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欲望の感染者  作者: 影山 コウ
第四章 運命を決める戦いへ
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第九十一話 化物と人間の戦い

「な、何をした貴様ァ!!?」


 分厚いドアが溶断され、戸惑いながら武器を構え直す警備達。

 無理もない。数十メートル離れた位置から光線を放ちドアを焼き切る女など、見たことがないだろう。


「怯むな! 結果だけ受け入れてそういう事が出来る敵だと覚えておけ!」


 だが流石に精鋭揃い。リーダーらしき男が命令を下しただけで警備達はすぐに持ち直した。

 統率の取れた動きで焔を取り囲む。


「一斉にかかれ!」


 そして、警備達は一気に焔へと襲い掛かる。


「……っ」


 焔の頬に汗が伝う。逃げ出したくなる気持ちを抑えながら、覚えた能力を正確に放つ。


 赤い赤い、燃え盛る真紅の脚━━!


「『紅の脚(レッドブーツ)』!」


 両足に炎が点き、一番近くにいた警備のどてっ腹を蹴り抜いた。

 防具は焔の熱と蹴りの威力により容易く粉砕され、警備員は数メートル吹き飛ばされた。


「がは……!」

「これは……!」


 焔は思わず驚く。燃え盛る両足からは全く熱さを感じない。それどころか心地よさすら感じていた。まるで元から自分の脚は燃えていたのかと錯覚するほどに。


「怯むな、行け!」


 だがその余韻に浸ることも許されず、警備がどんどん焔へと押し寄せる。だがもう遅い。

 先程までは存在した焔の戦いに対する戸惑いや迷いが、とっくに消えてしまったからだ。


「ふっ!」


 右から迫る警備員の足を払い、姿勢が崩れたところを鳩尾に膝蹴りを入れる。


「はぁ!」


 左から迫る二人の顔面を、少し跳んでから両足を使い同時に蹴り飛ばす。

 着地し、勢いのまま前方へと駆け呆気に取られていた警備員数人を流れるような足刀蹴りで沈めていく。


「くそっ! 強化ゴム弾、放て!」


 近接ではどうしようもないと判断したリーダーらしき警備員は、後方に構えていた警備達に呼び掛け強化ゴム弾を撃たせた。

 ゴムとは言え、まともに喰らえば悶絶もの。並の人間では驚異になる武器ではあるが、相手が悪い。


「『赤の掌(レッドグローブ)』!」


 脚に続いて手にも炎を宿し、ゴム弾を虫でも払うように手で燃やし尽くした。

 こうなってしまえば数も関係無い。手か脚に当たればゴム弾は消滅してしまうからだ。


「この、化物め!!」

「……!」


 警備達から発せられる、恐れを含んだ怒号。

 焔の心を強く傷付ける。


「違う……私は、人間だ」


 振り絞った声は虚しく、誰にも届かなかった。


 ※


「ぐ……あ……」


 ━━数分。

 たった数分で焔は三十人近くいた警備員達を()()()()()()()制圧した。


 結果として望んでいた結果になったものの……焔の心は、能力とは反対に冷めきっていた。


「……すげぇ、な」

「うん……」


 物陰から、蒼貞と生明が呟く。

 焔の迫力に気圧され、他のメンバーは誰も出てこれなかった。


「……先を急ごう。出来れば、次は手伝って欲しいかな」


 焔は感情の籠ってない言葉を発し、溶断されたドアから中へと入っていく。


「……すまん」


 蒼貞は小さく謝罪し、焔の後に続いた。

 他のメンバーも同じようについていく。


 ━━豪華な飾りに彩られた洋館の中を走る一向。

 少し進むごとに警備達が大勢襲いかかってくるものの


「はぁ!」


 時には蒼貞が水で捕らえ


「ふっ!」


 時には榊が圧倒的物量の植物で警備員を縛り付け


「邪魔だ」


 時には黒川が警備の装備だけを殺して無力化する。


 唯一なにもしていないのは生明だが……()()()()()()()()能力であるため全員から使用を止められていた。


「まさかとは思ったけど、私達は能力だけじゃなく……」


 焔は走りながら自分の手のひらを見る。

 恐らく、ゼロ全員が同じことを感じていた。


 ━━身体能力の、異常な向上。

 そもそも、この場にいる人間で元々身体能力に優れていたのは焔と黒川くらいのもの。

 蒼貞は平均的、榊は年齢、生明に至っては運動音痴にあたる。


 が、今の彼女らは等しく人間を超越した身体能力をその身に宿していた。


 装備と合わせて百キロ近くの体重がある屈強な警備達を、片手で投げ飛ばせる膂力。

 放たれた銃弾を、見てから避けられる動体視力。

 軽く小突くだけで警備の意識を消し飛ばせるパンチ力。

 陸上競技のオリンピック選手を二、三週追い越せそうな脚力。


 どれも異常だった。男女の筋力差や老化による筋力の低下などまるで感じさせない。全員が感じ取ったのは、この身体能力は能力を使うために必要な物なのかもしれない、という考えだ。


 これほどまでに強靭な肉体を持たないと、能力に耐えられないのかもしれない。


「……おい、着いたんじゃないか」


 黒川が何かを見つけ、全員が立ち止まる。

 廊下の再奥には、一際大きくきらびやかな扉が見えた。

 先程よりも装備のグレードが上がった警備達と、反対に異様なほど軽装な男が真ん中に立っていた。

 これから先、焔達と長い付き合いになるとある男だ。


「止まってくれ、超人共。ここから先は流石に通すわけには行かないんだ」

「……!」


 焔達は感じとる。強者のオーラを。


「俺は『忍足 誠二(おしたり せいじ)』。お前達が俺らを殺すつもりで行動していないのは良くわかったが、うちのボスに対してもそうとは限らねェ。話をしたいだけならちゃんと場を設けてやるつもりだが……どうだ?」

「……すまない、理由はまだ話せない。そして、戦いを避けるつもりもない」


 忍足の申し出を丁重に断った後、焔は構えた。

 暴れることが目的である以上、止まれないのだ。


 忍足は坊主頭をガリガリと掻いた後、大きく溜め息をついた。


「んじゃあ、やるしかねぇか。構えろ」


 忍足の合図で、重装備の警備達は武器を構える。

 それに気を取られた瞬間、忍足が焔の懐へと潜り込んでいた。


「なっ……!?」

「いくら変な力を使うと言ってもよ」


 忍足は焔の右腕を素早く掴み、肘に右手を当て


「━━人間は人間だろ」


 造作もなく、焔の右腕をへし折った。



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