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ナパジェイでの生き抜き方

(これは馬車を降りるのを早まったかな……)


 ユメは後悔していた。ああ、荷台が恋しい。


 そういえば1話で、宝石を手に入れる三つの手段のうち、最後のもう一つの手段を説明していなかったので、今のユメには不可能だが説明しておこう。


 街で物々交換、もしくは購入するのである。

 そこそこの規模の街なら大抵魔法使い向けの宝石屋を営んでいる店がある。


 しかし、こういう物々交換の宝石屋は自分である程度純度の高い宝石に練成してから売っているので交換に必要な宝石の個数や物品の価値もそこそこになる。


 モンスターが持っていた武器なども交換すれば微量ながら収入になる。また、珍しいモンスターの遺体などを引き取って研究する業者もいる。


 なんにしても現在、どこともしれない街道にいるユメには街での宝石の交換や購入など夢のまた夢である。


 さて、視点はまたユメに戻って……。


 とぼとぼと、いつになったら帝都に着くのだろうと考えながらユメが歩いていると、またモンスターが現れた。


 今度はコボルトだ。


 ラッキー、しかも一匹で背中を見せながらのこのこと歩いてやがる。


 これなら魔法に頼らずともアーミーナイフだけで仕留められるかもしれない。

 節約のためそう決め、気づかれないうちにユメは得意でない接近戦を目の前のコボルト目がけて仕掛けた。


 ちなみに、ユメの父は魔法剣士、母は魔法使いだったのだが、娘のユメは父の剣術の才能をあまり受け継がなかったので、先程のゴブリン戦のように母譲りの魔法メインの戦い方をしている。


 なお、今目の前に見つけたコボルトもゴブリンと同じく最下級のモンスターで、長い耳を持った小柄な毛むくじゃらの人型の生き物である。

 こいつ生意気にも腰から鞄なんか下げてやがる。

 丁度いい、宝石が入っていたら路銀の足しにしよう。


 ユメが向かっていったことで、こちらを振り向いたコボルトは、ユメが肩口から袈裟切りにしてやろうと振り被ったナイフを、持っていた短い木の棒で受け止めた――!


「なっ、なんだ、おいはぎかっ!?」


 さらに生意気なことに、このコボルト、喋りやがった。


 そして、自分が襲われていると分かると、ユメのナイフを棒で弾き飛ばし、闇雲に振るってきた。

 その棒の一打がユメの右脚に当たり、


「イタッ!」


 致命傷ではないにしろ、ダメージを受けてしまった。


「ぼ、ぼくはまだしぬわけにはいかないんだぁ!」


 ユメは、弾き飛ばされたナイフを拾いに行きたくても、必死で棒を振り回すコボルトが邪魔でできなかった。


 それにしてもこいつ、コボルトの分際で言葉を話し、死を恐れるとは。


 ますます生意気な。

 しかし、それなりに知恵をつけているなら逆に報酬も多めに見込める。


 組み伏せるか……?

 いや、体格では人間のユメの方が大きくても相手の方が力が上かもしれない。


 ユメは諦めて、先ほどのゴブリンを倒したときに手に入れた闇の小さな黒い宝石を取り出して、握りしめた。


「ダーク・ミスト!」


 ユメが魔法を唱えると、半狂乱になっているコボルトの目を暗い霧が覆った。


 相手の視力をほんの数秒奪う魔法だ。

 魔法が発動すると同時に、ユメの手の中にあった黒い宝石も消え失せる。


「がうっ!? う?」


 コボルトは訳が分からなくなって、動きが止まる。


 その隙を見逃さず、ユメは右脚の痛みをこらえ、先ほど弾かれた自分のナイフの元まで走った。

 そして、そのナイフで、今度こそ背中から目の見えないコボルトをバッサリやってやる。


「クっ、クウウウウウウ!」


 迸るどす黒い血しぶき。

 それでもコボルトはまだ動きを止めないので、喉を掻き切ってやると、ようやく悲鳴すら上げなくなり動きを止めてバタリと倒れた。


「ご、ごめ……」

「ふぅ……」


 生意気どころか後味の悪いことに、死に際に、謝罪しようとしていた。


 一体誰に言おうとしたのだろう? 仲間か、兄弟か、……家族か。


 ユメにとって、コボルトが死んだかかどうかなどどうでもいいのだ。

 こいつが果たして何色の、何級くらいの宝石を落とすかなのだ。


 やがて、倒れたコボルトの額から藍色の宝石が出てくる。


「やった! 水だ!」


 これはありがたい。

 飲料水を提供してくれ、回復にも使える水の魔法が使える青の宝石は使い道が多いのだ。


 しかし。


「ううっ、()っ!」


 喜びもつかの間、コボルトの一撃で脚をやられていたことを思い出した。

 正直、利き脚を怪我していてはここからどれくらいあるかも分からない帝都まで歩いて進むのはきつい。


 虎の子の、透き通ったC級の青い宝石を使うにはまだ惜しい、浅い傷だ。

 せっかく手に入れたこのD級の水の宝石の使い道は足の治療魔法用に決定……と思ったが、どうにもこいつを手にかけてしまった宝石で癒すのは胸糞が悪い。質が低めの白の光の宝石を使って癒そう。


 ここは「力」が全てのナパジェイ。殺されたら殺されたやつが、奪われたら奪われた奴が悪いのだ。

 いや、別に大陸でだってモンスターであるコボルトを殺して戦利品を獲たところで賞賛こそされ、罪には問われないだろう。


 わたしは悪くない。

 そう言い聞かせながら、コボルトの腰の鞄から宝石が入った袋を奪い取る。

 すると、思ったよりも高額な宝石が入っていた。


 こいつ、もしかしてどこかの田舎でまじめに働いて、収入を得て帝都に帰る途中だったのだろうか。

 それならもう少し稼いで護衛を雇うなり馬車に乗るなりすればよかったろうに。


 珍しく戦闘で黒字が出た。

 が、心になんともいえない気分の悪さが残った。


 こんなことで胸を痛めていて、父や母のような立派な冒険者になれるのだろうか、ユメの胸に一抹の不安が湧いてくる。


 それでも、ユメは今は歩くしかない――帝都キョトー向けて。


(あっさり殺されるやつが悪い、奪われる奴が悪い)


 そう、心の中で繰り返して、ユメは歩く。


 どんな潤い方にせよ、多少懐も潤った。


 途中で馬車が通りかかったら多少宝石を払ってでも乗せてもらおう、そう決めてユメはまた歩を進める。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 そんなこんなで歩き続けると、ようやく帝都キョトーのシンボルである巨塔が遠くに見えてきた。


世界観補足


地名の由来

帝都キョトー:東京と京都のもじりから

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