第七十六話 決断の時
「━━楓。支部へ戻れ」
レイラ達がここを発ってから十五分程過ぎた頃、突如として大量のキメラが支部の近くに出現した。まだこんなにも潜んでいたのか。それとも、新たに補充したのか?
「いいえ、と言いたいとこですけど……素直に下がります。代わりに、補佐はおまかせください」
「ああ。頼むよ」
では、と一言告げ楓は支部へと走る。
私は連絡用のインカムを装着し、深く息を吐く。
……一般人は黒子のおかげで退避済み。だが後ろには支部がある。ここを通すわけには行かないな。
「二十、いや……三十か?」
見えている範囲でキメラの数を数えるが、おおよそ三十体と言ったところか。多勢に無勢、絶望的な状況と言えるだろうな。
これは、手を抜いてどうこう出来る相手じゃない。
「『紅蓮青龍』、舞え」
手から上空へ炎を放ち、炎は巨大な龍の姿へと形を変えた。多人数なら青龍が最適だ。ひとまず、数を減らしてやる。
「焼き尽くせ」
簡単な命令を告げ、龍は口に炎を蓄え……放射状に解き放つ。
「ぐギャああああッ!!」
複数のキメラが焼かれ、聞くに耐えない断末魔をあげる。炎に耐性が無いのなら、後は青龍が殆ど倒してくれるだろう。問題は、だ。
「━━ウォアアアアッ!!」
「グルゥアア!!」
炎を縫って、五体のキメラがこちらへと走り寄ってくる。やはり、青龍だけでは倒しきれないキメラもいたか。
「『朱の脚』! ハッ!」
先に近寄ってきたキメラの顔面を、燃え盛る脚で蹴り付ける。が、無傷。
炎そのものに耐性があるみたいだな。なるほど、私対策か。
五体のキメラからの攻撃を避けながら、今度は両手に炎を纏う。
炎……つまり熱に耐性があるのならば。これならどうだ?
「『紅蓮白虎』、『纒』」
両手には巨大な爪が現れ、熱が周りへと解き放たれる。
この爪は、本来ならば切り裂くと同時に炎熱で焼く能力だ。だが。
「裂くだけならこれで十分だろう?」
一体のキメラに狙いを定め、素早く両手を振りキメラの四肢を引き裂く。
体勢が崩れたのを確認し、右足を高く振り上げる。爪先に炎を集中させ、ジェットのように迸らせその勢いのまま振り下ろす。
「砕けろ」
かかと落としはキメラの頭蓋に当たり、そのまま地面ごと粉砕する。
……熱対策だけで私の対策とは笑わせる。まさか、これで終わりじゃあるまい。
そのまま一気に残りの四体の頭を爪で引き裂き、亡骸を蹴り飛ばす。
キメラも元は人間……とはいえ、もう助からない。悪いが躊躇は無しだ。
「━━相変わらず化物だな」
「む?」
突如、少女の声が上から聞こえた。ビルの屋上か?
「私達を覚えているか、焔っ!」
「……!」
屋上には、見覚えのある双子が立っていた。
前の襲撃で戦った組織のメンバーだな。……片方は殺したと思っていたが、生きていたか。
「ああ、覚えているよ。音と、風の能力の双子だな?」
「驚いた、化物でも人の顔は覚えていられるのだな」
「やっほー! 前は貴女に殺されかけたよ! ムカつくね!」
双子はいつもの調子で話す。
……レベルが上がっているな。まさか、進化を?
「リベンジ……もしくは弔い戦か?」
「残念ながら、今回は私達は戦わない。ただの監視だ」
「監視だと?」
どういう意味だろうか。
意味を考えていると、突如街の奥からじっとりとした嫌な気配が現れた。
「勘違いするな、焔の監視をするわけじゃない。新型の監視さ」
気配はゆっくりとこちらに近付いてきており、そして眼前に現れた。
「━━━━」
白い肌、女性的なしなやかな肢体。キメラと違い、身長は私よりも低い。整った顔立ちをしており、眼は閉じたままだ。
これだけならば、肌色以外は普通の女性に見える。しかし、肌に突き刺さる嫌な気配がそれを否定していた。
こんなものが、新型のキメラだと言うのか。
「『アイン』、奴を殺せ」
アイン……ドイツ語で一を表す名を持つこのキメラは双子の姉の一言により、眼を開けた。
螺旋状の模様があるその眼は虚ろだ。だが、明らかにこちらへと殺意を向けていた。
「……お手並み拝見、と言ったところかな。『紅蓮玄武』、『纒』」
こちらも構え、左手に亀の甲羅のような盾を出現させた。あらゆる攻撃を熱と単純な硬さで防ぐ盾だ、そう簡単には突破させない。
指示を受けたアインとやらは、何故かゆっくりと口を開き
「はい」
はっきりと、返事をした。
「な━━」
言葉を使う知能すら失った筈のキメラが喋ったことに意表を突かれ、アインから放たれた攻撃に一瞬反応が遅れてしまい
「がッ!?」
左腕が、切り落とされた。
「左腕切断。命令を続行します」
激しい痛みに耐える最中、アインはさらに追撃をしようと鞭のようにしなる腕を上下左右から叩き付けてきた。
「ちっ!」
咄嗟に後ろへと下がり、攻撃を回避する。落とされた左腕は遥か後ろまで飛ばされており、攻撃力の高さに戦慄する。
腕を斬られるなんて初めてだ。このキメラ、かなり強い。
「腕を落とされたな。どうだ、焔。アインは強いだろう?」
上から、くすくすと嘲笑う双子の声が聞こえる。
これが新型か。言葉を発するだけの知能、凄まじい速さで放たれる鞭のような腕。容易く腕を切り落とす凄まじい殺傷能力。どれも通常のキメラでは考えられない特徴だ。しかも左腕を真っ先に狙った辺り、私の能力を警戒している。ただ力が強いだけでは無いな。
「……中々、やるね」
素直に称賛し、残った腕に炎を集中させる。
指で空中に炎を散布し、操る。
「『朱の弾幕』」
散布した炎は細かなレーザーとなり、アインへと放たれる。
一本一本の厚みは爪楊枝ほどの細さしかないが、どんなものも貫く貫通力がある。蜂の巣にしてやる。
「危険を察知。防御します」
が、アインはその場で止まり、鞭のような形状だった腕を変形させた。
それは大きな盾の形へと変化し、レーザーを全て受け止める。
バカな。貫通しないだと? 何事かと様子を見ると、気が付いた。
「なるほどな。これが新型の特性か」
あろうことか、盾へと姿を変えた腕は凄まじい速さで再生を繰り返しており
炎が貫通するより先に肉が再生している。
アインは、今までのキメラよりも再生力が異常に高い……!
「……どうしたものかね」
止血した左腕を触り、己の血を見やる。
━━使うしか、無いのか?
しばらくペース落ちます。




