チャーチャの涙
みるみるうちにユメがスピリット・スレイブで与えたダメージも、アストリットやヨル、ヒロイ、ハジキがつけた傷も癒えていく。
そして、癒えた後、皮膚がひび割れ始めた。
「そんな……、脱皮は若い竜が新たな力を得るためにする行為のはず。あなたみたいな老齢のドラゴンが脱皮したら……」
ユメはまた母から聞いた知識を動員させる。
「……そう、死ぬ。だろうな。だが、私は竜なれど天上帝に忠誠を誓った身。手を抜いて戦おうなどとは主に失礼であったわ」
そこに少女の悲痛な声が響いた。チャーチャが発したものだ。
「トモエ! 死んじゃヤダ!」
「……チャーチャ様、トモエは幸せでございます。あなた様の涙を頂戴できようとは」
涙さえ流し、拳から血を噴きながら光のドームを叩いている謎の少女。一体あの少女はトモエの、そして天上帝の何だというのだろう?
トモエが脱皮を遂げている間、ユメたちは態勢を立て直す。
というより、脱皮して新しい皮膚がひび割れた皮膚から出てくるドラゴンに畏怖の念を抱いてしまい、今のうちに攻撃しようという気は起らなかった。
「トモエ! やめて!」
「グオオオオオオオオオオ!」
チャーチャの叫びとドラゴンの咆哮が重なり合う。
大きさも一回り大きくなり、その全身に力が漲っているのが見ているだけでも分かる。
『待てい! そこまでだ』
ドームの中に声が響く。
『我、天上帝、そなたらのトモエへの勝利を認め、謁見を許そうではないか』
「陛下、まだ私は負けてはおりませぬ!」
『お前をここで失う訳にはいかぬのだ。それに見よ、あのチャーチャの泣き腫らした顔を』
「ウチは……、ウチは……、トモエが死んだら……」
見ると、チャーチャの顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。彼女がいかにトモエを大事に思っていたかが分かる。
「…………。承知いたしました。このトータル・モータル・エルダードラゴン、不肖トモエ、女子力バスターズとアストリットに敗れたことを認め、彼女ら七名を天上帝への初の客人として持て成すことにいたします」
「トモエ……!」
チャーチャが泣き止み、光のドームが消える。チャーチャはトモエに駆け寄っていき、自分の手の血を拭うこともせず、懐から宝石を取り出し、低レベルな回復魔法をトモエにかける。
すっかり蚊帳の外にされたユメたちは傷をオトメに回復してもらいながら再度それぞれ攻撃しようとしたままの姿勢で、固まってしまっていた。
「お、終わった……?」
「……そうみたい」
こんな状況でもハジキが一番冷静である。
「シェイプシフト!」
トモエは魔法を唱えると、いつもの女性の姿を取って、風の緑の宝石を飲み込んだ。
「あー、あー、聞いての通りよ、みんな。天上帝がお会いになるわ」
また女の声になり、特に悔し気でもなく、ユメたちにそう言う。
「あー、今日で寿命百年は縮んだわね。陛下もチャーチャ様も私の葬式に参列して頂くなんて嫌ですからね」
『先ほどまで死ぬ覚悟で戦おうとしていたのはどこのどいつだ。我が止めねば勝とうが負けようが明日が貴様の葬式になっていたではないか』
「う……」
とにかく、これでユメたち七人は天上帝への謁見を許されたわけだ。
トモエがテレキネシスかなにかで天上帝の寝所へのドアを開ける。
次回、最終回です。




