危険な三人目の仲間
タイトル通り、三人目が正式に仲間になりました。
物質の硬度を無視した剣を光で作る魔法を無理して使ったユメはその場で意識を失いそうになったが、ヒロイの傷を思い出し、気力でその場で踏ん張り、水のC級の宝石を取り出し、魔法を行使する。
「ヒーリング・ウォーター……」
完治には程遠いが、ヒロイの傷がふさがっていく。
そこへ、目ざとく、ヨルが、倒れ伏している食人鬼の腰から宝石袋を見つけた。
「ほれ、足りない分はこれを使いな」
「へへ」
「なに笑ってんだよ。やっぱり気持ち悪い奴だなお前」
ユメはこのとき、ヒロイが重傷を負っているときにもかかわらず、ヨルが逃げ出したりせず自分たちを助けようとしてくれていることに嬉しさを感じていたのだ。
「アースリィ・ヒール!」
宝石のおかわりも手に入ったので行使できうる限りの回復魔法をヒロイにかけていくユメ。
その頃には食人鬼は息絶えかけていた。
つまり、まだ、生きているということである。その証拠として額からまだ宝石が発現していない。
「ざ、んねんだ、わか、い、むすめくえ……」
それが食人鬼の小さな断末魔となった。
同時に額から宝石が出てくる。
ユメはヒロイの手当てに集中していて見ていなかったが、それはB級の光の宝石だった。
「あたしが穴開けちまった竜人は助かりそうか?」
「うん、命に別状はないと思う。ヨルちゃん、ヒロイちゃんの急所は外してくれてたし」
「デカブツの心臓突き刺す以外のことは考えてなかったよ。あたしにしてみりゃ、そいつが死のうが生きようが関係ないしな」
「それでなんだけどね、ヨルちゃん」
「いい加減その『ヨルちゃん』ってきしょい呼び方やめろよ」
ヨルの言い様に苦笑して、それでもユメは、言った。
「わたしたち二人と正式にパーティ組まない? あなたを治安維持局に突き出すのやめるからさ」
「あ? 本気か? あたしゃこんなんだぞ」
「こんなヨルちゃんがいいんだよ、ね? ヒロイちゃん?」
ユメは笑顔でヒロイにも話を振ったが、彼女の方は出血多量でか、戦闘が終わった安心でか、すでに気絶していた。
「ちっ、ただし、治安維持局には行く。けじめは付けねえとな」
そう言い、ヨルは踵を返した。
「あたしは辻斬りで生計を立ててきた。そのことはきっちり裁いてもらう」
「こ、殺されちゃうかもしれないよ?」
「もし殺されず、自由の身にしてもらえたら、改めて誘ってくれ」
ヨルは夕暮れのスラムを歩いていく。
ユメはここでやっと食人鬼の額から宝石が発現している事に気がついた。
「この宝石で完全に傷を塞ぐから、まだちょっとヒロイちゃんを待ってあげて。レイジング!」
ユメは自分が使える中でも特に高等な魔法でヒロイの体力を癒した。
これで出血多量は収まり、程なく歩ける程度には回復するはずだ。
……今回の仕事の収入は激減したけれど。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ところ変わって治安維持局支部の支部長室。
説明を終えると、相変わらず表情が読めないウェアタイガーの支部長が椅子に腰掛けてヨルを見ている。
「あ、あの、捕縛してこなかったのはもうその必要がなかったからで!」
「事情は分かった。その辻斬りは今後辻斬り行為をやめ、冒険者として活動するというのだな?」
「流れでそうなっちまった。ま、あまりに実入りが悪かったら身の振りはまた考えるけどよ」
「馬鹿! ここで素直に『はい』って答えておかないでどうするんだよ」
意識を取り戻したヒロイもヨルの減らず口についツッコむ。
ウェアタイガーの支部長は、珍しく、「はあ……」と呆れたようにため息をつき、こう言った。
「とりあえず、スラムでの辻斬りの横行を止めたのは事実のようだ。まあ、辻斬りにやられるのもこの国では『自己責任』だ。報酬そのままとは行かないが、ひとまず、依頼通達時の最初の報酬であるD級宝石六色は渡しておこう」
「いいんですか!?」
思いもかけない温情にユメはつい身を乗り出してしまった。
「ただし、その女がもう一度カーサォ他どこかで辻斬りをするようなら報酬は返上してもらう。これでこの件は手打ちだ」
それ以降、支部長は黙り、六つの宝石が入った袋を差し出してきた。ユメはその中身を確認すると、ぱああと顔を輝かせた。
とにかく、これでヨルの身柄は解放され、報酬も得られた。
万々歳の結果だ。
「魅惑の乾酪亭」に帰っても相変わらず亭主以外は誰もいなかった。
「おかえり、仕事の首尾はどうだっ……て、一人増えてるな」
「アタイら、今日から三人パーティでやっていくから、これからも仕事のほう、よろしくな」
「じゃあさ、わたしたちのパーティの結成記念の乾杯やろうよ。店長、エール三つ。えっとヨルちゃん成人済みだよね?」
「あたし、歳は数えてない。けど、多分成人はしてると思う。物心ついたときにはスラムにいたからな」
その台詞で何かを察したようで、亭主が口を挟む。
胸元の忌み子の烙印を見ても何も言わなかったのはさすがナパジェイの住人だろう。
「なあ、その返り血……、まんまスラムにいましたって感じの雰囲気。まさか、そいつが?」
「そ、この娘がカーサォの辻斬り。色々あって仲間になっちゃった」
「あたしはあそこで暮らすより冒険者の方が稼ぎがマシで、腕も活かせそうだったから来ただけだ。割に合わねえと思ったら、すぐ抜けてやるからな」
「まあまあ。そう言わずに乾杯しようぜ。実はアタイとユメも今日ついさっき組んだばっかりなんだ。二人の結成も兼ねてさ」
そう教えるとヨルは目を剥いて驚く。
「それであの息の合い方で、あの命の預け方かよ。大したもんだぜてめえら」
言っている間にジョッキが運ばれてくる。
「あいよ、エール三杯ね。お前らが仕事終えて帰ってきたときのために冷やしておいたんだ」
「お、とっつぁん流石気が利くね。血流しまくって喉乾いたんだ」
自分たちの前にジョッキが並ぶと、ヨルが口を開いた。
「ま、いつまでの付き合いになるかは知らないけどよ」
「できれば長い付き合いになることを祈って!」
「乾杯!」
カチン!と小気味いい音が彼女らと亭主以外無人の店内に響き渡る。
そして、三人は、お互いに自己紹介し合った。
とはいえ、ヨルは武器が持てるようになるまではスラムで物乞いをしていたらしく、刃物を持てるようになったら、気が付けば辻斬りにとして生計を立てていたという。
ナパジェイでは唯一神教が生まれた子供を忌み子扱いすることはないため、おそらく、大陸のとある島国から極東まで島流しされてきたんだろうと言っていた。
だから、こう名乗った。
「あたしはヨル、ただのヨルだ」だ、と。
これでユメの仲間も二人目。ヒロイも言っていたが、三人パーティの結成だ。
うまく女だらけだが、次の仲間はどんな人なのだろう。また女だろうか? はたまた男だろうか?
いや、そもそも人間なのだろうか?
ここは魔境ナパジェイ。
どんな者が仲間になろうと驚くには値しない。
世界観補足
エール:リニューアル前はここがビールになっていたのをエールに変更。この世界ではエールが現代日本のビール感覚で呑まれています。
魔法の説明
レイジング:「蘇生」を意味する英語Raiseの動名詞。実際に蘇生させるわけではなく、消えかけている命をこの世に繋ぎ止める光属性の魔法。




