第九十話 宣戦布告
長らくお待たせ致しました!
「本当に……生き返った、のか」
視界が開ける。
先程までいた白い部屋とは全く違う景色。どうやら夜の公園のようだ。
焔以外にも四人の男女の姿が見えた。ゼロと呼ばれた人は全員生き返ったようだ。
焔はしばらく黙っていたが、埒が明かないので四人の元へと近寄った。
「……私は焔燎子。貴方達の名前も聞かせて欲しい」
どうせ一度は死んだ身。事細かな自己紹介をしたところで大した意味はない。そう思いながら焔は簡潔に自己紹介をする。
一番初めに、青い髪色の長髪の男が反応した。
「出水……出水蒼貞だ。マジで死んでたんだな俺……」
「どうやら、そのようです」
「まじか……」
蒼貞は苦笑いを浮かべていた。どうしようもないことに対面したとき、人間は笑みを浮かべることもある。
次に反応を返したのは、とにかく全身が黒い男だ。女性の中では背が高い焔ですら見上げるほどの長身だ。
「…………黒川終次」
「よろしく。背が高いね」
「……」
沈黙。名前以外分からず焔も固まる。
その空気に耐えかねたように五十半ばほどの年齢に見える紳士風の男性が声を掛けてきた。
「どうも、榊正剛です。命に執着があったわけではないですが……世界が滅ぶなんて聞かされたら、ねぇ?」
「え、ええ。見て見ぬふりなんてとても……」
「ですよねぇ」
優しく微笑む榊。
少しだけ安心した焔は最後に少女の方を見た。少女は視線に気付き、目を反らしながら口を開く。
「生明命音。……アタシ達は生き返って、その代償に……この世界でいないものとして扱われるのよね? そんなの……」
「……そうだな」
「うっ……うう……」
生明はよほど辛かったのだろうか、泣き出してしまう。
「気持ちはわかるが落ち着くんだ。一度死んだ人間が生き返るなんてあり得ない話だ。正直、あらゆる人間関係を断ち切ってもまだ足りないくらいの代償だと思う」
「なんで落ち着けるのよ……! せっかく生き返ったのに、この世界にいた友達や家族は皆こっちのことを忘れてる……これが落ち着いていられるワケ無いじゃない!!」
「……」
きっと、生明は友人や家族に恵まれていたのだろうなと焔は思った。
生に執着する人間ほど、今焔達が置かれている状況は重く苦しいもの。
生き返ったのに、孤独。真の意味で仲間と言えるのは……今この場にいるゼロのメンバーだけなのかもしれない。
やがて生明は泣き止む。そのタイミングで公園の中心に淡い光がポツポツと現れた。
「蛍……?」
「━━いいえ、違いますよ」
光は人の形へと拡がり、ヨシュアが現れた。
白い部屋にいたヨシュアは違和感があまり無かったが
なんの変哲もない公園に現れると、より一層異質さが際立った。
「また会いましたね、皆さん。ヨシュアです。早速ですが皆さん、能力の詳細と使い方はもうバッチリですね?」
ヨシュアは笑顔でそう話す。
焔も自身に渡された能力について身体に教え込まれた。あの無機質な空間で。
何日いたのかも焔には分からないが、そのおかげで手足のように扱えるだろうと確信していた。他の皆も同様である。
「焔さんにはこの僕が教えましたが、他の方々も担当者から教え込まれた筈。なら、やることは一つですね」
「本気なのかよ……?」
蒼貞が呆れながら言葉を溢す。
ヨシュアは笑顔で頷いた。
「ええ。首相官邸へ向かいましょう」
「……!」
首相官邸。簡単に言えばお国のトップが仕事を行う場所だ。
当然ながら平和なこの国でも特に警備が多い場所。特殊な装備に身を包んだ護衛がわんさかいる所である。
「あ、ただ会いに行くだけじゃないのでコッソリ侵入なんてのは無しですよ? というか出来ませんが。犯行予告出しときましたし」
一同はその言葉に、固まる。
「まって。聞き間違いかな……今なんて?」
「ですから生明さん。犯行予告を総理大臣に出しときましたよって話です。ちょこーっと騒ぎを起こした後にね。今や首相官邸は大騒ぎ、過去見ないほどの警備の数になっている事でしょう」
「………………」
またしても固まる一同。
もはや、後には引けないのだと全員が覚悟した。
「更に! 向こうは加減しないでしょうが、こちらは絶対に人死にを出さないこと! 全身を武装した屈強な警備を、こちらは殺さず無力化することで力の差を分からせるのです」
「貴方は無茶しか喋らないな……」
「何を仰いますやら焔さん。こんなもの、無茶の内にも入らない。これから先、武装した人間よりももっと凶悪な感染者を相手取ることになるんですよ?」
「それは……」
確かにその通りだと思いながら焔は唸る。
ただの人間くらい軽くあしらわなければ、この先はもっと厳しくなるのだから。
「さて、行きましょうか。えい」
ヨシュアは指を鳴らす。すると、一瞬にして首相官邸の近くまで瞬間移動させられた。
あり得ないことの連続で、全員は特に驚きもしなかったが……見えた光景に血の気が引いた。
「そ、想像よりもこれは……」
榊は冷や汗をかく。それもその筈、官邸の前には……夥しい数の警備員が集まっていたからだ。
警棒、盾、銃……各々がしっかりと装備をしている。当然人間そのものも鍛え抜かれた精鋭揃いである。
「……イカれてる。……これに今から……突っ込むのか……?」
「はい、黒川さん。ご安心下さい、貴方達に渡した力ならこの程度の障害、どうにでもなります」
ヨシュアにそう返され、黒川は溜め息をついた。
「……もういい、そのやり取りも疲れた。やるなら私から行ってやる。皆、覚悟だけしといてくれ」
焔は痺れを切らし、官邸の前へと歩を進めていく。
当然、警備の目が焔へと向いた。
「何者だ! そこで止まれ!」
「ふー……」
向けられる敵意と銃口。感じたことのない恐怖に手は震えるが、身体は驚くほど冷静に動いた。
人差し指を出し、官邸の大きな扉へと指を向けた。
「━━━━『朱の指』」
指からは高熱のレーザーが放たれ、大きく堅牢な扉を容易く貫いた。
射線上に誰もいないことを確かめながら、そのまま焔は下へと指を下ろし……扉を真っ二つに溶断した。
さながら、ガス切断器。人の身でありながら、鉄をも焼き切る高熱を放てる存在になっていた。
「なっ!?」
驚く警備達。
「もう、自棄だ。行こう、皆!」
どうにでもなれと思いながら、焔は官邸へと走り出した。




