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追加の依頼

 さて、スイとマンツーマンで魔法を教えることになったユメ。


「まずは、宝石の錬成から指導してあげるわ。あなたの場合、実感が薄いかもしれないけど、魔法使いにとって宝石はとても大切なものなの」


「レンセイ? それは全くの初めて! 見せて見せて!」


 実際の宝石の錬成を見せてあげると、「ユメお姉ちゃんって魔法使いみたい!」とスイは感動していた。


 最初から魔法使いだって言ってるっつーの。


 ともあれ、錬成で高級宝石を増やして実演でスイにいくつか高位魔法を見せてあげた。


 拙いながら、スイはユメが錬成した宝石で同じ魔法を発現して見せる。


 ほんの一か月前までは、これを自分が母親に自分にやってもらっていたのだ。


 しかし、実際に生徒を得て、ユメは改めて母の偉大さを思い知った。


 かなり魔法を使ってくたびれたところで、スイがおもむろに言ってきた。


「ユメお姉ちゃんもすごいけど、今度、スイのママに二人一緒に魔法習いに行こうか? ママ、ナパジェイでも十人といない魔法の使い手なんだって。パパもそうなんだけど、パパは塔から出られないから」


 なるほど、リッチである父はアンデッド故に日光の下にいられないから巨塔に籠っているという訳か。


 純粋な人間である母親なら自分の師匠にもなれる、と。


「でも、スイちゃんのママだって忙しいんじゃないの? ナパジェイの魔法顧問なんでしょ?」


「大丈夫、ママはスイのワガママだったらきいてくれるから。パパは厳しいけど」


「ナパジェイの魔法顧問かあ、すごい人なんだろうな、きっと」


 そんな会話をしているうちに時間はあっという間に過ぎてしまい、結局追い出した子たちはオトメに任せきりにしてしまった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 指導が終わった後は、院長先生が皆に夕食を振る舞ってくれるらしく、エーコ少将も含めて今日の感想を言いながら夕餉の時間となった。


 ちなみにユメもそうしたが、昼食は子供たちに冒険者用の非常食を食べさせてあげた。


 冒険者用の非常食とはいわゆる乾燥食で、干しブドウや乾パンなど日持ちさせることを最優先にした物が多く、スイを含め子供たちも皆「まずい」と言っていたとのこと。


「いやー、思ったより有意義な時間だったぜ」


「今度うちの宿に来い。飯を奢るついでに直々に稽古をつけてやる」


 ヒロイもヨルも自分が教えた中でなかなか骨のありそうな少年を見つけたらしく、上機嫌で食堂に戻ってきた。


「……多分、あと数回訓練すれば『虎児院』とやらに連れていってもやっていけそうな子、いた」


 ゴム弾が出るオモチャの銃で、子供たちに銃何たるかを教えていたと思しきハジキもそんな感想を漏らしていた。上々の結果だったらしい。


 そんな中、オトメだけが涙目でユメを睨んできた。


「うう、ひどいです、ユメさん」


「あ、オトメちゃん、ゴメン」


 そういえば、スイと話をするためにスイ以外の子をオトメの部屋に押し付けたんだったか。


 おかげでオトメは十人くらいの子供にもみくちゃにされたようだ。若干着衣に乱れがあるのは気のせいだろうか。


「わたくし、攻撃魔法は苦手だと言ってますのに、無理矢理使わせようとする子がいるんですもの……」


「マジゴメン。後で説明するけど、こっちは状況が特殊だったからさあ」


 そういえば、スイがうちのパーティに参加したがっている旨も帰ったら皆に相談しなくては。


 もちろん、スイの出生の素性も併せて。


 あの様子だと周りの孤児院の子たちにさえ隠している様子はない。いったいどこまで特殊な連中が住んでいれば気が済むのだナパジェイという国は。


「ま、そうでなきゃナパジェイじゃないか」


「ユメ、なにか言ったか?」


「あ、ううん、独り言」


 そんなことを言い合っている間、シチューを前にエーコ少将が口を開いた。


「ああ、そういえば、お前たちに報告しておくことがある」


「はい、なんでしょう?」


「今日の依頼がうまくいったら、巨塔の魔法顧問長から追加の依頼があるそうでな」


「魔法顧問“長”ってことは、スイちゃんの両親の上司ですか?」


「そうなる。顧問長は魔法の腕はともかく、性格に非常に問題があるお方でな。まあ、『力』こそが全てというナパジェイを象徴するような方だ」


「ちなみに拒否権は?」


「無い。

このミッションからの連続ミッションだ。内容は、あまり本を読む文化のない国民――モンスターや亜人たちにも子供のうちから本を読む機会を勧めようというものだ」


「んだよそれ。また戦闘の機会のなさそうな平和ボケした感じの依頼だな」


 ヨルが文句を挟むが、エーコ少将は淡々と続ける。


「顧問長は性格に問題のあるお方だといったろう。そんな穏やかな依頼で済むはずが無い。依頼の内容を伝える。三日後、お前たちの宿に運ばれる、数冊の本の『写本』を作成して欲しい、報酬は出来高次第。以上だ」


「『写本』だぁ!? またスリルに欠ける冒険者らしくねえ仕事じゃねえか」


 これもヨルの文句だ。

 そもそもヨル自身が本をどれくらい読んだことがあるのかが怪しい。


 ヒロイも向いていなさそうだし、この仕事はユメとオトメの独壇場となるだろう。量によってはハジキに応援も頼みたい。


 そんな追加の依頼を受けた後、夕食を追え、五人は家路に着いた。


 ハジキは「ジャンク屋スミス」に帰るのだが、自分にとってはすっかり魅惑の乾酪亭が帰る家になっているな。


 両親……。家……。


 スイのように両親がいる場所が帰る場所とは限らない子もいる。


 ユメの「本当の帰る家」がある港町ガサキの父と母は元気にしているだろうか。


 ユメは帰りながらそんなことをうっすら考えた。

世界観補足


写本:この世界には当然高度な印刷機器など無いので(紙はある)、本を複製する場合は複写、つまり写本が一般的な手段になります。また、原本も手書きのものが多いです。

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