れた銃も丁寧に背負うあたりは流石というべきか。
「スイちゃん! 口の中に炎が見える! アイシクル・ランスを二人で口に叩き込むよ!」
「うんっ! 孤児院で教えてくれた魔法だね!」
今度も青の宝石を指の間に挟み、ユメとスイは同時に氷の矢の魔法を放った――!
「アイシクル・ランス!!」
「アイシクル・ランスぅ!!」
ユメが放った方はワイバーンの口の中にあった炎を中和した。そこへ、スイが放った氷矢が翼竜の喉から首の後ろまで貫通する。
それで、ワイバーンはようやく沈黙した。
普通ならここで額から出てくる宝石に期待するところなのだが、この本から出てくるモンスターたちははなから幻影なのか、それとも魔物を模した動く何かなのか、先の蛇も、虫型も、そしてこのワイバーンも、宝石を発言させることはなかった。
さて、次もまたページがめくられてモンスターが出てくるかと思ったが、ワイバーンで打ち止めのようだった。
「ちっくしょう、ひでえ目に遭ったぜ。オトメ、他の本触るなよ、またなんか出てくるかも知れねえ」
ヨルがそう言い、未だ床に散らばっている本の束を警戒させた。
ユメは、いまさらと思ったが、おずおずと発言した。
「本当に今更だけど、さっきの本の名前は『イビルブック』。モンスターをその中に閉じ込めておく習性を持った魔法生物で、本に擬態してるれっきとしたモンスターよ」
尊敬する母から習ったことを思い出しながら、続ける。
「わたしも見たのは初めてだったけど。一度ページを開いてしまうと出てきたモンスターが周りの者に襲い掛かるから、普段は封印しておいて暗殺したい相手に送って使ったりするんだけど……」
「使うって何だよ、じゃああの変な女はあたしたちを殺すつもりでこんなもの本に混ぜてきやがったってのか!?」
その様子を、遠見の水晶玉でトモエが観察していて、
「まずは合格、と。さて、次のも乗り越えられるかしらね」
なんて言っていたのは、ユメたちには思いもよらないことである。
世界観補足
モンスター説明
イビルブック:闇の魔法でモンスターが本に閉じ込められた本。元ネタはFFⅤの○○ページ。
魔法説明
オーラ・ウォール:光の魔法。ありとあらゆる属性の攻撃を防げるが、消耗が激しく、術者への負担も大きい。




