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一番の敵はモンスターではなく赤貧だ(涙)

2021年6月に大幅リニューアルを行い、読みやすくするため各話を短くしました。

また、冒険者ランクなど、設定も少し変えました。

よろしければお付き合いください。

 ナパジェイ帝国。大陸極東の島国。


「力」、そして「自己責任」が全てという考え方の国で、人間は勿論、亜人、魔族、果てはたとえモンスターやアンデッドでさえも腕力、魔力、知恵、経済力など、なにかしらの「力」を示せば市民権を認めてもらえるとんでもない国である。


 しかも、一切種族や過去によって差別されないため、禁忌や犯罪を犯した者、宗教上の理由で忌み子とされてしまった者などにとっては地上で最後の楽園となり得る。


 しかし、モンスターやアンデッドでも住める上、もし彼らに殺されても「自己責任」の一言で片付けられる、やはり恐ろしい国である。


 そんな、いわゆる世紀末的ヒャッハーなディストピア、ナパジェイ帝国だが、頭脳、機転、経済力もまた「力」の一つとして認められるため、一概に暴力のみが支配しているというわけではない。

 それが証拠に国のトップ、帝国最強であるはずの建国皇帝、通称「天上帝」はその支配力で己の身を守り、誰もその強さのほどは知らない。


 この物語は、そんな過酷なナパジェイ帝国で、ある少女が、魔法使いとしての腕を磨き、才能を開花させ、仲間達とともに冒険者として自分の居場所を獲得していくまでのストーリーである。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ユメ・ステイツは海辺の故郷の町を馬車で出発し、今は徒歩で帝都キョトーを目指していた。


 彼女は、ほぼ鎖国状態にあるナパジェイ帝国で唯一他国との交易を行っている港町ガサキで忌み子(デビラス)の父と母を持って産まれてきた。


 忌み子の男女二人が成人まで生き延び、ましてや堂々と結婚し子を成すなど、唯一神教の支配力が強い大陸上ではありえないことなのだ。ユメは、存在そのものがナパジェイという島国の特殊性を体現しているといえる。


 父から受け継いだ、東洋系であることを思わせる黒い髪と黒い瞳。瞳は大きく、鼻は高く、ユメは目鼻立ちは整っている方だ。

 とはいえ、今はその表情に疲れの色が濃い。


 歳は十六。

 この世界で成人を認められる年齢になったばかりである。


 魔法使いであることをアピールするかのようなとんがり帽子に、縦にストライプが入った黒いカッターシャツに黒いパンタロン。

 動きやすそうではあっても、まったくもって旅には向いていない服装である。ユメが冒険者になるために旅に出るとき、両親が仕立ててくれた服装だ。


 冒険者になってからの服装など、なってから考えればいい。

 ユメはそんな風に考えていた。


 実は、ユメは今、別に好きで歩いているわけではない。

 路銀を節約しているのだ。


 この世界には、火、水、風、土、光、闇の六属性の魔法があり、行使するにはそれぞれの属性に対応した宝石を消費する必要がある。


 この宝石は通貨も兼ねていて、要するにユメは手持ちの宝石の残量が少なくなってきたのだ。


 大陸では宝石以外の金貨が通貨として扱われることもあるが、少なくともナパジェイではあまり使われない。実利優先な国であるが故である。


 なお、宝石を介さず、無理やり自分の力から魔法を使うこともできるが、やると精神力を消耗し、最悪寿命が縮むので、あまりオススメはされない。


 そして、この宝石といういかにも貴重そうな響きがする代物だが、基本的には三種類の入手法がある。


 ひとつは、モンスターを殺すこと。


 モンスターを殺すと額から宝石が出てくる。そして強い相手ならより価値の高い宝石が出る、とこういう訳だ。


 しかし、このあたりで出てくるモンスターの結晶の質の悪いこと。

 なんたってここは魔境ナパジェイなのだから襲ってくるモンスターも魔族やら食人鬼(オーガ)やら、きっとめぼしい連中が出てきて稼げるだろう。

 そう高をくくったのがユメの失敗だった。


 もう一つの手段が、他人から奪うこと。

 追いはぎや野盗などが人間相手に取る手段だが、モンスターも知恵をつけてくると宝石を使って魔法を使ってくるため、別にモンスターから奪ってもよい。

 しかし、馬車の護衛の最中に魔法を使うほどの強力なモンスターには出くわさなかった。


 どうやら途中の町の冒険者が、めぼしいモンスターも野盗も狩り尽くしたらしい。


 こんな粗悪なモンスターを狩って得られる悪質な宝石を使って戦っていたらろくな魔法が使えなくなり、いずれ、虎の子の故郷の母が念のためにと持たせてくれた宝石を使って強力な魔法を行使させられる羽目になるだろう。


 ときどき馬車を襲ってくるモンスターを倒しながら、ユメはそんな懸念を抱いた。


 だから故郷ガサキからナパジェイ本島のゲカンの港まで移動し船に乗ってから帝都キョトーへの定期便の馬車で帝都まで行く予定だったのだが、途中で降り、釣りとしていくつか宝石をもらい、締めの数時間は徒歩で行くことにしたのだ。


 徒歩で時間をかけながらならある程度モンスターとも出くわすはずなのでそいつらを倒しながら、宝石を貯めたら、帝都についたとき贅沢できるだろう。


 だが、歩きでも、ユメの予測よりもこのあたりで出てくるモンスターの質が低すぎてろくな稼ぎができなかった。


 と。

 説明にちょうどいい相手が現れた。


 ゴブリン三体だ。


「ぎっ、ぎぎぎ、ぎえええ」


 ゴブリンとは人間で言う五歳くらいの知能と背丈を持った最下級のモンスターだ。


 たま~に長く生きて成長したり知識を得たりする連中もいるが、意味もなく勝ち目もない人間相手に襲ってくるので、初心者の冒険者の練習台にされる雑魚である。


 ユメはポケットから宝石袋を取り出し、その中から赤い石を一つ出した。


「ん、一個で充分かな。もったいないし」


 透明度も何もない。しかし、これがユメたち魔法使いの武器にして、この世界の通貨、宝石なのである。


「良いの落としてよねっ! フレア・ボムっ!」


 ユメは武器すら持たないゴブリンに向けて手をかざした。


「ぎぎぎっ! ぎえー!」


 そして、その掌から、無謀にもユメに襲い掛かってくる三匹に火の玉が迸る!

 ドッ!!と派手な爆発が起こった。


「「ギ!」」


 二匹は悲鳴を上げたが、もう一匹は悲鳴さえ上げずに絶命する。


「ふう、二匹撃破。宝石の発現を確認。後一匹は、トドメが必要、と。あーめんどくさ」


 ユメは腰の鞘から抜いたナイフで、黒焦げになりながらもまだぴくぴくと動いているゴブリンの胸部を一刺しした。


 すると、絶命した二匹のように、額の辺りに鈍い光が灯る。


「F級、E級、F級・・・、D級の宝石を使って、収益がこれじゃほぼプラマイゼロ・・・」


 がっくりとうなだれながら、ユメは死んだゴブリンたちの頭部から黒ずんだ宝石を回収していく。

 これが、今のユメの生活だった。果たしていつになったら帝都に着くのやら。


「しかも、使い道の少ない闇属性二個に、土属性の宝石・・・、火が欲しかったのに。こりゃ、プラマイゼロどころかマイナスだわ」


 虚しい殺戮を終え、ユメは比較的使い道のある土属性の黄色の石だけは大事に袋に入れ、袋をポケットに入れるとまた歩き始めた。

世界観補足説明


地名の由来

ナパジェイ:日本=JAPANの逆さ読み、NAPAJから

港町ガサキ:長崎から。江戸時代の出島が由来。

ゲカンの港:下関の音読み

人名の由来:

ユメ・ステイツ:日本語の「夢」と、アメリカ合衆国の通称「States」から


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