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ユメの斬り札

 ヨルはヒロイと並び、剣を交差して構えた。誰に習ったわけでもない、スラムで生き延びるために身に着けた我流の剣術だろう。


「不本意だが、いくぞ。それと、魔法使いはあたしにも補助を頼んだ」


 奇妙な共闘が成立し、ヨルは十字に構えた剣を向けて食人鬼へ突撃する――。


 ヨルが食人鬼へ飛び出すと同時、ヒロイも大地を蹴った。


 その間に食人鬼が癒した冒険者風のおっさんが訳も分からないまま目を覚ますが、二人の目にはその姿は映っていない。


「デカブツだけやるぞ、竜人!」


「ヒロイだ!」


 ヨルの右手の斬撃が食人鬼の胸元を切り裂くが、浅い。


 もう一本は、肩を捕らえたと思ったが、根元から折れてしまった。


 ヒロイの刀での攻撃が食人鬼の肩口を捕らえようとするが、遅い。かすりもせずにかわされてしまう。


「ぐあああああっ」


 食人鬼が思い切り振り回した手がヒロイの顔面を捕らえる。


 さっきユメがかけた「アース・プロテクト」がまだ効いているとはいえ、食人鬼の腕力は人間のそれとは比べ物にならない。


「いってえええ!」


 食人鬼に殴られて、「いてえ」で済むヒロイもヒロイだが、補助魔法で速度を上げているヒロイの顔に当てる相手も相手である。


 そこへ、大きな口を開けて食人鬼がヨルに噛み付きにかかる。ただ、その噛み付きは失敗に終わった。ヒロイが身を挺してヨルを突き飛ばしたからである。


 代わりにヒロイの皮鎧に覆われた肩口あたりに食人鬼の牙が突き刺さる。


 ユメは咄嗟に熱のこもった光線――ちなみにこれは光属性の攻撃魔法「レイ」だ――をできるだけ細くして食人鬼の心臓目がけて撃ち放った。

 ヨルが先程傷をつけた胸あたりに当てるつもりだったが、そううまくはいかず、ユメの魔法は食人鬼の皮膚を軽く焼いた程度に留まった。


(やばい! わたしの魔法攻撃じゃろくにダメージが通らない!)


 もっと高ランクの宝石を使ったところで、魔法使いにはその魔法使いが出せる出力以上の魔法は決して行使できない。

 さきほどの、「レイ」の魔法はユメが使える中でも単体の敵への殺傷力ならかなり上位のものなのだ。


 こうなったら、さっきのように補助魔法をありったけヨルとヒロイにかけて武器で何とかしてもらうしかないが、その代償も大きそうだ。


 そうこう考えているうちに食人鬼がしゃべり始めた。


「なあ、辻斬りだけじゃなくてあっちの魔法使いの人間も食っていいのか? 清潔そうで旨そうだ。この竜人もまあ、ハラワタは何とか食えなくはない」


「ええ、全部食っていいです先生」


「いやっほう! 今日は女が三匹も食えるぜ! いい日だ!」


 もしかしてこいつ、さっき、今会話してるおっさんを食わなかったのって、ただ女が食いたかったからだけなんじゃ……。


 そんなことをユメが考え始めたとき、ヨルがバックステップでこっちに戻ってくる。ヒロイの方も皮鎧の肩のガード部分を食い千切られながら戻ってきた。


「ユメぇ……どうするよ。このままだとあの化け物に三人とも食われちまうぜ」


「どうするか、か。ヨルちゃん、なんか作戦ある?」


「あんたがこれが一番勝率高いって言ったんだろうが!」


「とりあえず、食人鬼でも、生き物には違いない。心臓を止めれば死ぬはず。ヒロイちゃん、一瞬でいいから、あのデカいのの動きを止められる? 傷は後でいくらでも癒すから」


「ああん? アタイに囮になれってのか?」


(ママ……使わないで済んだらいいって思ってたけど、ここで一個使わせてもらうね)


「うん、囮になってもらう。ヨルちゃん、わたしの切り札、託すね。十秒しか持たないからその時間で奴の心臓を一突きして」


「んだよ、気持ち悪ぃな。まあ、今はてめえに従ってやるよ」


 この作戦の要はまだ完全に仲間とはいえないヨルだ。


 彼女が失敗(しくじ)れば、全てが水泡と化す。


 ヒロイには言う通り囮になってもらい、ヨルに必殺の一撃を叩き込んでもらう。彼女の弱点はその辺で拾ったような安物のショートソードを使っていることなのだ。


 そうこう話している間に、食人鬼が迫ってくる。


「いっただきまああああす!」


 台詞そのままの通り、大口を開けて、予想通りヨルを狙ってきた――!


 それはそうだろう、彼の元々の食事は彼女だったのだから。


「いくぞ、ぶっつけ本番!」


 ヒロイが叫び、ユメとヨルの前に立ちはだかり、食人鬼の口目がけて、刀を突っ込む!


 皮膚は刃を通さないほど硬くても、さすがに口の中まで硬くはなかったようで、食人鬼は口から血を吐く。しかし、勢いは止まらない。


 そこへ、ヒロイが腕と翼を広げ、食人鬼を抱え込んだ。


「ユメ! 一瞬止めたぞ!」

「上出来! ママ! 力を貸して!」


 ヒロイが食人鬼を止めている間に、ユメが取り出したのはA級のダイヤモンド。

 S級やSS級を除けば、光の魔法を行使するときの最高級宝石だ。


「ヨルちゃん、武器を渡すよ! 光輝剣(シャイニングソード)!」


「これは……、魔法の光でできた剣か!」


「お願い! ヒロイちゃんごと刺して!」


「おうよ!」


 ヒロイの背中から、ヨルは躊躇なく、食人鬼の心臓があるはずの左胸を刺し貫いた!


「ごぶっ!」


「アタイごと、か……」


 食人鬼ごと、肩を刺し貫かれたヒロイ。体格的に、敵の心臓を突くにはそうするしかなかったのだ。


 ユメたちの連携に、心臓を一突きされた食人鬼は痙攣し、やがて動きを止める。


 ヒロイの背中の翼、肩、そして食人鬼の肋骨、心臓まで刺し貫いた光でできた剣は、しばらく突き立ったままでいたがやがて消え去った。


 効果時間が切れたのだ。


 そして、ヒロイと食人鬼は折り重なるように倒れ伏した。


世界観補足


魔法の説明

光輝剣:シャイニングソード、と読む。物質の硬度を無視した切れ味の光の刃を作り出す魔法。かなり高等で、今のユメではA級宝石を使って十秒顕現させるのがやっと。

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