最下級の烙印を押された者
ウェッソンはぐるりとユメたち四人パーティを見回すと、こう言った。
「俺から見ればお客さんらも充分変わってるがね。人間に、角なし竜人に、忌み子の人間、それにオークの亜人? 妙な取り合わせだ」
「別に変わり者で揃えたつもりはないんですけど、成り行きでこの四人でパーティでやってます」
「変わり者の女の子っていえばいい勝負だな。あの子の名前はハジキ。姓、っていうか魔族でいうところの氏族名は与えられてない。名前の通り、ハジかれちまったのさ、親からな」
「もしかして、最下級魔族に生まれたから……?」
「ご名答。魔族としちゃ結構名のある氏族に生まれたって言ってた。けど、魔族は生まれたときの能力や出来を非常に気にする。ハジキは魔族なら皆得意なはずの闇魔法の才能も欠片も持っちゃいなかった。生まれつき、尻尾もねえ人間みたいな姿の最下等魔族だった。だから『ハジキ』なんてひでえ名前を付けられて放っとかれたって話だ」
「捨てるより幾分マシじゃねえか」
そこまでウェッソンの話を聞いて、ヒロイが言った。
さっきもそのようなことを言われたが、ユメのパーティで産みの親から捨てられていないのはユメ一人なのである。
ヨルは忌み子として、大陸のどこかからナパジェイに島流し。
オトメは亜人に生まれてしまったことから、シコク島から本土へ島流し。
ヒロイは角を持たず生まれてきたため、捨てられ、人間の夫婦に拾われた。
それでも、ハジキは家から捨てられはしなかった。
三者三様、それぞれの思いを胸にハジキの境遇を聞いていた。
ユメだけは温かい両親のもとで大事に育てられたので、ハジキを含む四人の気持ちはまるで理解できない。
自分が産んだ子を捨てる親がいる事実がまだよく分からない。
「ハジキは、根が誇り高くて我慢ならなかったのか、嫌気がさしたのか、とにかく、理由は語っちゃくれないが生まれた家を飛び出した。そして浮浪児として生きていたのさ」
「そして、ウェッソンさんが拾った、と?」
「まあな。戦争で無くしちまった右手が、道端で座り込んでるあの子の方に何故か伸びてな。ただ、放っておけなくて連れて帰ったんだ。言っとくが俺はロリコンじゃねえぞ。とにかく、ジャンク屋に連れて行ったら銃に妙に興味を示してな」
「で、そのまま養い続けてるって訳ですか」
「折を見て孤児院に連れて行くつもりだったんだ。その方がまともな暮らしができるだろうしな。だが、できなかった。孤児院に銃を持ったまま連れていくわけにはいかない。あの子と銃を引き剥がすことが、俺には……できなかったんだよ」
そこで、ヒロイが茶化すように言った。
「それってさ、あの子はもうあんたのことを……」
バキューン!
台詞は大きな銃声に遮られた。
恐る恐る、カーテンの向こう側を覗くと、ハジキがさっきの劣化した銃を組み立て直してこちらへ銃口を向けていた。
「……直った」
ハジキが、銃を構えたポーズのままぼそりという。
「ウェッソン。部品、だいぶ新しいものにしたけど、この子、直ったよ。……暴発もしなかった」
「ハジキ、店の中で銃撃つなって何遍言ったら分かるんだ! 客に当たったらどうする」
「…………」
ユメたちはもう言葉も出ない。ジャンクパーツとして、遺跡の情報代として払った宝石代以上の値段で売れたというのに、このハジキという娘、なんとそのジャンクを直してしまったのである。
「……今度は店の中で撃たないから、他の子も直していい?」
「試し打ちは庭でやるんだぞ?」
「…………」
ウェッソンにそう言われると、ハジキはまた銃の修理に没頭してしまった。
すると、ヒロイが壁に立てかけられた分厚い鉄板を見ているのが目に入った。大きさはドアくらい。
あんなもの、何を思って見つめているのだろう?
「ヒロイちゃん、どうしたの?」
「ああ、珍しいジャンク屋だと思ってな」
「うん、色んな意味で珍しい店だね」
ユメは以上句を告げず、また撃たれても怖いので、とりあえず買い取り額の宝石を受け取って、揃ってウェッソンの店を後にした。
向かう先はすっかり自分たち四人の帰る場所になった「魅惑の乾酪亭」である。
同じ裏通りにある、亭に近づいた途端、店の中から怒号が響いた。
「にゃぜ、ベストを尽くさにゃかったのにゃあ!」
その声というか、喋り方だけで誰が発しているものかは分かったが、何か揉めているようなので、ユメたちは急いで店の中に入った。
ユメたちが魅惑の乾酪亭に帰ってくるなり、聞き覚えのある怒り狂った声が聞こえてきた。
世界観補足
人名の由来
ハジキ:銃の通称と、氏族からハジかれてしまったことから。闇魔法の才能に恵まれれば立派な氏族名が付いたのであろうが、持たなかったため、姓を名乗らせてもらえなかった。ちなみに16歳。成人したばかり。




