スピリット・スレイブ
そろそろ終わりが見えてきました
「名付けて……、スピリット・スレイブ!!」
自然を通じ、六種の精霊を従えたユメが放った魔法は最終的に白い光の奔流となりトモエ目がけて飛んで行った。
「グおおおおオオオオオオオオオ!」
効いた!
ユメが無意識に自然から力を借りて発動させた最も高威力の攻撃魔法「精霊破」が、竜の体に突き刺さった。
水は火を消し。
土は風を押し留め。
光は闇を打ち消す。
それらの反作用を三つ同時に叩き込む魔法。これなら間違いなくあのドラゴンにも致命傷を与えることができる。
胴体に大魔法を食らい、痛みでのたうち回ってやみくもな攻撃をしているトモエ。
だが、そんな狙いも定めない攻撃が光輝剣を二刀流で構えたヨルに当たるはずもない。
「ヒロイさん、全開しましたわ! 後は攻撃を!」
オトメがヒロイを回復させた後に叫ぶ。ヒロイはそれを受けて刀を再度構えて翼を広げドラゴンに突っ込んでいく。
咄嗟に重力負荷の範囲から逃れていたヨルはドラゴンのがむしゃらな動きをかわし、先ほどユメがつけた傷にさらに追い打ちをかけた。
今度はヨルの攻撃が効いた! 光輝剣ならさすがにドラゴンの皮膚でも切れるらしい。
「あたしとユメの関係はこの光の剣から始まったんだ! 今もこれが相応しいぜ」
さすが光輝剣、傷口でないところにも彼女の斬撃が通っている。それも、かなり深く切り裂けている。
まさか、ヨルもSS級の宝石を飲んだのでは……。
「ギアあああああああああ!」
「ユメっ!」
ユメがフライトの魔法がかかったまま、ハジキを抱え上げ、その意図を介したハジキがユメがスピリット・スレイブを叩き込んだ傷に、ガァン! ガァン!とマスケットから弾丸を叩き込んでいく。
「……ユメ、私を抱える必要はない」
不意にハジキが言う。そして、天井ギリギリの位置から飛び降りた――
ビリッ、とハジキの水兵服の背中が破れ、漆黒の翼が生える。その翼は、ドラゴンのものに近く、ハジキもすでに宝石を飲んでいたようだ。
今まで二回も飲んだユメが思うのも筋違いだが、まったく、どいつもこいつも、無茶をする。
そこでスイが、ユメでさえ見たことも無いような巨大な火球をトモエの顔面に放つ!
「火葬! あなたを窒息死させるまでは消えないよ、その炎!」
とんでもない威力だ。スイはたしかにこの二年で信じられないほど成長した。しかし、これほどの魔法を練り上げるほどの力量はまだ無いはずだ。
「わたしがどれほど冒険者に憧れたと思ってるの!? この夢を叶えてくれたユメお姉ちゃんに報いるためなら……!」
見ると、スイの体が虹色の光に包まれていた。瞳は真っ赤な炎の色に変わっている。宝石を飲んだうえで、瞳からも力を使っているのだ。
飛翔の魔法で飛んでいるユメがハジキの方を見ると彼女の方にも劇的な変化が訪れていた。
竜の翼が、爵位持ちの高位の魔族が生やすという黒い蝙蝠のようなものに変化している。そのハジキが両手に火縄銃を持ち、今度はトモエの眼球に狙いを定めて弾丸を撃ち込んでいる。
「……私には銃以外何もないと思ってた! 今は……ユメが、みんながいる!」
ハジキの銃弾はドラゴンの炎の中の右目を潰し、確実に致命傷を与えている。
いける!
押している! あの巨体のドラゴン相手に。
このままいけば勝てる! そんな確信をユメが抱いたときだった。
吹雪のブレスを吹き、スイが放った火球をかき消すトモエ。しかし、竜の行動はそれに終わらなかった。
「フ」
短い笑いが聞こえた。低く、地の底から響くような嘲笑。
「老いたこの体でそのまま相手をするには失礼だったようだ」
ヌン!
言葉にならない声が聞こえ、トモエの体が脈動し始めた。
「そなたらの力を認め、今一度若返り、全盛期の力を持って相手をしようぞ、女子力バスターズ、そしてアストリットよ」
世界観補足説明
スピリット・スレイブ:ユメがカムイの巫女となったことで自然の力を精霊力として用い、それを媒介として宝石を介さず放ったミックス・ブラスト。厳密な設定はなく、ノリと勢いでできた新魔法。イメージは書くまでもなく「スレイヤーズ」のドラグ・スレイブ。




