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四人目の仲間は暴走オーク娘

だいたい察しがついていたかもしれませんが、オトメが四人目のメンバーです

 仕事が一段落?した後にユメたち三人とオトメを部屋に招き、お茶を出してくれたアシズリ司祭がぽつりぽつりと語りだす。


亜人(デミ)について、どこまでご存知ですかな?」


「かつて、大陸で魔王(アークエネミー)が倒され、束の間の平和が訪れた時期に、モンスターと人間が心を通わせた頃があった。そして極稀に混血が起こり、再び人間とモンスターが対立した時代を迎えたとき、彼らの子孫で人間の血が濃く出た者……、という認識ですね」


「その通りです。今は信じられませんが、そういう時代もあったのです」


「あたしは亜人だろうがモンスターだろうが向かってきたら斬る。それだけだ」


「ヨルちゃん、ごめん。話がややこしくなるから黙って」


 ヨルの発言にも司祭は思うところがあるようで、それにも応えた。


「大陸でもナパジェイでも、今も人間とモンスターの争いは続いています。亜人はそれら両方からはみ出してしまった、どちらの陣営にも属することが許されない存在なのです。

 大陸では、モンスターの中で亜人が生まれた場合、彼らはほとんどの場合は殺します。人間が忌み子をナパジェイに島流しするように、ごくごくわずかですが、この島に流す場合もあります」


 そこで、いったんアシズリ司祭は言葉を切る。


「オトメは、そうした大陸で島流しにされた子ではなく、ナパジェイのモンスター居住区で生まれ、捨てられた子のようなのです。方角的に見てシコク島から赤ん坊のときに流されたのでしょう。当時唯一神教の助祭であった私はコベの浜辺でこの子を拾い、育てることにしました」


 似たような境遇を持つヒロイが「ふっ」と息を漏らした。


「そのようなことが許されたのもここがナパジェイという国であったからに他なりません。せめて成人するまで。と思っておりましたが、なんと、この娘は亜人の身で唯一神の神託を聞いてしまったのです」


「複雑な状況ですねえ」


 思ったままのことを、ユメは言う。


 本来亜人を良しとしないはずの唯一神が人間の血を引くモンスターであるオトメに声を届けた。


 しかもその内容が――真の神託であったか、オトメの妄想であったかの是非は問わず――「唯一神の救いは種族を問わず与えられるものである」というものだった。


 そりゃ、その内容をそのまま説法しても、いくらナパジェイが種族差別を撤廃している帝国だとはいえ、そのほとんどを人間が占める唯一神教教徒が認めるはずもない。


 ゆえに、今回のような暴力沙汰に繋がったのだ。


「今回は取り返しがつかなくなる前にオトメを止めてくださったこと、感謝いたします。これは報酬の宝石です。お納めください」


 言って、司祭は約束どおりの個数の宝石を差し出してきた。


 ユメは司祭の話を聞きながら、ずっと思案していた。


 ヒロイとヨルが何を考えながら聞いていたのかは知らない。


 ただ、ユメはこう結論付けたのだ。


「オトメちゃん、わたし達のパーティに入って冒険者やらない?」


 そして、そう告げる。


「は?」


 最初に反応を示したのはオトメ本人ではなく、アシズリ司祭の方だった。


「い、いえ、待ってください。この娘は言った通りの半端者でして……」


「司祭様、わたしはオトメちゃんに話をしているのです」


「え、わ、わたくし、が、冒険者に?」


「そう、酒場所属の冒険者になってあっちこち旅しながら依頼をこなすの」


 もし仲間になってくれれば、きっと活躍してくれる。その確信がユメにはあった。


「ま、性格はおいといて、回復魔法の腕は確かみたいだしな」


「あたしはむしろ、前衛を任せたいぜ。こいつのパワーなら」


 ヒロイとヨルもそれぞれの言い方で賛成する。


 ユメは向かい側に座っていたオトメへ手を差し出した。


「わたし達のパーティ、今、純粋な癒し手(ヒーラー)がいないからあなたが居てくれたらすごく助かるの。是非」


「こんな、こんなわたくしを必要としてくださるのですか?」


「うん、絶対必要。ね、ヒロイちゃん、ヨルちゃん」


「ああ、一緒に来てくれ」


「あたしらが死なないためにも、ひとつよろしく頼むよ」


 そうヒロイとヨルは言うと、テーブルの向かい側のオトメに、ユメと同じように手を差し出す。


 ただし、その手はパーではなく、グーだったのを見て、ユメは自分の手もグーに変える。


 そのこぶし三つを見つめて、オトメは言った。


「ひとつだけ、条件があります。わたくし、この神殿で花壇の面倒を見ていて、花が枯れないように水をあげているのです。それは続けてもよろしい……でしょうか?」


「「「もちろん」」」


 三人の声がきれいに重なると、


「では、よろしくお願いします!」


 そう言って、オトメは自分もこぶしを作り、ユメたち三人のそれにこつ、こつ、こつ、と当てていく。


「では司祭様、オトメちゃんをお借りします」


「え、ええ。オトメ、みなさまにご迷惑をおかけしないようにするのだぞ」


「はいっ」


 こうして、ユメのパーティには四人目の仲間として、オークの亜人、オトメ・アシズリが加わった。


 しかし、これが静かな魅惑の乾酪亭を騒がしくすることになるとは、誰も気が付いていなかった。

世界観補足


シコク島:ナパジェイのモンスター居住区。いくら差別がないナパジェイでも住み分けは必要だろうということで多くのモンスターがこの島で暮らす。「死国」「地獄」がなまったという説もある。

コベの浜:神戸から。オトメはシコク島から舟でこの浜まで運ばれ捨てられた。

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