魔王様の結婚1
ジョルジュの用意した釣書を機械的に振り分ける。条件は「人型」で「強い」。以上だ。俺の傍に居る人は誰でも強い方が良い。その方が生存率が上がる。
そうして選んだのは、上位悪魔の一人娘「リミ・アシュタルト」令嬢だった。
そして、ここからが問題だ。
彼女は、今まで百五十回もの見合いを破断にしており、その全員を叩きのめしていた。ちなみに破談理由は「自分より弱い男はお断り」だとか。
「普通に呼び出しても百パーセント無理ゲーだ」
「ですが、彼女に限らず魔族の女性は自分より強い男に嫁ぐものですから」
その理屈だと、俺の嫁になってくれる魔族なんてゼロじゃん!
「彼女に断わられたとしても、有能な人材なのは確かだから是非会って友好関係を築きたい」
俺は決して多いとは言い難い過去の経験を元に、彼女をデートに誘うことを決めた。
□□□
お誘いの手紙を出して当日のプランニングを練るために、ジョルジュに異世界のお菓子を用意して貰った。
出てきたのは、この世のものとも思えない色の泥のような丸いものだった。
「ナニコレ?!」
「オカシといった類いの食べ物は流通していませんから。甘味を感じる食べ物はこれくらいです。もちろん余り食べる者はおりません」
試しに指にとって舐めてみれば、気持ち悪いほど激甘だった。
「肉や魚料理が、元の世界とほとんど変わらないから完全に油断した」
俺は呆然とした。できれば映える系のお菓子を用意して話のネタにしたかったのに。
「元の世界から取り寄せますか?」
見ればジョルジュが魔方陣に手を突っ込んでいる。
「いや。ちゃんとお金払わないとまずいだろ?」
「いえ、取れますよ。どれが入り用ですか?」
「だー。万引きしないで。止めなさい」
ジョルジュには金を払って物を買う概念が無い。このままでは万引きになってしまう。俺は慌ててジョルジュの手を引き抜いた。
「ちょって待って。別の方法を考えるから。ああでも何も無いなら簡単な物を作っても珍しくなるな」
(卵とか牛乳とかを、野良の鶏とか牛から取るなら問題ないのか?果物も野生のものを採ればいけるか?)
とにかく万引きは避けてたいので、野生で取れる物を集めてみることにした。
「ジョルジュ、卵とか果物とかを野生で元の世界から取り出せないか?」
「魔王様、卵や果物くらい異世界にもありますよ」
「え!?」
ならどうして、お菓子があんなに不味いのだろうか?
「取り合えず、手に入る素材を見せてくれ」
「御意」
□□□
デート当日、俺は調理場でパンケーキを焼いていた。焼き上がったパンケーキをお皿に乗せて、カットしたバナナを乗せハチミツをかけて生クリームを飾る。仕上げにミントの葉を乗せれば完成だ。
まぁ、この状況に思うところはあるものの、話のネタになれば何でも良いので用意できただけ良かったよ。
「出来るだけ友好的に楽しんで貰おう」
当初の目的を完全に見失った俺は、パンケーキを片手に待ち合わせの広間へと歩いて行った。
【小ネタ】
ゆーや:今日はデートだからジョルジュが用意した服を着てみた。軍服みたいなやつ!
ジョルジュ:魔王様お似合いです。是非このマントと角の飾りも付けて下さい!
ゆーや:えーやだー。うわ重!この角、重!!