妻の役割
一旦ここで区切りです。続き頑張ります。
リミ・アシュタルト令嬢は、そのまま魔王城に留まることになった。
あの後、いろいろ大変だった。ジョルジュにリミが滞在するための王妃の部屋を仕度して貰ったり、ちゃんとアシュタルト家に手紙を書いたりした。町は夜通しお祭りになってしまい城の周りは昼間のように明るくて騒がしいし。俺は何とか雑務を片付けて寝る仕度をした。今はリミを王妃の部屋まで送ってきたところだ。
「今日はいろいろあったから、ゆっくり休んでほしい。俺も疲れたから、明日は昼までお互い自由に過ごそう」
「・・・はい。魔王様、お休みなさいませ」
なんか言いたそうな顔をしたが、彼女は部屋に入っていった。俺もくたびれたので早く寝ようと魔王の部屋へと帰って行った。
ベッドに入ってウトウトしながら、リミの事を思い浮かべる。いきなりすぎて実感が湧かなかったが俺にお嫁さんができたのだ。
「あ」
思わず、ガバッと起き上がる。
(もしかしなくとも、今日は初夜?!だからリミさんは変な顔をしていたのか?)
己の無神経さに気が遠くなる、今からでも遅くないだろうかとベッドから出ようとして、俺は自分が芋ジャーを着ていることに気付く。
「あぁぁぁ、いやぁぁぁ」
もしかしなくとも、さっき一緒にいる間ずっと芋ジャーだったのか。こんなやる気のない格好で案内してたなんて絶望だ。
ダメだ。今更どの面下げて行けるというのか。
あまりのダメっぷりに、そのまま突っ伏して魂が飛んだ。
□□□
翌朝、俺は早起きして宝物庫へと足を運んだ。
ちなみに魔王城の宝物庫には、あらゆる国から奪った財宝が積み上げられている。その中から指輪を片っ端から集めてみた。
「サイズわかんないけど、大事なのは気持ちだよな」
せめて似合いそうなデザインを渡そうと、手に取って見比べる。
「おや、魔王様。そちらの指輪を選ぶとは中々。付ければ三日であの世行きの呪われた指輪です」
ジョルジュに言われて、直ぐに指輪を全力で投げた。
「あっ国宝ですよ。何してるんですか!」
「呪いの指輪が国宝?!それより何かリミさんに渡せそうな指輪が欲しいんだけど、この辺りとかどうかな」
「どう、というか、手に持ってるの全部破滅系ですよ。何する気ですか?殺すくらいなら娶らないで下さいよ。後処理大変じゃないですか」
「全部破滅系?!否、そんなつもりじゃ!もっと贈り物に相応しい指輪って無いの?」
俺はジョルジュと二人で、もう一度宝物庫を探し回り、何とか渡せそうな指輪を見つけたのだった。
渡す指輪を決めた後、出来るだけシンプルな様相の軍服に着替えた。流石の俺も指輪を渡すのに芋ジャーは着ない。そして俺は、午後一でリミに指輪を渡すべく彼女を城の庭園に呼び出した。
□□□
「素敵な指輪ですね。これを私に下さるのですか?まぁ魔王様とお揃いなのですね」
指輪を喜んでくるリミに、俺は全力の営業スマイルを向ける。そんなつもりでは無かったが、実はコレ俺にとってすごーく良い指輪なのだ。しくじってはならない。
「実はですね。僕の居た元の世界では婚姻関係を結んだ男女はお揃いの指輪を交換するんです。なので是非リミさんにはこの指輪を肌身離さず付け貰いたいんです」
「そ、そのような風習があるのですか」
両手で頬を包んでリミが顔を赤くした。よし!手応え上々だ。彼女の頬から左手を外し薬指に指輪を付けた。ぶかぶかの指輪は直ぐにサイズを変えてピッタリに変わる。便利だな。
「それでですね。この指輪はお互いに危険が迫ると光るんです」
「まぁ。では魔王様に危険が迫りましたら、私直ぐにお側に参ります」
「はい。是非お願いします」
ちなみに俺は行きません。リミが危険なら俺は即死間違い無しだ。
「この命に変えて、魔王様の楯となりますわ。」
「いえ。その必要はありません」
「そんな!私、こう見えて強いんです。お役に立てます」
知ってます。昨日しっかり見ましたから。俺はリミの肩を掴んで顔を近づける。
「では、僕に危険が迫ったなら、僕を連れて逃げてく下さい」
「そ、そのようなこと」
「いいえ。これはとても大切なことです。僕に危険が迫ったら、貴女は僕と一緒に逃げるんです」
「二人で、ですか?」
「二人で、です。いいですね?」
「わかりました。私、魔王様と共に逃げ切ってみせます!」
やる気に満ち溢れ頬を紅潮させたリミを見て無事にやり遂げたことを実感した。
これで命の危機から一歩遠退いた。これは大きな前進だ。この調子でどんどん自分の周りを固めていけば、俺は勇者に殺されずに済む。
これからも優秀な人材を採用していくぞ。おー!
ゆーや:私服が残念なサラリーマンみたいなことをしてしまったorz
ジョルジュ:だから、あれほど止めることをお勧めしたのに。
(ジョルジュ、後ろから黒いジャージを出す)
ジョルジュ:こちらの色なら、まだマシなのでは?
ゆーや:黒ジャージだ。採用!!