リミ・アシュタルト
私の名前はリミ・アシュタルト。悪魔の名門アシュタルト公爵の一人娘だ。
適齢期を迎えて、沢山の縁談が持ち込まれているがどの男も私に叩きのめされてしまい、そのせいで破談続きになっていた。
最近の縁談話は、どちらかとゆうと力比べが多くなっているような気さえしている。挙げ句の果てに、かなり劣悪な手段で仕掛けてくるから気が抜けない。毒や睡眠薬はあたりまえ、縛り上げて既成事実を作るなんて日常茶飯事。複数人を相手にしたことだって一度や二度ではない。
負ければ、そんな相手でも嫁がなければならない。
でも、こんな卑劣な奴が自分の夫になるなら、何が何でも負けたくなかった。
そうして私は全力で相手を叩きのめして、気付けば百五十件もの縁談を破談にしていた。
そんなある日、ついに魔王様から縁談話が舞い込んでしまった。いくら私でも魔王様の縁談は断れない。きっと私は倒されるに違いないと思った。
まぁ、どうせ倒されるなら先制攻撃くらい仕掛けてみようと、約束の日に意気揚々と魔王城へ向かったのだ。
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私はバルコニーで何やら見たことの無い食べ物を食べていた。しかも美味しくて思わず饒舌に感想を話した。あの魔王様相手に、だ。
しかも私の話を沢山聞きたいと言われ、話せば驚きながら褒めてくれるものだから、益々気分が良くなった。殿方とお会いして、こんなに楽しい時間を過ごせたのは初めてだった。だって誰も彼も自慢話ばかりで、私の話を聞きたいと言われたことなんて、一度も無かったのだ。
私は、いつ魔王様が仕掛けてくるか緊張していた事も忘れて、好きなだけお喋りしていた。
魔王様は何て素敵な方なのだろうか、とちょっと思い初めた時だった。
「いやぁ、楽しい時間はあっとゆう間ですね。今日はこの辺りでお開きにしましょうか」
突然の終わりを告げられた。
「今日はその、縁談のお話しなのでは?」
思わずこちらから、確認した。
「ええ。ですが、こんな少し話した程度で決めてくれと言うのも、ね。もし貴女が宜しければ、またお茶でもしましょう」
「ま、魔王様がお望みの縁談を断ったり出来ません」
「いやぁ。僕はその気の無い人に無理強いはしたくないんです。あなたのお眼鏡に叶わないなら諦めます。その代わり是非配下として働いて頂きたい」
(魔王様が私を気遣って下さっている!)
ショックで何も言えなくなってしまった。
「もし、断り辛いなら私から断ったことにしますから。でも、配下の話は是非受けて欲しいです」
リミ・アシュタルトは自分の置かれた状況を全力で整理した。
(私の男運の無さは筋金入りだ。何なら前世で何かとんでもないことを仕出かしたのではないかと言われるくらい百五十人の縁談相手は、どいつもこいつも最悪だった。お父様にも呆れられて、なんなら嫁に行けないのでは?と心配される始末だ。目の前の魔王様とは今日初めて会ったし、話したのも初めてだ。でもとても楽しかった。用意されたオカシとやらは魔王様が自ら作って準備してくれたものだ。今日、私の為に、だ。それに私が勘違いで戦いを仕掛けて部屋もオカシも駄目にしたことを咎めないなんて、なんて器が大きいのだろうか。こんなに器の大きな殿方なんて、この先私の目の前に現れると思う?否。現れる訳がない。今、私の目の前にいるのは、間違いなく、私の人生最高に、良い男に違いない!)
――― 絶対、逃がしたらダメなやつ!
その瞬間、心は決まった。
私は勢いよくを立ち上がり、スカートの裾を摘まんで完璧なお辞儀する。
「魔王様。リミ・アシュタルトは、本日これより貴方様の嫁に参ります!」
【小ネタ】
リミ:つり目でキツい顔なので可愛い系の服を着て中和させるのですが、本当はシンプルで格好いいものが好きです。