魔族―その名はハジキ
こういう無口系キャラって一時期めっちゃ流行りましたよね。
魔族。
人間に敵対する存在として歴史上いつから現れたのかそれさえ定かではない、呪われし悪逆非道の生物。
例外なく銀の髪と赤い瞳を持ち、その肌は浅黒く、耳は尖り、先が矢じりのようになった尾が生えている。もちろん、死ぬと額に宝石を発現させる。そこはモンスターと同じだ。
しかし、ジャンク屋にいた目の前の魔族からはそういう禍々しさは一切感じない。
プラチナブロンドの髪に水兵服のような服を着た姿は儚げな印象さえ受ける。
赤い瞳で銃身を見ながら一心不乱に磨いており、時折、発砲するように構える。
そして、「ふう……」とため息を吐く姿は魔族と相対したときのそれとは別の恐怖をユメに与えた。
切れ長の瞳は銃しか見ておらず、ほとんど動かない口元も、ややヒトに近い色をした色白の肌も、全てが今までに出会ったどの魔族とも違う。
尻尾も生えていないし、まるで、人間のようなのだ。
魔族には貴族制が敷かれているのでこんなジャンク屋にいるということは、この少女は何かしらのはみ出し者なのだろうが、それを聞き出す気はしない。
そこへ、ようやく助け船が出された。
「おいハジキ、客が来たら『いらっしゃいませ』ぐらい言えって教えてるだろうが」
カーテンを持ち上げながら現れたのは右腕がない、隻腕のドワーフだった。年齢は、ドワーフなので分かりにくいが、うちの亭主と同年代くらいだろうか。
「ほら言ってみな。い・らっ・しゃ・い・ま・せ」
「…………」
そう言われても、ハジキと呼ばれた魔族の少女は銃身から顔も上げず、黙ったままだった。
しかし、やがて、掠れるような声で、ぽつりと言った。
「……ぃませ」
「お客さん、うちの店員が失礼しました。本日はお買い物で? 売却で?」
「あの、売却で……。随分個性的な店員さんですね」
ユメが代表して受け答えをすると店主らしきドワーフは表情を曇らせた。
「種族の、ことを言ってます? それとも、性格の方で?」
「両方、です。あの、あなたがとっつぁん――魅惑の乾酪亭の亭主の紹介にあったウェッソン・スミスさんでよろしいのかしら?」
「いかにも、俺がウェッソン・スミス。こんな店に来たってことは他じゃ売りにくいものを売りに?」
「ええ、ヒロイちゃん、見せてあげて」
ユメは振り返って、スペース的に狭かったので外で銃を持って待機してもらっていたヒロイに声をかけた。
「ほらよ、遺跡みたいなとこでホトケさんが持ってたもんだ。売れるか?」
そう言ってヒロイはまず一つ、ウェッソンに白骨死体が持っていた銃を渡す。
が。
その様子に目が釘付けになっている人物がいた。
あの、銀髪の魔族の少女だ。
「…………」
「あんだ? そんなにこの銃が珍しいか?」
「……ううん、戦乱後期に量産され一般兵に支給された、特に珍しい一品でもない。しかも経年劣化が激し過ぎる、大した価値もない」
「しゃべった……」
ユメはこの少女がこんなに長い台詞を発したことにまず驚いた。
「おいおい、ハジキ、買い取るかどうか決めんのは俺だ。勝手に価値を付けんでくれ」
ウェッソンにそう言われると、ハジキは、
「……本当のことを言っただけ。それに銃の持ち運び方も雑。価値下げられても文句言えない」
そこでヒロイはさすがにこの魔族の少女の言い分に腹が立ったようで、
「なんだ、この魔族? じゃあそのテメエが大事そうに持ってる銃よりずっと価値がないって言いたいのかよ」
「……私の愛銃と一緒にしないで」
「あいじゅうだあ?」
「…………」
もう話は終わったとばかりに魔族の少女――ハジキはまた人形の様に押し黙り、持っていた銃の整備に戻ってしまった。
「えーと、これと同じ品を六丁だな。ちょっと待ってな鑑定する」
とりあえず、ほとんど口をきかない少女は置いておいて、オトメからヨル、ヒロイへと狭い店内へ、しかもウェッソンは左手で一度に一つしか持てないのでリレーで銃を渡していく。
そして、しばしの鑑定の時間が流れた。
「うん、全部弾切れ。修復しての使用は不可。部品取り用以上の価値はないな」
残念ながら、ウェッソンにそう結論付けられてしまう。
そこで、意外なところから声がかかった。
「……待ってウェッソン。この子たち、直らないとは限らない。一つばらしていい?」
ハジキだった。
いつの間にか、どこからともなく工具を持ち出し、比較的劣化が少なく見える銃を分解していく。
正直、ユメたちが見ていてもどこをどう、何をしているのかさっぱり分からない。
「おいおい、本格的に壊して売り値を下げようってんじゃないだろうな」
ヨルが口を挟むと、ウェッソンがそれを否定する。
「いや、査定価格はもう決まってる。銃の部品なんて珍しいから一つあたりC級宝石一個だ。後は買い取ったものをどうするか、客の前でやるか、客が帰ってからやるかの違いだけだよ」
「はあ……」
一番後ろにいたオトメが本当に状況を分かっていないように生返事を返す。
ユメはとりあえずの黒字にほっとしていると、不意にウェッソンがカーテンの奥へ一行を招いた。
ハジキは相変わらず銃の分解に夢中で、ユメたちが店の奥に入って行っても一切気にする様子はない。
カーテンの奥は作業場のようになっており、買い取ったジャンクをここでばらして使えるものと使えないものに選別しているようだ。
そして、声を潜めてウェッソンが言う。
「さて、気になってるんだろう? あの娘の素性」
「ええ、まあ」
実はユメ以外は大して気にしていないのかもしれない。だが、少なくともユメは知りたかった。
いくらナパジェイとはいえ、こんな街中の場末のジャンク屋に魔族が居れば気になるのは当然だ。
世界観補足
人名の由来
ウェッソン・スミス:アメリカの銃器メーカー、スミス&ウェッソンから




