魔王様の結婚2
定刻になり、魔王城にリミ・アシュタルト令嬢が現れた。
つり目に紫眼が印象的な顔立ちに、ピンク色の緩いカールの髪をハーフアップでまとめサイドに小さな二本の巻き角が生えている。フリルとリボンを使ったワンピースと編み上げブーツで、見た目は非常に可愛らしい令嬢だ。
俺は全力で営業スマイルを作り、出迎えた。
「ようこそ、リミ・あすた」
「お約束通り、受けて立たつわ!」
言い終わると同時に、彼女の振り上げた手から魔弾が放たれた。もちろん的は俺だ。寸前で避ければ、後ろにあったテーブルが木っ端微塵に吹き飛んだ。
「っ!あ、あぶ、危な!」
避けた拍子に床に転んで、更に後ずさる。
「次は外さない!」
「まってー。待って待って!お願い話を聞いてー!!」
彼女の耳に届くように全力で叫ぶ。
「なにかしら?」
あ、聞いてくれるのね。良かった。
「今日はデートに誘っただけなので、戦いは無しでお願いします」
「で、でーと?」
「そう。手紙にもそう書きました」
「な、なんですって!少しお待ちになって」
そう言うと彼女は手に握っていた封筒の皺を伸ばして中から手紙を取り出した。読みながら震えだしている。起き上がり、汚れを払って辺りを見渡せば、部屋は使いものにならなくなっていた。
「あの。それで確認は済みましたか?」
聞けば、真っ赤な顔で口をパクパクさせていた。
「あの、その」
「はい。今日は良くお越し下さいました。こちらはもう使えないので部屋を移動しましょう。お茶とお菓子も準備するので、そちらで少々お待ちください」
相手に口を挟ませず、こちらのペースに巻き込んでいく。しかも相手の先制攻撃が外れたせいで俺が若干優勢だ。ラッキー。彼女をバルコニーに移動させ、新しいお菓子を用意すべくキッチンへ向かった。
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数刻後、作ったお菓子をテーブルとに置く。
「お口に合えば良いのですが」
「あの、これは何でしょうか?」
「こちらは、パンケーキです。毒は入っていないので安心して召し上がって下さい」
「私、毒は効かないので心配はしてません」
うぉ。冗談のつもりだったけど、流石というか、何というか。優秀なので是非配下に入って欲しい。ちなみに結婚については先ほどの一撃で早々に諦めた。戦ったら駄目だ。死んでしまう。
二人でお茶とパンケーキを楽しみながら、感想を言い合って穏やかな雰囲気を作る。
「実は今日はリミさんの話を聞きたいなと思ってます。破談相手を叩きのめした話を是非!」
「そうですね、では最初のお見合いの話から・・・」
相手の過去のお見合い話を聞くなんてタブーも良いとこだが、俺はとにかく相手の話を聞いて距離を詰める作戦に出た。そして褒めた。褒めて、褒めて、褒めちぎった!
しかも話がぶっ飛びすぎて、途中から本気で聞き入ってしまったのも事実だ。
彼女のお見合い相手は吸血鬼、竜、オーク、巨人、悪魔、鬼、天狗、半神、人魚、怪魚、エルフなど多種多様だった。そもそも魔族と一括りにされた中にどんな種族が居るのか知らなかったから、非常に興味を引いた。
あっとゆうまに時間は過ぎ、バルコニーに冷たい風が吹く。
「いやぁ、楽しい時間はあっとゆう間ですね。今日はこの辺りでお開きにしましょうか」
「えっ!」
俺の提案に、リミ・アシュタルト令嬢がピシリと固まった。
【小ネタ】
ジョルジュ:無粋なので別室で待機してたのですが物凄い音がして驚きました。只今部屋の片付け中です。