探し屋の手招き
ついに作者お気に入りのキャラを出せました。
リニューアルしてからここまで、長かったです。
ユメたちのパーティに四人目の仲間としてオークの亜人、オトメが加わった。
彼女は卓越した回復魔法の使い手で、パーティの戦力の要になるだろうと、加入時は思っていた。
しかし、このオトメという少女、なかなかに問題児だった。
いや、別に彼女自身に冒険者として問題があるわけではない。
ユメに数倍するオカン体質なのであった。
「ヨルさん! 下着は毎日換えてくださいってば! 不潔ですよ!」
「ったく、るせぇな。数日履いてたところでそんなに臭わねえだろうがよ」
「ヒロイさん! いくら竜人だからって裸で寝るのはやめてください! 今度亭主さんに言って大きめの寝巻きを用意しておいてもらいますから」
「うーん、とっつぁん、こいつの言うことは無視でいいからな」
ユメはやっと自分と同程度の衛生観念を持った子がパーティに入ってくれたと感激していた。
が、しかし。
「ユメさん、蜘蛛の巣、蜘蛛の巣がーっ! 昨日きれいにしましょうって言いましたよね! 亭主さん、この宿の掃除用具入れはどこですか!?」
「ああ、二階の廊下の一番奥だよ」
「どうしてこの宿は宿なのに部屋に蜘蛛の巣が張っているのですか。亭主としておかしいとは思わないのですか!」
オトメに怒鳴られて亭主は頭を抱えた。
普段あまりに繁盛していないため、客を泊めるときのことを考えていなかったのだろう。
それに、大抵の冒険者は部屋に蜘蛛の巣がちょっと張っている程度で気にしたりはしない。野宿も多いためきちんとしたベッドで寝られるだけでありがたいのである。
このように、オトメは神殿で奉仕活動をしていたときの癖が抜けないのか、とにかく潔癖症で、周りの人物にもそれを強いるのだった。
「ヨルさん、髪を整えてあげます。せっかくお綺麗な長い髪をしているのに、こんなハネて揃っていなければ台無しですよ。女の子なんだからおしゃれしましょう」
「やかましい! 好きで女に生まれたわけでもねえ! ほっとけ!」
「そんな……、わたくしはヨルさんのことを思って……、あんまりですぅ!」
「うっ……、し、仕方ねえ、適当に揃えるだけだぞ」
しかも、ユメたち三人はオトメが本気で怒ると手が付けられなくなることも知っているので下手に逆らえないのである。
宿場やパーティのメンバーの生活が改善されていくこと、それ自体は、ユメには喜ばしかったし、ヒロイはともかく、ヨルはようやくスラムの住人から文化人らしい生活になってきた。
しかし、困ったことが一つ。
冒険者としての仕事を、もう丸三日もしていないのであった。
下着や寝巻きの買い出し、各部屋の掃除、果ては宿のキッチン事情など、オトメがうるさく口を出すため、仕事の張り紙もたまに亭主が貼りかえる以外はそのままになっていた。
さて、そのことをそろそろオトメにきっちり言おうとユメが決心した四日目、四人揃って朝食のテーブルに着いたとき、一匹の白猫がみゃーみゃー鳴きながら店に入ってきた。
魅惑の乾酪亭のドアはウエスタンドアのため、猫でも出入りできてしまう。
その白猫はぴょこんとジャンプしてユメたちが座っている隣のテーブルの椅子に器用に乗った。
「サガ、久しぶりだな。ほらよ」
亭主が毛布を持ってきて白猫に乱雑にかぶせる。
すると。
「にゃははは、こいつらか。すぐに分かったにゃ」
「「「「ねこがしゃべった!?」」」」
ユメたちが驚いた後、ボワンと音を立てて煙が吹くと白猫が居た席、つまり毛布の中に人一人分くらいの大きさのものが現れていた。
「あー、やっぱり四人とも猫化人を見るのは初めてだったにゃ? これだから初見殺しは面白いにゃ」
言って、白猫がいた場所に現れた女性は全裸を毛布でくるめていく。
癖っ毛なのか、外はねが多い髪型で、顔立ちは控えめに言っても、美人だった。
いや、年齢的には美少女か? 正直、何歳位なのか、まるで読めない。
「さて、単刀直入に言うにゃ、新米冒険者ども、あたしの客になる気はないかにゃ?」
「え? 客?」
「あたしは滅ぼされた町や未発見の遺跡なんかの情報を売ってる探し屋なのにゃ。探し屋だから、名前もサガ。覚えやすくていいにゃ。
ちなみにフルネームはサガ・ベルイン。あ、この情報はロハでいいにゃ」
突如現れた探し屋を名乗る女性に、新米冒険者四人はただただ驚くしかなかった。
何故猫!? 何故裸!?
探し屋って何!?
何故大した実績もない自分たちのところに!?
ユメたちの頭の上には疑問符だけが重なっていくなか、相変わらず「にゃははは」と楽しげに笑いながら、隣のテーブルで毛布一枚にくるまっている全裸の女性は、店主が運んできたミルクを見ると嬉しそうに飲み始めた。
「さて、そろそろ、あたしから情報買うのか、買わないのか決めて欲しいのにゃん」
この話、元々オトメに「今日からはちゃんと冒険者らしいことをしよう」と提案しようと思っていたユメには渡りに船だった。戦えなくてフラストレーションが溜まっていたのはヒロイやヨルだって同じだろう。
「早く買わないと他の探し屋が見つけて売っちゃうかもしれないにゃ。それ以前に、買ってくれないなら、あたし、他へ情報を売りに行くにゃ」
「情報は鮮度が命」ってね、なんて言いながら急かしてくる探し屋のストレイキャットことサガ。
「分かった。情報を買うわ。いくら?」
思い起こせば、この仕事が後にこのパーティの命運を大きく左右するきっかけになるとは、そのときは、恐らく情報を売ったサガ自身も気が付いていなかっただろう。
世界観補足
人名の由来
サガ・ベルイン:とあるアニメの主人公の名前をもじったもの。あとは探し屋の略なのと、作者がゲームのサガシリーズが好きだから。
猫化人:ストレイキャットと呼ばれる、猫の中で人の姿に化ける能力を身に着けた種族。亜人とは違い、人と猫の混血だったりはせず、猫の姿が本当の姿。むろんモンスターではないため死んでも額から宝石は出ない。




