第八十三話 爆発、そして
「くそっ、一体なんだよ!?」
都心にて、大暴れするキメラ達を倒しながら歩を進めていた最中。
大気を震わす程の衝撃と音を聞き、全員でその場に向かっていた。
「爆発……それも二ヶ所から聞こえたね」
「そうだな。片方は音が鈍かったし室内……いや、地下か?」
「そうかもね、ジンタロー。衝撃も薄かったしそっちは」
狼に変身し全速力で走るアキラの背に乗り、近いほうの爆発箇所へと向かっていた。
「し、しかし速いなぁアキラ……ちょっと怖いぜ」
「慣れてね、イクサさん。急ぐからね」
「う、うん」
俺の腕にしがみつきながらイクサさんは青ざめていた。確かに慣れるまではアキラの背中は怖い。なんせ速いからな。それは分かるが離れて欲しいが。
そんなことを思いながら数分後、崩壊したマンションが姿を現した。爆発があった場所はここか。
「こりゃひでぇ有り様だ……ミサイルでも飛んできたのかよ」
梶さんは苦い顔をしながら、瓦礫の山となったマンションを見る。しかし、何故マンションだけこんなことに? 周りの住宅はこれといって壊れていないことから、マンションだけを爆破したと見て間違いなさそうだな。
違和感はまだあった。
「人が住んでた形跡が無い……マンションなのに?」
思わず口に出す。そう、崩壊したマンションの瓦礫からは部屋の住民らしき遺体や、生活の跡が一切見当たらなかった。
有り得ないだろう。マンションが爆発し一瞬で崩壊したとするなら、逃げ遅れた住民がいる筈だ。当然、いない方が良いに越したことはないが。
「確かに。人の匂いもしない……いや、僕達以外だと二人分だけ……?」
「人がいるのか!? なら早く助けないと!」
「落ち着きなよレイラ。確かに人の匂いはするけど……出血してないから怪我もしてないよ。丁度瓦礫の中心らへんかな?」
アキラが指した方向を見ると、瓦礫の山の中心が禍々しい黒色に染まっていくのが見えた。そして、中心から二人の男女が姿を現す。
見覚えのある男が見え、俺と梶さんは思わず構えを取った。
「お、お前!」
「また来やがったのか!!」
黒色の円から出てきた男は黒川だった。以前、俺や梶さんを襲い、圧倒した男だ。
だが当の黒川は呆けており、背負っていた女性をゆっくりとその場に下ろす。
女性は気を失っているようだ。誰だろう?
「む……お前達か。こんなところで何をしている」
「こっちの台詞だよ黒川。お前こそ何をしてるんだ?」
梶さんは武器を構え、黒川に問う。
黒川は溜め息をつき搔き上げていた髪の毛を下ろす。
「……組織と、キメラの襲撃から……作田を守っていた。……キメラが自爆し、このマンションごと崩壊した」
「襲撃……それに作田ってまさか」
「ああ……その作田だ。私はその護衛だからな……」
「な、なるほどな」
黒川は気だるげに話した。作田……支部の訓練室を作った能力者って話だったな。女だったのか。
にしても……マンションが崩壊するほどの爆発を受けて無傷かよ。規格外だな。
「ねぇ、この人は?」
「……黒川。話すと長くなるから割愛させてくれイクサさん。とんでもなく強いってことだけ分かればそれでいいんで」
「んなもん見りゃわかるさレイラ。……焔さんと同類かなーこの感じは」
黒川は会話を終えると再び作田を背負い、その場から去ろうとする。
「お、おい。何処に行くんだよ?」
「作田を……本部の医療施設へ連れていく。死にはしないが……念のためだ……」
「……理由は分かったが、あんたは手を貸してはくれないのか?」
「手を……貸す? その必要は……無い……私の役割では無いからな……」
意味深な事を言い残し、黒川は一瞬でその場から消えた。
※
「こっこちらA班! 脱獄犯の勢いが止まり━━ぐぁ!!」
「こちらD! 制圧失敗! 既に何人もの犯罪者が外に━━」
耳元に鳴り響く悲鳴。
それを聞きながら伊達は立ち尽くしていた。
「……くそっ!」
「ぼさっとするな、伊達! 僕達が今動かないでどうする!」
「反田……! あぁ、その通りだな」
伊達は反田の言葉で我に返り、爆発で半壊し混乱状態の監獄へと走る。
すると犯罪者、警備兵が入り乱れる戦場と化した監獄に
「……」
一人の、侍が立っていた。
「……誰だ? アイ━━」
瞬間。目にも止まらぬ速さで侍は刀を振り、反田の身体が真っ二つに切断された。距離は五十メートル以上離れている。
「ッ『今の━━」
「遅い」
反田の死を無かったことにしようとする時枝も、一刀の元に首を切断された。能力は発動すらしていない。
一瞬にして相棒二人が殺され、伊達は怒りを迸らせる。
「テメェ!! 殺してやる!!」
能力を発動させ、音速並の速度で走る伊達を嘲笑うかのように
銀髪の女がふわりと伊達の目の前に割り込んできた。
「貴方の能力、良いですね」
女はそっと伊達の身体に触れ、一瞬にして伊達は速さを失った。まるで、一般人に戻ったかのように。
「な、なんで……」
「ほんとはさっきの女の子の能力が欲しかったのですけど、剱持さんが殺してしまいましたし。ま、こっちも使い道がありそうですわね。ありがとうございます、伊達君。『円削』」
女は再び伊達の胸に手を触れると、今度は見えない何かが手から放たれ……伊達の胴体を貫いた。
「く、そ……」
伊達はそのまま倒れ、死亡した。
解き放たれた犯罪者と、未知なる強敵二人。
組織は着々と、準備を進めていた。




