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怪しい魔法顧問長

 そして、きっかり三日後、写本作成を依頼したいという本が魅惑の乾酪亭まで届けられた。


「お客さん、来たみたいだよ」


 その日はスイが孤児院から店に遊びに来ており、冒険者の仕事を見てみたいといってきかなかったのだった。


「いや、写本作成って本当に地味な作業なんだから見てても面白くないって」


「それでも、将来のために冒険者がお仕事してるところが見たいの!」


 スイは聞き訳が無かった。

 スイのことはさておき、その本を届けてきた人物が非常に個性的な人物だった。


「ハァイ、こんにちは。私がナパジェイ帝国魔法顧問長のト・モ・エ。皆さん、これらの本の写本をよろしくお願いしますわぁ」


 見た目は二十歳になったかどうかという人間の女性だったが、声が明らかに男、それも結構歳のいってそうな壮年男性の声だった。


「なんだこいつ、オカマか?」

「あららん? 私ったら声を調整するのを忘れてたわ」


 そういって、トモエと名乗った若い人間の女性はポケットから風の宝石を取り出し、どうするのかと思ったら、飲み込んだ。

 そして、しばらく「あー、あー」と声を調整して、外見から予想されるとおりの声になったかと思うと、


「期限は三日間。それを過ぎたら報酬はなしよん。あ、届け先は巨塔の受付ね。私の名前を出せば話は通るわ。それじゃ、よろしくねぇん」


 言いたいことだけいって、変な女性は立ち去った。

 そんな中、ヒロイ一人だけがわなわなとこぶしを震わせて慄いていた。


「どうしたの? ヒロイちゃん? ねえったら」

「ユメ、いや、お前ら全員には分からなかったろうな」

「なにが?」

「とりあえず本をお部屋に運んでしまいましょう。写本はわたくしとユメさんで行いますから、ヒロイさんとヨルさんはそれぞれが何についての本か、読んでおいてもらえますか?」


 オトメがそういってトモエがテーブルの上においていった本を持ち上げようとする。

 すると。


 ぞくり。


 まるでそう音がしたかのように、オトメは身震いして本の束を取り落とした。


「な?」


 オトメの戦慄の声とともにある本のページがむき出しになる。


 そして、めくられたページからモンスターが現れた。

 ジャイアントスネークと呼ばれる、大型の蛇だ。それが、開いた本のページからにゅるりと出てきて、鎌首をもたげているのである。


 そして、慌てふためく店主をよそ目に、宿の一階の食事スペースでそのまま戦いが始まった。


「きゃあああああ!」


 自分が取り落とした本からモンスターが出て来たことでオトメは悲鳴を上げた。

 こんなとき、とっさに反応して剣を抜いて機先を制するヨルでさえ、あまりのことに意表を突かれ、動揺して抜剣するのが遅れていた。


 ユメも、こんないきなりでは魔法で攻撃を仕掛けたりできなかった。

 なにせここは室内。

 派手に魔法でもぶち込めば亭主に何を言われるかわからない。


「ウィンド・カッター・クロス!」


 そんな中、魔法で蛇の胴体を何重にも輪切りにした者がいた。


 ウィンド・カッター・クロス。


 その名の通り、風の攻撃魔法ウィンド・カッターの強化版だ。


(いったい、誰が?)


 ユメが慌てて振り返ると、そこにはテーブルに腰掛けて宝石で遊んでいたはずのスイの姿があった。


 彼女はいつの間にか立ち上がり、風の宝石を一個使い、本から飛び出した魔物を倒して見せたのだ。


 ……とはいえ、壁に大きな傷がついたが。


 突然のことに何が起きたか混乱したが、さらに次に危機が襲いかかってきた。


 ジャイアントスネークが倒されると、その本のページがひとりでにぺらぺらとめくられ、今度は巨大な虫型のモンスターが出現した。


「のやらっ!」


 動揺していたヨルも流石に今度は対応し、二刀流の剣を構える。


 だが、それより早く、


「イヤーッ!」


 近くにいたオトメのメイスが昆虫型モンスターの腹部を捉えた。


 オトメは元々虫が嫌いなのである。


「イヤーッ! イヤーッ! 虫イヤーッ!」


 ドガッ! ガスッ! ボカッ!


 本から出て来た魔法生物か何かだからなのか、体液を撒き散らすようなことはなかったが、モンスターはオトメの殴打を何度も受けやがて、動かなくなる。


 すると、またぺらぺらとページがめくられ始めた。


 もう想定の範囲内だったので、PTの面々も全員臨戦態勢に入っており、次は何が出てくるのかと身構えていた。


 ページが止まると、今度は小型の翼竜、ワイバーンが飛び出してきた。


 ワイバーンとはあらゆるモンスターの頂点に立つ、ドラゴン種に分類され、その中でも最弱とされるモンスターだ。


 腐ってもドラゴンであるため、その強さは他の魔物の比ではなく、特に空を飛び、ブレスまで吐くため、危険なモンスターとされる。


 しかし、本から一定以上の距離は離れられないのか、空に舞い上がっていくことはなかった。そんなことになれば「魅惑の乾酪亭」の二階の客間がいくつか壊れるだろう。


「グルァァアアアアアアアア!」


 ワイバーンは咆哮し、口の中に炎を溜める。


 まずい。

 木造のこの建物の中で炎のブレスなど吐かれた日には、店が全焼して自分たちの拠点が無くなる!


 なんでこんな目に遭わないといけないんだと思いながら、ユメは青のD級宝石を二個取り出した。


「クリエイト・ウォーター!」


 水属性の魔法の中で、最も初歩的な、ただ水を生み出すだけの魔法である。

 魔法の発動と、ワイバーンが口から炎のブレスを吐くのがほぼ同時だった。

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