人間と魔族
「そもそもさ。何で人間は魔王を倒したいわけ?俺は別に人間に危害を加えたいと思ってないのにさ」
勝手に魔王の土地に入ってきて、持ち主を殺そうとするなんて元の世界なら犯罪だ。その事実に気付いて俺はだんだん腹が立ってきた。魔王ってだけで何やってもいいなんて誰が決めたんだよっ。
「魔王様、それでは本日は人間と魔族の歴史について講義を行いましょう」
「えっ。そんな!」
この流れで何故勉強せねばならぬのか。ビックリである。
「ですが、魔王様の疑問に答えるには人間と魔族の歴史の確執を知らねばなりません」
「うーん。わかった。出来るだけ完結に教えてくれ」
「はい!では早速始めますね」
ジョルジュはそう言うと指をパチンと弾いた。
「レッツ、ミュージック!」
「!!!」
壮大な音楽と共に、ミュージカル調の演劇が始まってしまったのだ。
□□□
「要約するとだ。この世界の種の起源は魔族の方が古い。で、先に良い土地に住んでいた所に人間がどこかから生まれて増えていったと。繁殖率は人間の方が高いから、あっさり人数負けして人間側は良い土地を欲しがってるわけね」
「左様でございます」
「ねぇ、三時間のミュージカル必要ないよね?」
「魔王様、その説明の行と行、文字と文字の間には深く激しい戦いの歴史があって、それを説明するにはですね―」
ジョルジュは必要だと主張したいらしい。
「まぁ、理解したよ。確かに戦いの内容は中々えげつなかったしね」
可愛い指人形で和ませないと、ちょっと場が持たない類いの物語が沢山ありました。はい。
「全盛期に比べたら、こちらも大分奪われた後なので、これ以上は魔族側としても阻止したいものです」
「まぁ確かにな。リミさんの実家も目と鼻の先だもんな。あそこも境界線なら、めちゃくちゃ狭いよな」
そう言ってクッションを掴んでソファに寝転がる。
「魔王様、ちゃんとして下さい」
「休憩中は、しっかり休みたいタイプなんですぅ」
転がりながら、俺はこの問題の落とし所を考える。
(現状を守るのは絶対だ。けど魔族が増えるなら、こっちだって土地が必要なのでは・・・?)
「ジョルジュ。まだ人間が住んでない土地とかあるのかな?」
「うーん。以外と何所にでも住んでるんですよね。しかも資源を食い潰していきますしねぇ。その跡地ならありますね」
「資源を食い潰す?」
「この世界には世界の自己再生機能が備わってるんですよ。何もしなくても食物連鎖が作られますから。ですが人間は世界の自己再生機能の回復より速いスピードで資源を消費します。全てを駆逐するので彼らが使い潰した土地が元に戻るには、かなりの時間が掛かります。そのため人間は駆逐した土地を捨てて移動します」
「それだ!」
俺は俺のタスクリストに、人間が捨てた土地調査を追加した。
「優先度は【低】、完了予定日は【人口が増えて土地が足りなくなるまでになんとかする】だ」
そして気付いた。担当者が俺以外にいないことを。
「・・・。計画遂行要員が必要だなぁ」
今は俺とリミさんしか居ないのだ。ジョルジュは魔王の仕事があるので、そちらに専念して貰う。
俺はソファから起き上がると、ペンとノートを持ってリミさんに会いに行くことにした。
【小話】
ジョルジュ:指人形は私のお手製です。中々のクオリティなんですよ(ドヤア)