スナイパー・ハジキ
ようやくリニューアル後、メンバー中一番お気に入りのハジキを活躍させられます。
「サガ! 何を騒いでいるの!?」
「おい、帰ってきたぞ。俺じゃなくて本人たちに言ってやりな」
亭主が言うと、店の真ん中でロンパース一枚の姿で素足で喚き散らしていた人物――猫化人のサガはぐるん!とこっちを向いてきた。
「あんたら、それでも冒険者にゃ!? せっかくあたしが売った情報をフイにして帰ってくるにゃんて!」
「おいおい、何を怒ってるんだ?」
事情はよく分からないが、ユメたちに対して、サガはブチ切れんばかりに腹を立てているらしい。
「『危“険”』を『“冒”す』者と書いて『冒険者』にゃ! それを、『危なそうだったから奥を調べずに帰ってきた』あ!? これが怒らずにいられるかにゃ! こんな根性にゃしに情報売るんじゃにゃかったにゃあ!」
どうも、サガは自分が売った遺跡だか洞窟だかの扉の奥を調査せずユメたちが安全策を取って帰還したことに大層おかんむりのようだ。
「だってしょうがないじゃない、扉開けたら宙に浮いた銃の魔物がバンバン撃ってきてそれ以上進めなかったんだもん」
「そして、そいつらが銃の『付喪神』だろうと、見当を付けた。そこまではいいにゃ」
ふう、と、あまりに大声を出し続けて疲れたのか、サガはそこで一息ついた。
「付喪神ならアンデッドにゃ! 神官を連れて行ったくせに『リ・バース・アンデッド』の魔法も試してみなかったにゃ!?
ゴーレムもボーンじゃなくてもっともっと頑丈なゴーレムを盾にする案を考えなかったにゃ!?
にゃんだったら馬車の荷台を盾にするとか考えなかったにゃ!?
第一、銃にはリロード時間があるんだから、弾切れを起こす隙を作ってみようかとか、ちっとは頭を働かせなかったにゃ!?」
亭主には自分たちがどうしたかのあらましを話しておいた。その彼から聞いた客観的情報だけで、今サガはこれだけのアイデアを出してみせたのだ。
ヨルが只者ではないと見抜いていたが、サガが相当に冒険者としてベテランなのは間違いないらしい。
「とりあえず、あたしが売った情報でそんなとんぼ帰りしてきたにゃんて、許さにゃいにゃ! にゃにがにゃんでももう一回行って、死んでも扉の奥を調べてくるにゃ!」
サガは言いたいことだけ言って、ボン!と音を立てて周りに煙を巻くと猫の姿になっていた。
「ここは『力』が全てのナパジェイ! けど知恵も機転も『力』にゃ。それもうまく使えにゃい奴は冒険者続けてもどっかで野垂れ死ぬだけにゃ!」
そしてそのままもう一言捨て台詞を吐いて店から出ていった。
どうやら、本当に何も注文せず、ユメたちパーティの冒険の首尾だけ聞きに来たらしい。
あとには、彼女が着ていたロンパースだけが床に残された。
「おい、ユメ……」
「ねえ、ユメさん……」
「なあ、ユメよお……」
「もちろん、あんだけ言われて、黙って引き下がるつもりじゃないよ?」
ユメは決意を新たにすると、パーティ三人の顔をそれぞれ見ていった。
「いったん、作戦会議だね」
ユメたち四人はみなが寝泊りしている二階の部屋に上がった
「たしかに『リ・バース・アンデッド』は試そうとも思いませんでしたわ。あの魔法はある程度対象に近づかないと効果を発揮しない上に、一度に一体までしか効きませんもの」
まず、オトメが先ほどのサガの案を思い出して、そう言う。
「それ以前に、結構高等な魔法だよ? オトメちゃんが使えるってだけでわたしはびっくり」
「もっと頑丈な盾でもありゃあ、しばらく持ち堪えて弾切れを待つなんてことも思いついたんだけどよ。だいたいあの荷台、木製だったぜ。あっという間に蜂の巣さ」
「耐えることばっか考えないで、あの銃を射落とす手段がないと結局通れねえぜ。弓の名手でもパーティに誘うか?」
「それか、こっちも銃……銃使い……を……」
そこまで話し合った時点で、ユメにあるアイデアが閃いた。
「あ、あの子、あの子を連れて行くっていうのはどう? 腕を確かめてからだけど」
「あの子ぉ? どの子だよ」
「ほら、ジャンク屋で会った……」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
翌日、ユメたちはまたしても「ジャンク屋・スミス」を訪れていた。
「ねえ、あなたの腕を見せて欲しいの」
「…………」
まずはそういう言い方で、ユメはハジキの興味を誘った。
「下に庭があるんでしょ? そこに藁人形でもジャンクでも何でも置いて撃って見せてよ」
ウェッソンが不在だったのをいいことに、ユメたちは勝手にハジキを外へ連れ出し、ヒロイに持たせていた案山子を遠くに立てて銃で撃ってもらった。
「……どこを狙えばいい?」
「ん、じゃあおでこ」
パン!
ハジキが構えたマスケットから発射された弾丸は見事に案山子の額を打ち抜いた。
「右肩」
パン!
「左腿」
パン!
「心臓」
パン!
寸分違わず、一人づつのリクエスト通りの案山子の箇所を、ハジキは見事に撃ち抜いていく。しかも、口に出して、ほぼ間を空けずすぐにである。
この反応速度、射撃精度、そして昨日の組み立ての技術も。
彼女は、とんでもないスナイパーだ。
ユメはヒロイ、ヨル、オトメの顔を順に見ていき、「うん」と同時に頷いた。
と。
ハジキがこちらに対して目だけで「用は済んだか」とばかりに訴えてくる。
「うん、すごいよ、ハジキちゃんありがとう! わたしこんなに銃をうまく使いこなしてる誰かを見るの初めて」
拍手しつつ、褒め称えると、ハジキはさして嬉しそうにもせず、ただ、手のひらを上に向けてこちらに差し出してきた。
「……弾代と、見物料。ただじゃない」
「えー……、しょうがないにゃあ……」
ユメが心底ため息をつき、そう言うとほんの少しだけハジキがユメのサガ口調に反応した。もしかして、面白かったのだろうか?
「オトメちゃん、共有財産からで」
「は、はい……」
安物の宝石をいくつか受け取ると、ハジキは「店番」とだけ言って、銀髪をひらめかせてジャンク屋に戻っていってしまった。
「おい、ユメ、アタイらもジャンク屋に戻るぞ。あいつを連れて行くのとは別で、買いたいもんがある」
ヒロイがそう言ってハジキの後を追う。買いたいもの、とは何だろう?
「よかった、売り切れてないな」
いち早くジャンク屋に戻ったヒロイが手にしていたのは分厚い鉄板だった。そういえば昨日も見ていた気がする。
簡単にあの幽霊銃に撃ち抜かれないように盾に使うというわけか。
ヒロイはヒロイで考えていたようである。
世界観補足
付喪神:ユメが推測していた通り、あの幽霊銃は付喪神である。元ネタはサガフロに出てきたモンスターの魔銃。ただし無差別憑依などはしてこない。




