凄腕スナイパーは仮加入
ヒロイの頑丈さとユメの補助魔法を併せても、あの銃撃の嵐を浴びればひとたまりもない。
ヨルに速度上昇魔法をかけるから避けろと言ってもそれは無茶というものだろう。
「おい店員さん、これと同じようなのがまだ売ってたらありったけ売ってくれ」
「…………」
ハジキは黙ったまま、反応すらしない。
「聞いてるのか?」
「……ウェッソンに訊かないと、値段つけられない」
「ちぇっ、さっきは勝手に見物料取りやがったくせによ」
ヒロイがなんとか交渉しようとして糸口さえつかめないところへ、
「その鉄板なら何の加工もなしならE級宝石二個ってところだな。何枚要るね?」
背後から男性の声が聞こえた。ウェッソンが帰ってきたのだ。
「ん。使えそうな板、あるだけ」
「なんに使うんだこんなもん。持ちきれるか?」
そうしている間にユメはウェッソンも帰ってきたことだし、ハジキを冒険に連れ出す話を始めようとした。
「ハジキちゃん、冒険には興味ない?」
「…………。ない」
「その銃の腕をもっと活かしてみたいって思わない? ハジキちゃんなら冒険者登録すればすぐに小刀級はかたいよ」
「……こんなの、たいしたことない」
「そんなことないよ! 鍛えて持ちえた立派な『力』だよ。せっかくだし、使わないともったいないよ」
「……魔族にとっての力は、闇の魔力。こんなことができたって、何の価値もない。……『力』とは認めてもらえない」
ハジキはなかなかに頑なだった。
やはり魔族と人間には価値観に大きな隔たりがあるらしい。
「ねえ、今度わたしたちが攻略しようとしてる遺跡は、銃の遺跡なの。作られたのに使ってもらえなかった怨念が銃に宿ってわたしたちを通すまいとしてくるの。興味ない?」
「……ある。きっと奥ではこないだ見せてもらった銃よりもっと性能のいい銃を開発してた、はず」
食いついた……!
あともう一息だ。
「でも……、私は私に価値を見出せない。誘ってもらえても、銃を撃つしかできない」
「それでいいんだよ! ハジキちゃんは敵を銃で撃ち落してくれればいいの! 魔族が使うような闇の魔法なんて使えなくたって、わたしたちと一緒に冒険、しよ?」
「……冒険……、でも私が行くとこの店の店番がいなくなる」
「何言ってやがる。ほとんど接客もしないくせに」
そこへ、ウェッソンからのツッコミが入った。
うつむいたハジキは、しばらく考えた後、言う。
「…………。人間のあなたには分からないかもしれないけど、魔族の階級制度っていうのは、絶対なの。私は生まれつきの落ちこぼれなら落ちこぼれなの。これは、たとえ私が死んでも変わらない事実」
「だから、そんな事実を否定するために、ナパジェイの国是、『力』と『自己責任』があるんじゃない!」
「……だけど私が生まれた家は国是より魔族としての誇りを選んだ。だから、私に何もさせてくれなかったの。ウェッソンに拾ってもらって、銃と出逢うまで、私には何もなかった」
「だからその銃の腕をわたしたちが『力』と認めるって言ってるのよ」
「……駄目、私はあなたたちの仲間にはなれない。認められないの、自分を」
この魔族の少女は相当に心を凍てつかせて生きている。その凍りついた心が簡単に解けはしない。
そこで、ユメは攻め方を変えた。
「だったら、仲間にならなくていい。冒険者じゃなくて、今回一度きりの『傭兵』でいい。今、わたしたちはあなたの『力』が必要なの」
「……傭兵?」
「ウェッソンさん、それならいいですよね?」
「ああ、ハジキの意思を尊重するよ」
「どうだ? 無口女は口説き終わったのか?」
黙っていたヨルが言ってくる。オトメも、ヒロイも、ユメとハジキの会話に、あえて割りこまなかったのだろう。
「……わかった、あなたたちの輪には入れないけど、傭兵として、今回限りなら」
やっと、ハジキは承諾してくれた。
「なら出発は明日。また荷馬車を使って行く。ただし今回は荷物も人数も多いから前よりいい奴を借りようぜ」
「そうね」
「そうですわ、ハジキさん。今夜くらいは夕食を『魅惑の乾酪亭』で召し上がっていくのはいかがでしょう? 冒険者の宿としてはともかく、あのチーズ料理だけは立ち寄る価値がありますわ」
「ああ、賛成だ。あそこはここキョトーで飯だけは一番うまい」
ナパジェイにおける「力」の示し方、それはなにも暴力に限らないのだ。料理の腕一つでも人を惹きつける「力」となる。
実際に、魅惑の乾酪亭のチーズ料理はハジキの好みにも合ったようで、出発前にほんの少しだけ打ち解けられた気がした。
世界観補足説明
魔族の階級制度:魔族は生まれつきある程度能力が決まっており、人間やモンスターと違い成長という概念が薄い。もちろん修行によって能力は伸びるが、そうすることは劣った種族のする行為だと魔族の間では軽蔑される。




