第八十二話 ツヴァイの役割
「くっ! 硬いぜこりゃあ……!」
伊達は何度も殴り付けた後、後ろへと下がる。
鋼鉄よりも遥かに硬いソレをいくら殴ってもヒビすら入らない。
「く……くく……」
その後ろで、兵士に捕らえられた火室が絞り出すような笑いを溢した。
「ツヴァイが自爆モードに入ったな……! そうなっちまったらもう無駄だ、誰であろうと中断出来ない!」
伊達が殴っていたのは、体を団子虫のように丸めたツヴァイだ。
自爆モードに入ったツヴァイの硬さは尋常ではなく、正攻法ではどうしようもないと誰もが悟った。
「自爆……なるほど、監獄を爆発で吹き飛ばそうという腹だな……!」
目的は分かっても、おそらくこのまま殴り続けても無駄であることを悟り、ギリリと歯を食い縛る伊達。
「皆引け! 爆発の範囲がわからない以上、出来るだけ遠くに!」
「り、了解!!」
反田は警備兵に呼び掛け、先にその場から離れさせた。それを確認した後、伊達の元へと走る。
「伊達、僕たちも離れよう」
「だが、コレを野放しにするわけにはいかねぇだろ!」
「わかってる! だから監獄内には既に連絡を入れた! 今は無駄な死を減らすことに集中すべきだ!」
「っ……クソ!」
伊達を説得した後、三人共その場から逃げた。
爆発まで、後わずか。
※
「ちっ……!」
空。あの女に飛ばされた場所は遥か上空だった。幸い作田のいるマンションの真上ではあったが、ただ落ちるだけの時間がもどかしい。
「着地は大丈夫、だが……作田のいる地下まで階段を使い向かうには遠すぎる……か」
しかたない。どうせマンションには人がいないんだ。少々、手荒に行く。
「『黒纒』」
死の能力をマントのように全身に纒い、マンションの屋上へと着地する。するとマントに触れた部分が溶けるように崩壊し、落下のスピードを保ったままマンションをどんどん貫通していく。
十、九……階層を頭の中で数えながら、作田のいる地下まで向かっていく。
そして、その時が訪れた。
「ふっ!」
タイミングよくマントを脱ぎ捨て、マントを剣へと変化させ床に突き刺す。そうすることで落下の威力を殺し、何の反動も無く着地に成功した。
近くには、ツヴァイと呼ばれていたキメラが踞っていた。理由はわからないが、動く様子はないようだ。
「━━作田ッ!」
回りを見やると、作田のいる部屋の扉が開いていることに気が付きすぐに中へと入った。
中に入ると……倒れている女と、悲しそうに目を伏せながら立ち尽くす作田がいた。
安心し、思わず息をつく。
「……無事、だな」
「ン、まぁね」
……何故悲しそうなのか。その理由はなんとなく察したが、黙った。
お互い命を賭けた戦いだったんだ。同情など、失礼だろう。
「作田、アイツはなんだ?」
「わかんない。この人が死ぬ間際、あのキメラに何か指示を出したみたいだネ」
この人というのは、部屋で事切れているテレポート女のことだな。
指示と来たか。何か……嫌な予感がする。
「作田、部屋の奥に行け。あのキメラは私が対処する」
「うん。気を付けてネ」
部屋から出て、扉を閉める。……何かあったとしても、作田のいる場所は核にも耐えるシェルターだ。
今更、キメラが何をしようが問題は起きまい。そんなこと、敵もわかっているはずだが。
「……ま、なんにせよ」
影から剣を取り出し、丸まっているキメラに向ける。
「殺せば終わりだろう」
剣を振り、キメラの身体を袈裟に斬る。終わりだ。
━━その筈だった。
「っ!?」
斬られた痕が真っ黒に拡がり、キメラの身体は確実に滅び始めている。
だと言うのに、エネルギーが急激に増し始めた。死に行くだけの身体の何処にこんなパワーが?
「……なるほど、判断を誤ったな」
自分の中で答えを出し、私は能力で身体を覆い始める。
こいつは、始めからこれが目的で作られた存在なんだ。
死ねば止まる? 逆だ。
こいつは……死ぬことが条け━━━━
※
……ほの暗い空間で、モニターを見ながら俯く男がいる。真殿だ。
「ツヴァイが自爆を始めた、か。じゃあ……マドカさんは……」
はぁ、とため息を付きながら真殿は椅子に深く座る。
「バカだぜ、アンタ。確かにこの作戦が成功すれば組織にとっちゃ良いことづくめだろうけどよ」
「━━アンタが幸せになれなきゃ意味ないだろうが」
……真殿はしばらくしてから立ち上がり、白衣を脱ぎ捨て何処かへと歩いていく。
「……これで手札は揃った。あとはボスが誰を選び、いつ始めるかを決めるのみ。……ボス、アンタは誰を選ぶんだろうな?」
懐からたばこを取り出し、火を付ける。
都心の暴動も、終わりが近い。
その次に何が起きるのかは……真殿ですら分からなかった。




