わたし、冒険者志望ですっ!
ナパジェイ帝国の都キョトー。
その名を象徴するように、中央には天まで届こうかという巨塔が生えている。そのてっぺんにこの国の皇帝、天上帝はいるという。
なんとか、その根元、帝都まで辿り着いたユメ。
関所では、故郷のガサキの町で発行してもらった通行手形を門番に見せ、特に怪しまれることもなく入都できた。
が、門番が通してくれた後にニヤリと意味ありげに笑って、
「気をつけなよ、お嬢ちゃん」
などと、言ってきたのが癪に障った。
ユメとてナパジェイという国の危険さは知っているつもりだ。
たとえ、それが帝都になったところで、いきなり危険度が上がったりはしないだろう。ユメだって故郷の両親の元で厳しい魔法の訓練を受けた。
自慢じゃないが、「魔女」の異名をとった母親からみっちりと魔法は仕込まれたのだ。
とにもかくにも、冒険者志望であるユメはまず冒険者の宿を見つけて、そこに登録して仕事を紹介してもらわねばならない。
これが、意外と難航した。
冒険者登録をするために、メインストリートの冒険者の宿に入って亭主と思しき人物に登録したい旨を告げても、どうもうまく相手にしてもらえない。
「なんだい、パーティも組まずに登録に来たのかい?」
「お嬢ちゃんいくつだい? まだ親元で甘えていたほうが良いんじゃないか?」
などなど……、一応、もう十六歳なのでユメは成人している。
大人の仲間入りはしているはずなのだ。
しかし、若すぎるのがしかも一人で来ている所為か、まるで相手にしてもらえない。
突然だが、ナパジェイの冒険者ランクは武器の種類によって分けられている。
一般的には、下から「木刀」「苦無」「小刀」「脇差」「太刀」「打刀」「大太刀」級である。この冒険者ランクが高いほど難度が高い依頼を酒場で紹介してもらえるという寸法だ。
ユメは宝石だって、一番初級の「木刀」冒険者登録するため程度なら充分すぎるほど余らせている筈なのだ。
それが、小娘だからとか一人だからとどの店も適当にあしらわれて腹が立つ。たしかにユメはやや童顔の部類に入るが、それでも子供扱いはないだろう。
よーし。こうなったら目抜き通りは諦めて少し寂れた裏通りに入ってみよう。そういうところならば人手が足りなくて冒険者を求めている宿もあるはずだ。
そう決めてメインストリートから外れた通りで見つけた一軒の冒険者の宿。
“魅惑の乾酪亭”
「なに? この店の名前? かんらくってなによ? 怪しいお店じゃないでしょうね」
店名からして謎だったが、ユメは意を決してその店に入ってみることにした。
「いらっしゃい」
亭主と思しき、横に随分と広い中年男性がカウンターの奥でそう迎えてくれた。
「ご注文は? ここはチーズ料理がオススメだよ。フォンデュにするかい? それともピッツァに載せてあげようか?」
「いえ、あの、ここって冒険者の宿……ですよね?」
「ああ、そうだよ。今はみんな出払ってるがね。はい、お通し」
とりあえずカウンター席に座って訊ねると、これまたチーズなお通しが出てきた。
食事をしにきたわけではないんだけどな……と思いながらも、お通しのスティックチーズを一かじりしてみた。
「おいし……」
ユメは思わず口に出してしまった。それほどに、この店のチーズは美味しかった。
口の中でほろっとくずれる柔らかさと、どんな菓子の甘味とも違う絶妙な甘さと、チーズ特有の香りというか、なんというか、味わいというか……。
味に感動したユメは手持ちの宝石の数を数えながら、充分注文できることを確認して、
「か、カルボナーラ、ひとつ」
「お、嬢ちゃん、お目が高い。うちの人気メニューの一つだよ」
そういって、横に大柄な店主は料理を作るために厨房に引っ込んでいってしまった。
ま、待て待て待て。
自分はここに冒険者登録をしに来たのではなかったか。
カウンターの奥の厨房へ入って本題を亭主に説明しようとしたところで、壁に貼り付けられている依頼書に目が行った。
『ゴブリン退治 報酬:E級宝石好きな色三個 木刀級向け』
『トロルの群れ討伐 パーティまたはレイド推奨 報酬:A級宝石五個 脇差級以上向け』
『スラムの辻斬り捕縛 報酬:D~C級宝石六個 色はこちらの在庫次第』
『迷子の猫捜索 とりあえず報酬:要相談(なしになる可能性もあり) 木刀級向け』
「なんだ、この店まともな依頼、あるんじゃない……ちゃんとした冒険者の店みたいね」
ユメはほっと息をついた。どうやらここはただチーズ料理が美味しいだけが売りのレストランではなかったらしい。
そこへ、
「とっつぁん、いつもの。あとなんか一人でもできそうな依頼」
両開きになっているウエスタンドアが突如開き、誰も居ないカウンターにそう言う人影があった。
性別は、声からして、女だろう。