謎の扉の奥
「色んな種族を出したい」ってファンタジー小説を書く上で抑えきれない欲求ですよねえ。
ドアを開けたらいきなり発砲されたので、ユメは一計を試みることにした。
「オトメちゃん、ゴーレムって作れる?」
「いえ。わたくし、闇の魔法はさっぱりですの」
ゴーレムとは、一般的には土と闇の魔法を組み合わせて作る、単純な命令のみをこなす土人形だ。
何故闇の魔法を使うのかというと、擬似生命を生み出す魔法が闇に属しているからである。
実は、材料は人型をしていれば何でもよく、甲冑のような鉄で作るとスチールゴーレム、石人形で作るとストーンゴーレムになる。
「せっかく白骨死体が一杯あるんだ。ボーンゴーレムでいいんじゃねえか?」
後ろからヨルがアドバイスをくれる。
なるほど。
いちいち土の魔法を使うのも宝石がもったいない。ちょうどいいから死体を使おう。
「……真理よ」
ユメは足元に転がっている白骨死体に闇の魔法を使って起き上がらせた。
どうもこの魔法は悪の魔法使いが使うイメージがあって使うのに抵抗がある。
作成したボーンゴーレムの額に古代文字で「真理」と浮かび上がり、扉へ進み始める。
そして、ノブに手をかけてドアを開ききった途端、
バキュン! バキュン! ズキュン! ズキュン!
ものすごい勢いで銃弾が打ち込まれ、ボーンゴーレムは粉々になった。どうやら流れ弾がヒロイにも当たったらしく、「いてー」と傷口を押さえている。
一旦銃撃が止んだ隙を見て、灯火をドアの中へ回り込ませると、なんと、銃だけが宙に浮かび、こちらを狙ってきていた。
ユメが慌てて閉めると、また銃弾が炸裂する音が聞こえた。
もし木製の扉だったら木っ端微塵になってユメたちごと撃ち抜かれていたに違いない。
「な、なんだったのでしょう……?」
ヒロイの傷を癒しながら、オトメが目を白黒させている。
「なんか知らないが、銃がぷかぷか浮かんでて、部屋に入ろうとしたら撃ってきた、以上」
「いわゆる、銃の……、モンスター? アンデッド? なんじゃねえか?」
後ろを警戒してくれていたヨルが、ヒロイの言葉だけの情報からそう言う。
「これじゃ先には進めそうにないな。一旦作戦会議だ」
ヒロイがそう結論付け、全員で穴から出る。途中、弔うつもりだろう、白骨死体の頭蓋骨を拾ってもっていくオトメの姿が炎に照らされていた。
その様子を見ながら、ユメはずっと考えている。
遠い過去の日、母が寝物語のように語ってくれた話。
『ユメ、買ってもらったり、作った道具はちゃんと大事に使わないとだめよ。せっかく作られたのに、その目的を果たせず、使ってもらえなかった道具には怨念が宿るの。そういうのを付喪神って言うんだけどね。込められた思いが強いほど、強い付喪神になるの』
聞いたのは一度きりだったと思うが、よく覚えている。
ユメには、この母の話のおかげで、あの宙に浮かぶ銃の正体が判明した気がする。
「わかったよ、皆。あれは付喪神。ここで作られて、使ってもらえなかった銃の付喪神なんだよ。だから侵入者であるわたしたちを拒んでいるの」
それを聞くと、一行は扉の奥の探索の難しさを思い知った気がした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
とりあえず、五人分――一人は哀れにもボーンゴーレムにしてしまった――の死体の弔いをし、六丁の鉄砲を持ち帰り、ユメたちはこれ以上の探索を諦めた。
なにせ、交渉しようもない相手が、延々と撃ってくるのだ。あの銃弾に耐えられる武装も用意していないし、かといって魔法で遠距離攻撃し続けてもあの幽霊銃、意外にしぶとく、ヨルの投げナイフも効かないので光魔法の「レイ」で一体づつ撃ち落とすくらいしか対処法がないのだ。
こちらにも銃持ちでもいれば話は別だが、あまりにも攻撃の効率が悪かった。
「それで、おめおめとお宝があったかもしれない扉の奥を調べず、逃げ帰ってきたってわけかい」
話を聞いた魅惑の乾酪亭主は呆れたように言った。
ユメは知らなかったが、亭主もかつては斧で戦う冒険者だったらしい。どれくらいの級だったかは知らないが。
「それでこの銃を換金したいんだけど、とっつぁん。当てはある?」
「あるよ、銃の買取りって言うか、ジャンク屋だけどな。そこなら銃も取り扱ってる。ウェッソンって奴がやってる『ジャンク屋・スミス』だ」
「それなら、なんとか赤字は免れたかな」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
日を改めて、ユメたちは亭主が紹介してくれた裏通りのジャンク屋に行ってみた。
もちろん、あの白骨死体たちが持っていた銃を売るためである。
実は、それ以外にもドヴェルグたちが持っていた斧など、ゴブリンら雑魚モンスターから巻き上げた粗雑な武器などがあったのだが、それらは別の武器屋で普通に宝石に換金した。
しかし、銃だけは「価値がよく分からない」と言われてしまい換金してもらえなかったのである。
「ここか」
雑居ビルのような建物の二階に、亭主が教えてくれた店「ジャンク屋・スミス」はあった。
ユメがドアを開けてみると、カウンターに腰掛けて銃を磨いている銀髪の女の子が一人。
「あの……、あなたがウェッソン?」
ユメが聞いてみると、少女はふるふると首を振り、銃を磨く手を止めて、店の奥にあるカーテンを指差した。
それにしても、珍しい。とユメは思った。
カウンターに腰掛けている少女は、なんと魔族だったのである。
世界観補足
ゴーレム:人の形をしたものの額に古代文字で「真理」と書き込むと闇の魔法で簡単な命令をこなすようになる。これがゴーレムである。盾に使う場合はたいていそこら辺の土や岩から作ることが多い。ユメがボーンゴーレムを作るのを嫌がっていたのはまるで闇の禁呪、ネクロマンシーみたいだから。




