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ナパジェイの国策

 孤児院に一週間後向かうと決まったユメたちは大忙しとなった。


 依頼を持ってきた亭主が軍の言葉を代弁するには……。


「孤児院の中で、幼くても特に才能に優れた子供たちを将来軍に引き抜くために『虎児院』を設立しようと思っている。そのためには数々の修羅場をくぐっている冒険者たちに子供たちに戦いや魔法のイロハを軽く教え込んで欲しいのだ。

 若い冒険者なら心も開きやすいだろうし、女性ならなお子供たちも距離を詰めやすくなる。しかも最近大きな功績を立てたお前たちは適任なのだ。報酬ははずむから、頼む」


「頼む、たってねぇ。わたしもガサキの孤児院で子供たちに混ざって遊んだことはあるけど」


「ようするにガキのお守りしながら、将来強くなりそうな奴を見つけろって仕事か」


「はあ……、めんどくさそう。アタイはパスしてユメやオトメあたりに任せきりたいぜ」


「そんなことを言うものではありませんわ。神の愛以外にも子供たちには親や師の愛が必要というもの。現にわたくしもくどくど以下略」


「…………」


 意外だったのはハジキが話を詳しく聞いてみて、この件に乗り気だったことだ。


 もともとが臨時メンバーなので強敵を相手取りそうなとき以外はユメたちも彼女を誘わないのだが、「……銃の良さを子供たちに教えるいい機会」などと言って、ゴム弾が出るオモチャの銃を自作しようとしてくれるほど、気乗りしていた。


「しょうがねえなあ。じゃ、あたしもあいつにあやかって木剣でも作るか。おい、ヒロイ、お前のベッドから少し木貰うぞ」


「やめんか!」


 非常に先行き不安だった。


 しかし、少し戦いから離れられるこの機会にユメは前々から試してみたいと思っていた術式があった。

 それは下級の宝石数個から上級の宝石を錬成するというもので、ここ最近実戦で魔法を使うようになって、そろそろ自分にもできるのではという気になってきていたのだった。


 この術式を子供たちに見せればいい勉強になるし、何より、魔法使いとしての箔がつく。


「だから、その辺に生えてる樹を使えっての!」


 相変わらずぎゃあぎゃあ揉めているヒロイとヨルは放っておいて、ユメは亭主に許可をもらって数時間一階の防音個室を借りた。


 冒険者の宿には、極秘の依頼を他人に聞かれたくない依頼人などのためにこういう部屋が常備されているものだが、幸い「魅惑の乾酪亭」はその辺しっかりしていた。


 まず、テーブルの上に羊皮紙を置き、五芒星を描く。


 次にF級の風の宝石、つまり緑色の石を星の頂点に五個置く。


 最後に、その星の中心にもう一つ、E級の風の宝石を置く。


 あとは、中心の石に手をかざし、周りのF級宝石から魔力を吸い取って、石に注ぎ込む流れをイメージする。


「くっ……、体力要るわぁ。コレ」


 イメージを崩れさせないように、ユメが念じ続けると、そこには、元のE級より透明度が上がったC級の風宝石が一個残っていた。俗にいうエメラルドに少し近づいた感じだ。


 装飾品としてのエメラルドに使えるくらいの輝度を得るには最低A級になる。


 こうやって宝石の価値を高める儀式を「錬成」と呼び、かなり高位の術者でないとできない。


 ちなみに「魔女」の異名を取ったユメの母はこれを五個ではなく三個でB級を錬成していた。


 故にユメ一家は冒険者を引退しても家計に困ることはなかったのだが……。


「んー、価値としては少し上がったけど、まだまだ実用性には欠けるわねこの錬成。まあ子供相手の見世物の魔法としては危なくないし、充分かぁ」


 ちなみに、ユメが持っているA級エメラルドは母が念のためにと持たせてくれた一個きりだ。

 これを使えば食人鬼程度なら一撃で吹き飛ばせるほどの魔法が使えるだろうが、今のところ、自力でA級宝石を手に入れられる冒険者になるまでは使うつもりはない。


 最近、かなり強いモンスターを狩ることが増えてきたが、そもそもナパジェイという国で人間を襲うという理由でモンスターを狩るのは冒険者の仕事として正しいのだろうか?


「殺されても自己責任」な「力」が支配する島国、ナパジェイ。

 そう考えると、成人してすぐに自分の身くらい自分で守れるように幼いうちから鍛えておくのはこの国の国是に最も適した国策なのかもしれない。


「軍は軍で、馬鹿の脳筋が揃ってるわけでもなさそうね」


 ユメは亭主から聞かされた軍の方策を思い出しながらひとりごちた。

 あるいは、知恵も「力」と見做されるナパジェイのこと、誰か、軍の上層部に入れ知恵をした者がいるのかもしれない。


 この仕事、思ったよりもでかい山かもしれない。


 やる気のなさそうなヒロイやヨルにも。


 やる気があるんだかよく分からないオトメにも。


 妙にやる気に満ちているハジキにも。


 訪問までに一度、気合を入れ直すように言っておく必要があるかもしれない。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 当日、貧民街にある孤児院に行ってみた一行を迎えたのは、元気が有り余った子供たちではなかった。


 孤児院の扉の前で衛兵二人を侍らせた、ミノタウロスの亜人の女性だった。


「貴様らか、依頼を受けた冒険者というのは。報告通り、皆若いな。私はナパジェイ軍少将エーコという。本日はよろしく頼むぞ」


「はい、よろしくお願いします」


「指導の方針はすべて貴様らに任せる。本日私がここに来たのは念のため、子供たちに大きな事故が起こったりしないかの査察だ」


「了解しました」


 そこで、エーコ少将は言い忘れていたことがあったとばかりに付け加えた。


「ナパジェイでは、少なくとも、帝都キョトーでは義務教育内で『木刀』冒険者程度の実力を身に着けることを方針とする予定だ。だからこそ『虎児院』の設立が提案された。成人してから自己責任で生きていける程度まで鍛えていては遅いからな」


 なるほど、ナパジェイらしい国策だ。

 ユメが父親から剣術を、母親から魔法を習い始めたのが五歳からだったのが思い出される。ヨルやハジキは知らないが、ヒロイやオトメが育ての親から戦闘の訓練を始められたのもそれくらいの歳からだろう。


「長話が過ぎたな。早速入って始めてくれ」


 そして、孤児院での初依頼が開始されたのだった。


世界観補足


ナパジェイの孤児院はほとんどが税金と寄付金で賄われています。以前ウェッソンがハジキを孤児院に連れて行こうとしていたのも、ある程度安定した生活が見込めるからなのです。

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