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元気なあの子は訳アリ娘

昨日、なろうで書き始めて初めて誤字脱字指摘を頂きました。

おかげで修正できたことと共にこの場でお礼を申し上げます。

 軍からの、冒険者としての戦術指導の依頼で訪れた孤児院。


 そこで出会った少女の素性は、あまりに現実離れしていた。


「そう、スイはアンデッド化した魔法使い、リッチと普通の人間のハーフなんですよ」


 そもそもリッチっていうか、アンデッドって子供作れるの?


 それも相手は普通の人間??


 性欲湧くの?


 奥さん何を想ってXXされたの?


 子供ほったらかして今何してんのその二人?


 聞いて頭の中が「?」で埋め尽くされているユメに、院長先生はさらに驚くべきことを言った。


「あの子のご両親は健在です。お二人とも国の魔法顧問ですわ。月に一度は娘さんとも会っていますよ。スイが孤児院にいるのは両親の仕事の邪魔にならないためです」


「なるほど、経済的には全く困ってないんですね」


「ええ、この孤児院にも多額の寄付をして頂いてますし、大変親子仲も夫婦仲もよろしくていらっしゃいます」


 ユメは自分のパーティメンバーが実の親に恵まれていない連中ばかりなせいか、ここナパジェイではそんな家族が当たり前な感覚がしていた。


 自分は運よく両親が愛し合って生まれた子供だが、その両親は二人とも捨て子だし、故郷ガサキの町でも義理の親子やら義兄弟は山ほどいた。いやむしろ血縁の家族の方が少なかった。血よりも心で結ばれた絆の方が強い国なのだ、ナパジェイは。


 なぜならそれはお互いの「力」を認めている証拠なのだから。


 そんな国で、アンデッドがアンデッドになってから子を成した者がいて、その親子仲が良好だとは。レアケース中のレアケースと言えるだろう。


 しかし、驚いてばかりもいられない。早くスイたちの元へ戻ってあげて、魔法の稽古の続きを付けてあげねば。


 部屋に急ぎ戻ったユメが見た光景は、またも予想を裏切るものだった。


「わー、スイちゃんすごいー」


「やっぱり宝石使う方が楽なんだね。スイ、自分の瞳からしか使ったことなかったから知らなかったや」


 部屋の真ん中に元はオモチャであろう人形が数体ぴょこぴょこ動いていたのである。ゴーレムを操る魔法の応用―コマンド―だろうか?


「こ、こらー、みんな! 宝石での自分の得意属性発現はどうしたの!?」


「どうしたのって、スイちゃんの魔法見てる方が楽しいんだもん」


 どうやら、他の五人に渡した宝石は全部スイが使ってしまったらしい。安い宝石とはいえ、ここまでのことをホイホイとやらかされると教える側としては立つ瀬がない。


 ユメは懐の宝石袋から闇の宝石を取り出し、自分の「コマンド」の魔法でスイが動かしている人形の制御を奪った。


「あっ」


「スイちゃん、自分ばっかり魔法使っちゃ駄目でしょ。皆が勉強する時間なんだから」


 小さな人形とはいえ、数体を制御するのはきつい。お説教と並行だとこちらが先に力尽きてしまいそうだ。


「お姉ちゃんすごい! スイちゃんよりすごいんだね!」


「すごいや、さすが先生!」


 なんとか名目を保てたところで、人形の制御を解除する。


 態度には出さなかったが、ユメはかなり息が上がっていた。


「スイちゃん、あなたは特別にわたしが個人レッスンをしてあげるわ。他の皆はあの白いローブのお姉さんの部屋に行ってて」


 とりあえず、スイには訊かないといけないことが山ほどある。二人きりになるためにまずは他の子をオトメのいる部屋にでもやって遠ざけなくては。


「えー?」


「大丈夫、あのオークのお姉さんも先生と同じくらい魔法使えるから」


 心の中でオトメに謝りつつ、ユメはスイと部屋で二人になった。


「まず、スイちゃん、あなたが魔法を使えるようになったのはいつくらい?」


「五歳くらいの時。そのときからママがスイの目の色が変わるってパパに言ってたの」


「わたしが勉強させてもらえるようになった頃にはもう魔法の行使まで行けてたのね。なるほど、天才って居るもんだわ」


 もっとも、スイの場合は親からの素養もかなりあるのだろうが。


「スイちゃん、フルネームは?」


「スイ・ショウだよ」


 うーむ。ショウが父親の姓なのだろうか。


「お父さんとお母さんのお名前は?」


「クォーツ・ショウと、クリス・ショウだよ。お姉ちゃん、どうしてスイにだけそんなに色々訊くの? スイがアンデッドの子供だから?」


 ――知っている。スイは自分がアンデッドの親を持つ特別な子供だと知っている――。


「ええ、そうよ。知っているかどうかを知りたかったの。なにせあなたはこれからできる『虎児院』の生徒第一号になって将来は従軍するんだろうから」


 ユメは正直に答えた。


「えー、『虎児院』!? スイはそんなところに行きたくないよ」


「じゃあ、どうしたいの?」


「パパにもママにもまだ言ってないけど、スイ、冒険者になりたいの。いっぱいいっぱい、冒険者の本を読んだの。大陸の本も、ナパジェイの本も。皆楽しそう。仲間と一緒に好きなところをあっちこっち旅するの!」


「ぼ、冒険者……!?」


「お姉ちゃん、冒険者なんでしょ? スイをパーティに入れてよ」


「まあ、ハジキちゃんを入れてもあと一人空きはあるけどさあ。スイちゃんいくつ?」


「十二歳だよ」


 スイは無邪気に言う。


「じゃあまだ無理ね。せめて十六歳になって成人してからでないと冒険者になるのは厳しいわ。わたしも十六歳になるのをずっと待ってたわけだし」


「お姉ちゃんも冒険者になるために十六歳になるのを待ってたの!?」


「そう、スイちゃんと同じ。いっぱい本を読んだのよ。それと、わたしのパパとママ、お父さんとお母さんが冒険者だったの、だから憧れてね」


「へえ、いいなあ。スイのパパとママは普段は塔に籠りっきりで忙しそうだからなあ」


 これは驚いた。


 スイの両親はナパジェイの魔法顧問だとは聞いたが、まさかあの巨塔に常駐しているほどの人物だとは。


「だから、スイはパパとママの代わりに自由に色んな所を冒険して、その話を一杯してあげるの!」


 何とも子供らしい、愛らしい志望動機だ。しかも、ユメと似通っている。その気持ち、分からなくもない。


「よし、スイちゃん。魔法使いとしてわたしが知っている限りのことを叩き込んであげるわ」


「いいの? ええと、ユメお姉ちゃん!」


 うん、この呼ばれ心地、悪くない。

 ひょっとしたら、勝っているのは年齢だけなのかもしれない。


 才能、そして、現時点での魔法の実力さえ、スイの方が上かもしれない。


 いいライバルができた。そう考えよう。

世界観補足


パーティ:この世界のパーティは基本、六人までです。それ以上で組みたい場合は分かれてレイドを組むのが普通です。スイがいかにしてユメたちのパーティに加わるかはもう少し先をお読みください。

名前の由来:スイ、クォーツ、クリス、全員宝石の水晶から。


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