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欲望の感染者  作者: 影山 コウ
第四章 運命を決める戦いへ
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第八十八話 二度目の生

 あの日、(ほむら)燎子(りょうこ)


 街中で突如、フードで顔を隠した性別も年齢も分からぬ人間に刃物で刺され━━死亡した。

 創作のように、ドラマティックな死を迎えるとは少しも思ってはいなかったが。

 それでも、もう少しは意味を残せるんじゃないかと思っていた。


 結局、焔燎子は何も残せずに事切れた。簡単に、呆気なく。


 ……()()()()に知ったことだが。

 両親に恵まれ、環境に恵まれた私は……多くの人間から暗い感情を向けられていたらしい。

 その結果が、これだ。勝手に疎まれ、僻まれ、恨まれて殺された。


 私はただ、自分らしく生きていただけなのに。


 私の……人間としての人生はここで終わった。筈だった。


「ようこそ、焔さん」

「え━━?」


 次に目が覚めたのは、何もなく途方もないほどに広い部屋だった。

 一切の濁りの無い白色の壁がやけに脳に焼き付いている。

 眼前で椅子に腰掛けていた男もまた、純白に身を包んだ中性的な男だった。


「自己紹介がまだでしたね。私は『ヨシュア』。それで、私がどういう存在かと言いますと……うーんそうですねぇ。分かりやすく言ってしまうなら」

「━━『天使』、ですかね」

「てん、し……?」


 天使。天の使い。神の忠実な(しもべ)

 最初は何をふざけた事を言っているのだろうと思っていた。

 確かに独特な雰囲気を纏ってはいたものの、どこからどう見てもただの人間にしか見えなかったからだ。


「まぁそう思うのも無理はないですね。ですが本当ですよ」

「……!?」


 男はさも当然のようにこちらの心を読んできた。

 不思議を通り越してもはや不気味だった。


「……貴方が天使がどうかは一旦置いておきます。それよりも、私は……」

「ええ。死んでいますよ。心臓にナイフが突き刺さって即死です。あまり苦しまずに死ねたのは幸いでしたね」

「━━何が幸いだ、死んだんだぞ? 何も……遺せずに……!」


 刺された瞬間のことはしっかり覚えていたから、本当に自分は死んだのだろうと自覚はしていた。だが、まるで何事もないように自分の死を軽々しく語るヨシュアと名乗る男に本気で怒った。


「……すいません、侮辱する意図は無かったんですが。どうにも私はデリカシーとやらが足りてないみたいです」

「……」

「これ以上余計なことを言う前に本題に入らせて頂きますね。━━焔さん。貴女は……()()()()()()ですか?」

「え……?」


 思ってもない提案に困惑した。


「無論、条件はありますけどね。私達の仕事……使命と言い換えても構いません。それの手伝いをしていただくことになりますが」

「その手伝いとは……?」

「一言で表すなら……貴女達が生きる世界を()()()()()()()()()


 まるで意味がわからず、言葉が詰まる。


「順を追って説明しましょうか」


 ヨシュアは無からホワイトボードらしきものを取り出し、なにやら文字を書いていく。


「『パラレルワールド』って知ってますよね?」

「……もしもの世界。今ある現実とは異なる、存在したかもしれない世界のこと……ですよね」

「それで大体合ってます。要は左右に別れた道を右に曲がるか左に曲がるかで世界が分岐しますよって考え方ですね。当然ながら現実の人間が右を選んだならば、左を選んでいたらどうなっていたかなんて分かりもしないし存在すらしていない。でも、それはあくまで()()()()()での話だ。私達はそのもしもを()()()()()

「!?」


 話したことをホワイトボードに書き記しながら、更にヨシュアは続けた。


「過去から今。途方もない数のパラレルワールドを私達は同時に見ることが出来る。人間なら耐えられず脳が壊れて死ぬくらいの情報量になりますねぇ。……そして、信じられないことにこの先の未来では()()()()()()()()()()()()()事が分かっています」

「……貴方の話が本当だとするなら、途方もない数の未来がたった一つしか残らないというのか? 有り得ないだろう」

「正確には、一つの世界しか節目を越えられないんです」


 ヨシュアはため息をつく。


「私達天使は未来を見る権利がありませんが、過去と今のあらゆる事象から予測は出来ます。その予測から導きだされた未来が、滅び。人類の滅亡となりました」

「その滅びを回避する為には、私達が力を与えた人間が複数人必要になる。その内の一人が……」

「私、か」


 ヨシュアは満足そうに頷く。


「……聞きたいことは山程あるし、全て飲み込むのは無理だから全て事実だと仮定して質問をしたい」

「うん、賢い人だ。どうぞどうぞ」

「何故人間を使う必要がある? 滅びを回避したいのなら貴方達が直接介入すれば済む話だろう」

「答えましょう。私達天使は現世に直接介入出来ないからです。人間として潜入することこそ可能ですが、世界の滅びをどうこう出来る程の力は出せません」

「だからこその『代役』。純粋な人間を使った私達の代行者が必要になるのですよ」


 馬鹿馬鹿しいと一蹴するのは簡単だろう。だが、そうもいかない。先程とはまるで違うヨシュアの雰囲気が、話が本当であることを嫌というほど語っていた。


「……話を戻そう。貴方達の話を聞いて世界が滅ぶと分かっている唯一の人間になれたとして、どうやって私や他の数人が世界を救えるんだ? 今のままじゃナントカの予言に踊らされるカルト信者と大差無いだろう」

「まずは、土台を作っていただきます。これからの世界に対応する準備が要りますから」

「土台……?」


 ヨシュアは妖しく笑い、言った。


「これから産まれ落ちる感染者達を━━束ねていただく為に」



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