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あなたの思い出、売りませんか?

作者: てつ

私はお金が大好きだ。お金は偉大だ。お金があれば美味しいものをお腹一杯食べられるし、欲しいものは何でも買える。

いくらあっても困らない。お金は裏切らない。この世で一番大切なのはお金に違いない。

あぁ、お金お金、お金が欲しい。

私はお金が大好きだ。お金は偉大だ。お金があれば美味しいものをお腹一杯食べられるし、欲しいものは何でも買える。

いくらあっても困らない。お金は裏切らない。この世で一番大切なのはお金に違いない。

あぁ、お金お金、お金が欲しい。


私は日々働きながらお金のことばかり考えている。

お金を沢山貰える仕事に就いたし、お金を沢山貰えるよう頑張って仕事をしている。

そのおかげでお金はどんどん増えている。いまや私はお金持ちの部類に入るのではないか。

でも、もっともっとお金が欲しい。まだまだ足りない。

今、特に何か高いものが欲しいというわけではないが、堪らなくお金が欲しいのだ。

そんなわけで、仕事が休みの日は大抵、大好きなオレンジジュースを飲みながら、お金を稼ぐ良い方法はないか、そればかりを考えていた。

世の中には休みの日は家族と過ごしたり、友達と遊んだり、旅行に出かける人がいるというが、

それが何になるというのだ。そんなことをしたってお金は稼げないではないか。

休みの日でもお金を稼ぐ、それが一番ではないか。

副業や物品販売、アルバイト等を始めることを検討してみたが、そこまで稼げそうにはなかったのでやめた。


ある休みの日のこと、お金を稼ぐ良い方法が思いつかず、もやもやしているときだった。

家に届いていたいくつかの広告の一つの見出しに目が留まった。

「あなたの思い出、売りませんか?」

思い出を売る?一体どういうことだ?詳しく広告を読んでみる。

ふむふむ、なるほど。なんでもこの店は自分が経験してきた思い出を最新の機械で抽出し、高値で買い取ってくれるそうだ。

なんだか怪しいと思いつつも、高値という言葉に惹かれた。

うん、そうだ、思い出が売れるというなら元手はただだし、丸儲けだ。こんなにうまい話はないじゃないか。

よし!次の休みの日にはこの店へ行ってみるか!


次の休みの日、私は早速思い出を買い取ってくれるという店に赴いた。

店に入ると店員が対応してくれたので、とりあえず質問し回答を聞いてみた。


どんな思い出を買い取ってくれるのか?

→どんな思い出でも買い取ります。


どうやって抽出する思い出を指定するのか?

→思い出に関する出来事や年代、日時等を指定して頂いたりと様々です。

 怖かった思い出、楽しかった思い出等抽象的な指定でも抽出できます。


思い出を買い取って何に使うのか?

→思い出が欲しい人に売り注入する、または研究に使用する、などなどです。


思い出の抽出にどのくらいかかるのか?

→一瞬です。


思い出を抽出するとどうなるのか?

→抽出した思い出は忘れます、日常生活に支障は出ません。


抽出は痛いのか?

→何の痛みもありません。


抽出の実績はあるのか?

→多々あります。


・・・


質問を繰り返していく中で、思い出を売ろうという気持ちが高まってきたのを感じた。

最後に肝心な質問をしてみる。

「思い出を買い取ってくれる値段はどのくらいです?」

「はい、1つの思い出に対して買い取り金額はこのくらいになります。」

店員が提示した金額を見て、私は驚いた。私の予想以上に金額が大きい。

胸が熱く高まってきた!1つの思い出に対してこの金額!実に素晴らしいじゃないか!

よし!売るぞ!思い出を売るぞ!今ここで!思い出を根こそぎ売ってしまうぞ!

私は金持ちから大金持ちになるのだ!あぁ大金持ち!良い響きだ!


私は店員に過去から今までの思い出を全て売ることを伝えた。

店員は驚き躊躇していた。しかし、私の決意を伝えると買い取り金額の見積もりに取り掛かってくれた。

機械を私の頭に取り付け、思い出の数を計測し始めてくれた。


・・・・・


・・・・


・・・


・・



思い出の数を計測し始めながら私は、見積もり金額を予想し胸を躍らせた。

また同時に不安もあった。私の思い出は本当に高く買い取ってもらえるのか、と。


しばらくののちに計測が終わり、買い取り金額の見積もりが出た。

見積もりの金額に私の不安は吹き飛んだ。今までに見たことのない金額だ。

毎日派手にお金を使ったとしてもとても使い切れる額ではない。

日々の仕事なんてもうする必要がなくなり、毎日が休みの日となるだろう。

店員に金額が間違っていないか聞いてみたが、間違いではないとのこと。

はたして思い出とはこんなに価値のある物なのだろうか?

ふと疑問が頭に浮かんだが、よし決めた!売ってしまおう!

この世で一番大切なのはお金なのだ!そのお金が手に入る。それで良いではないか!

私は大金持ち、いや、大大大大大金持ちになるのだ!


店員に思い出を全て売ることを告げ、私は全ての思い出を売り飛ばした。

全ての思い出の抽出ということだけあって抽出には少し時間が掛かったが、抽出は無事に完了した。

それと同時に私はとてつもない金額を手に入れた。

なんだか頭がすっきりする。私の今後の生活を考えると楽しみで心が震えた。

店員にお礼を告げ、私は家へと帰り始めた。


家に帰る途中、これからについて考えていた。

欲しいものは何だって買えるぞ、何を買おうかな。

・・・。うーん、すぐには思いつかないな。

そうだ、美味しいものを沢山食べよう。高級品だって気にせず食べちゃうぞ。

具体的には・・・。やはりすぐには思いつかないな。

仕事はもうしなくていいし、とりあえずは休職にしてそのうち辞めよう。

空いた時間は何に使おうかな。

・・・。だめだな、いい案が思い浮かばない。

うむむ、よし、旅行だ、旅行に行こう!

いまやお金も時間もたっぷりある。どこに行くとするかな。

・・・、今まで旅行なんてしたことなかったし、すぐには決められないな。

まあ、生活習慣が急に変わるのだ、すぐにいろいろと思い浮かばないのも仕方ないだろう。


あれこれ考えて歩いていると、料理屋が目に入った。

そういえばお腹が減ってきたな。よし、手始めにここで美味しいものを食べるとするか。

私は料理屋へと入り、席へとついた。


料理屋の中はそこそこ広く、私以外のお客も結構いて賑わっていた。

メニューを広げ注文を考える。

今までは注文を決めるのに値段が決め手となっていたが、いまや値段は気にしなくて良いのだ。

しかし、メニューをめくりどれにしようか考えるが、なかなか決められない。

値段が高いのが一番美味しいとも限らないしな・・・。

そうだ、お店のお薦めの料理にしよう!そうしよう!

早速店員にお勧めの料理を聞き、注文が圧倒的に多いという、教えてもらった料理を注文した。


しばらくして料理が運ばれてきた。

ん?これがお薦めの料理?

運ばれてきた料理は、御飯に味噌汁、魚の煮つけなど、何の変哲もないものであった。

とりあえず食べてみる。

うん、それなりに美味しい。しかし、美味しいがただ美味しいというだけ。これがお薦め?

まわりの同じ料理を食べてる人たちの反応を見ている。

すると、美味しい美味しいと言いながら食べていたり、懐かしい、この味だぁ、と涙ぐみながら食べている人ばかりであった。

うーん、皆おかしいんじゃないか?

確かにそれなりに美味しいが、感動するほどではない。不思議である。

皆がこの料理に夢中になる理由が気になる、気になって仕方がない。

そんな時は聞くのが一番。

ちょうど隣の席の人が同じ料理を食べて感動している感じであったので、聞いてみた。

どうしてこの料理を食べて感動しているのです?、と。

答えは簡単であった。お袋の味というか思い出を呼び起こしてくれる味だからですよ、とのこと。

ふむふむ、なるほど。思い出の味ということであったか。ならば、私が食べてもだめだな。思い出が1つもないんだし。

なんだ、おかしいのはまわりの皆ではなくて、私であったか。

疑問が解決しすっきりしたが、何だか不安を感じた。何に対する不安なのかはわからないが。

料理を食べ終え、店を後にし、家へと帰った。


家に着き、料理屋で感じた不安について考えていた。

あれは何に対する不安だったのだろう。

今やお金は使いきれないほど持っている。お金があるから衣食住には困らない。

これからはやりたいこと、欲しいもの、行きたいところなど全て思いのままだ。

不安なんてないはずなのに…。

うーん、わからない。気のせいだったのかな。

気分転換に大好きなオレンジジュースを飲むことにした。

そして、大好きなオレンジジュースを飲んだ瞬間、異変を感じた。


飲んだオレンジジュースはいつもと同じ大好きなオレンジジュースであったが、

感じた味はただ美味しいだけのオレンジジュースであった。

あれ?おかしいな?何かが違う・・・。

もう一口飲んでみる。

しかし、やはりただ美味しいだけのオレンジジュースであった。

美味しいと感じているから、味覚がおかしくなったのではなさそうだ。

なんだろう?

うむむむ・・・。

そうか!わかったぞ!感動が無くなっているのだ!

私はオレンジジュースを飲むたびに感動していたはずだ!

この味、この風味、この色、と。

しかし、今やそれがない。原因は分かっている。思い出が1つもないのが原因だ。

オレンジジュースを初めて飲んだ時の状況やその時の感動、きっかけなどの思い出が全て消えたのだ。

誰かにオレンジジュースを勧めてもらったのか、それとも楽しいひと時に一緒に飲んだのか、

はたまた仕事や何かで苦しい時に飲んで気力を沸せられたから好きになったのか・・・。

だめだ、全く思い出せない。いや、思い出せないというよりも思い出す思い出がないのだ。

なぜ私はオレンジジュースが大好きだったのだろう・・・。


不安と焦りが生まれてきた。

失ってから気付いたが、思い出とはとても大切なものだったのだ。

人は思い出を作りながら生きていく。楽しかったり、悲しかったり、嬉しかったり、辛かったりと色々な思い出を。

そして時折、思い出を思い出しながら昔を懐かしんだり、泣いたり笑ったり。

それから思い出が現在の生活の元になっていたり、進むべき道を示していたり。

思い出は今しか作れない。過去に遡って作ることはできないのだ。

私が生きてきたこの何十年の間に、私にはどんなことがあったのだろう。

何が楽しくて何が辛かったのだろう。誰と出会ったのだろう。子供のころは何をしていたのだろう。将来の夢は何だったのだろう?

今までの思い出が全くない私。生まれた瞬間に今に来たみたいだ。

私の人生とは何だったのだろうか?


通帳に目をやる。

思い出と引き換えに手に入れたお金の数字が沢山並んでいる。

数字の羅列を見ても、数字は数字。私の人生がどんなだったかは教えてはくれない。

取り返しのつかないことをしてしまった。

沢山の数字は私の愚かさ、浅さかさを示しているようだった。

この先どんなに贅沢をし、豪遊しようとも心は満たされない気がした。

この先思い出を作っていくことはできるであろう。しかし、失った思い出は失われたままだ。

ただただ涙が溢れてきた。

涙を流しながらオレンジジュースを飲んだ。

ははっ、何だかしょっぱいオレンジジュースだな・・・。



・・


・・・


・・・・


・・・・・


何だか声が聞こえる。

あれ?私は眠っていた?

えーっと、ここはどこだっけ?確か家にいたはずだが・・・。

「お客様、お客様」

目を開け、声のほうを向くと、思い出を買い取る店の店員がいた。

なぜここにいるんだと思いつつも周りを見てみると、そこは思い出を買い取る店の中であった。

状況が分からない・・・。

店員に状況を聞いてみる。

店員いわく、なんでも私は思い出の数を計測すると同時に、思い出売却後の仮想現実をみさせてもらっていたらしい。

多くの思い出を売却する人を対象に、思い出売却後の生活に本当に支障がないか試すためらしい。

仮想現実で出てきた思い出の買い取り金額は実際の買い取り金額と同じとのこと。

店員が声をかけてくる。

仮想現実の体験お疲れ様でした。いかがでしたか?宜しければ早速思い出を買い取らせて頂きます。と。

状況の変化に頭がまだぼーっとしていたが、店員の買い取りという言葉で頭が素早く回転した。

買い取り、つまりまだ私は思い出を手放していない!!まだ間に合う!!!

買い取りの取りやめを伝え、店員に謝り、家へと逃げ帰った。


・・・


今や、私の休日の過ごし方は、もっぱら大好きなオレンジジュースを飲みながら思い出に浸ることだ。

大好きなオレンジジュースの思い出、楽しかった時や子供の頃の思い出などなど。

お金は大切だが、思い出はそれ以上に大切であると思う。

そうそう、そのうち遊んだり旅行に行ったりして新しい思い出を作りたいな。

昔にしたかったことや行きたかった場所も思い出せるし、何からしようか迷っちゃうな。

これからの人生が大いに楽しみだ。

大好きなオレンジジュース。今では大好きな理由も思い出せる。とっても嬉しい。

そうそう、しょっぱいオレンジジュースも今では大切な思い出かな。

二度と体験したくはないけどね。

あぁ、思い出最高!


この度は読んで頂きまして、ありがとうございました!


お金は大切だと思います。また、お金以外にも大切なものが沢山あると思います。

どちらもバランス良く大切にしていけるのが一番なのかなと思います。


今回が作成した小説の2作品目になります。

至らない点等あるかと思いますが、評価や感想等頂けると嬉しいです。

今後も宜しくお願い致します。



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