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説法を聞きに行こう?

 ユメは久しぶりにベッドで眠り、そして起床した。


 今は何時くらいだろう? 昨日は疲れることだらけだったから朝早いってことはないだろうな。


「ふああああああ」


 だらしなくあくびをして、今の自分の恰好を改めて見た。


 とんがり帽子は勿論、カッターシャツと、パンタロンを脱いだだけの下着丸出しで寝てしまっていた。


 酔い覚ましに水で体を洗って、着替えがないから一度は脱いだ下着だけつけて寝た……。


 なんとだらしない。


 ここは仮にも冒険者の宿なんだから寝巻の一つや二つ用意してくれといてもよさそうなものだ。


 そういえば、部屋割りはどうなったんだろう?


 ユメは二段ベッドの二段目で寝ていたらしい。と、いうことは同じ部屋に置いてあるあと一つのベッドで寝ているのは……。


「ヒロイちゃん! ヨルちゃん!」


「あたしは寝起きが悪いんだ、意味もなく起こしたら承知しねえぞ」


 もう一つのベッドでヨルは寝巻と思しき服装で気持ちよさそうに寝ていた。


 ということはヒロイは……。


 鱗のせいで分かりづらいが、全裸だった。


「服なんて着るのめんどくせえ。こっちゃくたばりかけたんだ。ゆっくり休ませやがれ」


 とか、皮鎧だけ脱いで水浴びの後はベッドに入ってしまった気がする。


 なんにしても、三人が三人とも、このままの恰好で一階に降りるのはまずい。亭主が料理の仕込みをしているはずだ。


「起きて! 皆とにかく起きて! そして外へ出て行ける服に着替えるの!」


「うるせえな、いいからもう少し寝かせろ」


「昨日の稼ぎで、わたしらまずは服をなんとかせんと冒険者以前に宿から出られないっつてんの!」


 とりあえず、目を覚ました二人は、ヒロイは傷だらけになった皮鎧を、ヨルは、洗って一晩干しても血の跡が落ちなかった布切れのような服にひとまず着替えた。


 ユメも替えの服など無いので昨日のカッターシャツに、パンタロンのままだ。それにトレードマークのとんがり帽子を被って……。


「とにかく、今日の予定は防具の新調! 今日から冒険者なんだから、もう少しまともな装備を整えるからね」


「あいあい、ユメはいちいちこまけえな。戦えりゃそれでいいだろうが」


「戦うにしたって、戦いやすい服装ってものがあるの!」


 亭主に初心冒険者向けの安い服屋や防具屋を紹介してもらい、ユメたちは午前中をかけて装備を整えた。


 防御の要となるであろうヒロイには、急所は金属で覆った新品のレザーアーマーを、身軽な動きを望んだヨルには左胸や肩を厚手の布でガードしたジャケットを、そしてユメは、この二人と一緒であれば前に出ることもなく後ろで援護していればいいだろうと、いかにも魔法使いっぽい黒いローブを買った。


 しかもただのローブではなく、内側に魔力を高める細い宝石をあしらった代物だ。これは二人には黙っておいたが、自分だけ少し高級品を買わせてもらった。


 後は三人分の数日分の下着を買った。


 さて、これで、三人とも「わたしら冒険者です!」って名乗っても恥ずかしくない格好になった。それにしても、なんという低次元な準備の仕方なのだろう。


 そんなことを思っていると、せっかく買った新品のジャケットをナイフで切り裂いて胸元を丸出しにしようとしているヨルの姿が目に入った。


「こらー! せっかく買ったのに破らないでよー!」


「ああ? あたしはこの烙印を見せつけてねえと落ち着かねえんだ」


 忌み子(デビラス)である証明としての烙印。ヨルの場合はそれが鎖骨の真ん中の下あたり、ちょうど乳房が見えてしまうかどうかという場所に押されている。


 普通は服を着ていても隠せない場所に押されるというのに、ヨルはあえて烙印を晒して歩くつもりのようだ。男の目も気にせず。


「あんたは違うからわからねえかも知れないが、忌み子であるあたしにとってこの烙印は誇りなんだ。うじうじ隠す気はねえ」


「そ、そうじゃなくて、女の子として見せちゃいけない部分が見えそうになるの! あとで繕うから宿に戻ったらジャケット貸してね!」


「ヤダ」


 そんなやり取りをしていると、ヨルはもう一つ買い物がしたいという。


「武器だよ。一本はあのデカブツとの戦いで折れちまった。せっかく金が入ったし、カーサォより品揃えのいいこっちの表通りでいい剣を買いたい」


「ヨルちゃん、いつの間にそんなこと言えるほど稼いでたの」


「てめえが必死でヒロイの傷を塞いでるうちにあの逆恨み連中から剥ぎ取っておいたのさ」


 なるほど。


 あの食人鬼を連れてきた冒険者連中からもしっかり宝石を奪っていたか、さすが生きるのに貪欲というか、目ざとい。ちなみにヒロイの刀はかなりの業物らしく、食人鬼の口の中に突っ込んでも刃こぼれ一つしていなかった。


 適当な武器屋に入り、ヨルは新品の短刀を二本買うと上機嫌になったが、胸元は「何が何でも晒す」と言って譲らなかった。


 アホらしくなってきたので、「そんなにおっ〇い見せたければ好きにすればいいよ」とユメは言い捨てて、三人で魅惑の歓楽亭に帰った。


 すると。

 昨日はなかった依頼書が壁に一枚追加されている。


『唯一神教説法会護衛 報酬C級宝石三個 場所:キョトー唯一神教神殿 依頼主:唯一神教司祭 冒険者級・問いません』


「お、とっつぁん、新しい仕事入ってるじゃねえか」


 説法会の護衛とはどういうことだろう? ユメは少し思案を巡らせた。


 唯一神教。


 大陸でもっとも広く信仰されている宗教だ。


 徹底した人間主義を貫いており、モンスターや亜人の存在を認めない。


 ユメの両親やヨルなどの忌み子がナパジェイに島流しになったのも、この唯一神教の神託によるものだ。


 よって、ユメも個人的にいい感情を持っていないのだが、ナパジェイにおいては生まれてきた子供を「忌み子」などと言って被差別対象にすることはないので、まあ、崇めたい奴は勝手に崇めていればいいという認識だ。


「しかし、護衛ねえ。人間様が人間様相手に『モンスターは敵です。狩りましょう』なんて説法したらこのナパジェイじゃ絶対顰蹙買うわな」


 ヒロイが腕を首の後ろに回しながら言う。


 彼女の場合、人間ですらないので、神殿に入れてもらえるかさえ怪しい。それは忌み子であるヨルも同様だ。


 しかし、ざっと見まわすと、残っている依頼は『ゴブリン退治』『トロル退治』『迷子の猫捜索』……昨日から変わっていない様だ。


「ねえ、行くだけ行ってみない? 報酬もなんかやけにいいしさ」


 ユメはそう二人に提案する。

世界観補足


唯一神教:リアルのどの宗教とも違う、人間至上主義の宗教。ナパジェイではともかく、大陸の人間たちの間では最も信仰されている。

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