祝! 冒険者ランク認定
数日後。
ユメたち四人に、仮メンバーハジキを加えた五人は帝都キョトーの軍を訪れることになった。
ちなみに帝都の軍本部はキョトーを象徴する巨塔の中にある。普段は余程名のある冒険者しか立ち入ったりしないが、どうやら、持ってきた物資と情報が情報だけに、直接中へ通してもらえた。
「うおー、冒険者やってて、あの巨塔の中に入る機会が来るなんてよー。ハジキってマジでアタイらのラッキーガールなんじゃね?」
「あたしもスラムにいた頃にはここに入る日が来るなんて思いもしなかったぜ」
ヒロイとヨルも感慨深げだ。
ユメが一階の窓口に用件を伝えると人間の男性受付から事務的な返事が返ってきた。
「ふむ、しばらくしたらその工場跡の検分結果と諸君らの功績を冒険者の宿へ伝える。宿の名前と各々の冒険者ランクは何だ?」
「『魅惑の乾酪亭』、です! 冒険者ランクは……そういえば申請してませんでした」
「聞いたこと無いな……。念のために場所も教えておいてくれ」
「えっと、裏通りをこれこれこうこう」
「冒険者ランクは追って軍から正式に認められるだろう。しかし、大抵は亭主が認定しているものだがな。よっぽどずぼらなのだな。そのみわくのなんとかは」
ちょっと宿の悪口を言われてしまったが、これで自分たちにも冒険者ランクが付くだろう。
それにしても『魅惑の乾酪亭』の亭主はそんな当たり前の仕事もしていなかったのか? それとも常連のヒロイを「苦無級」に認定した以降、誰も級の認定をするほどの冒険者が現れなかったのか。
ちなみに、こういう交渉役は一番角が立ちにくいユメがやるのが暗黙の了解になっていた。
いくら差別の無いナパジェイとはいえ、パーティを代表するのは種族のマジョリティである人間がいい。
というか、他の全員が全員交渉に向かない性格をしているというのもあるが……。
それからさらに数日後。
今日は仮メンバーとしてハジキも来てくれたので若干強めの強盗モンスターの群れを狩りに行った帰り、いつものように「魅惑の乾酪亭」で一杯やろうと凱旋した日のことだった。
ハジキは戦力としては凄まじく、手にしたマスケット銃が戦闘中に弾切れを起こせば、すぐに別の銃を取り出し、断続的に敵に攻撃を仕掛けるダメージディーラーだった。
そんな、五人での戦いにも慣れてきて、このままハジキが正式メンバーになってくれないかなあ、なんてユメが思いながらウエスタンドアをくぐったとき、
「やあ、おかえり! 帰ってくるのを待ってたぞ!」
と、妙にテンションの高い亭主に迎えられたのだった。
なんでも、サガが見つけた遺跡は銃の鍛冶場としてかなりの規模を持っていたらしく、それにハジキが模写した図面も戦乱後期のかなり価値ある資料だったとのことで、パーティの功績が軍で大きく取り上げられたとのことだった。
「ほれ、報酬だ。宿の取り分はちゃんともらってるから安心しろ」
大柄な亭主をしてなお大きく見える皮袋の中には高額な宝石がたんまりと入っていた。
「やっほいやっほい! これ山分けしてもじゅーぶんお釣りが来るほどの儲けよ!」
「すげー、こんな大金初めて見たぜ」
「あの猫女に乗せられて正解だったなこりゃ」
「ああ、どうしましょう。神殿への寄付はどれくらいが適切かしら?」
「……私も含めて五等分でいいの?」
「あったりまえじゃん! ハジキちゃんがいなきゃもらえなかった宝石だよ?」
五者五様の言い方で喜びを表現していくユメたち。
そこへ、亭主がやや遠慮がちに声をかける。
「あー、お前たちに軍から伝言を預かってる」
「伝言ぅ? 渡しすぎたから返せなんて言うんじゃないでしょうね」
「違う違う。軍のトップからのメッセージだ」
「は?」
軍のトップ。
ナパジェイ帝国の軍のトップは当然皇帝なわけだが、まさか天上帝から直接お言葉を賜るわけがあるまい。
この場合は軍組織としてのまとめ役、具体的に言えば軍最高司令官ダイサン元帥のことだろう。
「“新進気鋭の冒険者の出現を喜ばしく思う。今後もこの帝国で『力』を示し続けよ”、以上だ」
「それだけかよ、もっと大胆に褒めちぎってくれるのかと思ったぜ」
「でも、名誉なことだよ」
「ですね。ナパジェイらしいほめ言葉ですわ」
そう言って短い祝辞を受け止めていると、亭主が続けた。
「そうそう、お前ら五人とも今日から脇差級の冒険者な」
設定を忘れている読者の方のために再度説明すると、ナパジェイの冒険者ランクは「木刀」「苦無」「小刀」「脇差」「太刀」「打刀」「大太刀」と級ごとに分けられており、「脇差」は中堅クラスだ。普通の冒険者なら「木刀」からなるのに一年くらいかかる。
ちなみに「大太刀」の上にも「名刀級」「妖刀級」という規格外のランクがあり、これらはもう『ドラゴン倒しました、国救いました』、とかいう英雄クラスに送られる称号だ。
とりあえず、今はユメたちが中堅冒険者の仲間入りをしたことだけ理解してくれればよい。
「実はまだ話は終わってなくてだな、今回の功績で、軍から直接お前たちパーティに依頼が来たんだ。受けるか?」
「軍から直接!? そりゃもうまた報酬がっぽりでしょ受ける受ける」
ユメは大喜びで亭主の話に乗った。
正式に冒険者ランクがもらえたことも嬉しいのに、その上軍から直接任務が来るとは。
もう、あの銃の遺跡を攻略して以来いいことづくめである。
「それが、孤児院の子供たちの面倒を見るって依頼なんだが……、受けるんだな? 返事しとくよ」
「って、ちょっと待って、モンスター退治とかじゃなくて? 孤児院の子の面倒?」
「なんで軍が孤児院のことなんかに干渉すんだよ?」
「まあ……、孤児院は国家直属の施設ではありますが」
「……私、要らないよね?」
軍からの依頼のあまりの意外さに、一同ポカーンとしてしまう。
「いや、ハジキもいたほうがいいと思う。『パーティ全員が若い女性、異種族混成、神官もいる。色んな戦い方をする』。お前たちこそがベストなんだとよ」
亭主の次いだ句に、ますますユメたちの困惑は深まった。
世界観補足
冒険者ランクは普通宿の亭主がある程度自由な采配で決められるが、「脇差」くらいになってくると軍の許可が要る。ちなみにナパジェイに冒険者ギルドはなく、軍が直轄で冒険者を管理している。




